デート
「はい、頼まれてた物」
「…………ありがとう」
ふてぶてしく、雪浜さんはお礼を言った。
そう、俺は今、なんの因果か雪浜さんと一緒にいるのだ。
というのも、お化け屋敷でゾンビが出たと言って騒いでいたのは、まさかの雪浜さんだったのだ。係員に連れられて明るい所に出た途端、俺たちは相手が誰だか知ったのだ。
「「…………」」
気まずい空気が流れたのも束の間、オリガミちゃんの案で俺が雪浜さんに飲みたい物を聞いて、そして今に至る。
「……あなたは飲まないの?」
「え? あ、ああ。俺だけ飲む訳にもいかないからさ」
オリガミちゃんは、物に触れない。
限定的に、俺が触っている物、俺の家の中なら話は別ではあるが、液体に指を突っ込む訳にも行かないので、外で飲み物を飲めるわけがない。
「ご主人……今は、吾輩のことを気にせず、女子ののことだけを考えろ。これじゃな、ご主人がモテんのは……」
だが、当の本人から駄目出しされた。
雪浜さんを見ると、確かに少し訝しがな顔をしている。
そうか、雪浜さんには俺しか見えてないのか……。俺『だけ』と言われても、意味が分からないだろう。
俺は慌てて弁解しようとするが……パッと思い付いたのがあれしかない……。
あ、あれを言うのか……で、でもだんだん雪浜さんの顔が不審者を見るような目になってるし……言うしかないのか……っっ!!
「ほ、ほらあれだよ! 交通事故に遭った彼女とデートに来ているからさ!」
「ご主人、それは本当に意味が分からんぞ」
グッ……だよなぁ! 死んだ今も相手のことが忘れられないみたいで、雪浜さんとは付き合えないって言ってるようなもんだもんなぁ……!
雪浜さんの好感度を上がりにくくしたかも知れない……!!
「お化けと一緒に化け屋敷だなんて、冗談が上手いのね。喉が乾いていないならそう言ってくれれば良いのに」
あ、あれ……?
なんかよく分からないけど、もしかして雪浜さん……勘違いしてる?
「あ、あはは……そ、そうなんだ。喉があまり乾いてなくてさ」
これは嘘じゃない。
飲み物を買うと、高確率で「彼女さんの分を……」とか言ってもう一つ渡されるのだ。
オリガミちゃんが触れる物は、俺が触っている物と俺の家の敷地内にある物だけ。だから、遊園地でドリンクを飲むことはできない。
結果的に俺が二個とも飲むことになったので、喉は乾いていない。
「ふぅん…………」
「…………?」
雪浜さんが、ジィーと俺のことを見てくる。
な、なんか恥ずかしいな……。
「でも、それはそれとして、なんで貴方は一人で遊園地なんかに来ているのかしら?」
「えっ? そ、それは…………ゆ、雪浜さんはどうなの? 雪浜さんも一人みたいだけど」
「私は一人じゃないわよ。妹がいるわ。遊園地みたいな絶叫……騒がしい場所は、個人的にそこまで好きじゃないのだけれど……妹がどうしてもと言うから」
雪浜さんに聞き返すことで話題を変えよう、もしくは雪浜さんが答えている間に言い訳を考えようと思っていたのだが、俺の浅はかな考えは一緒で撃沈した。
てか、そりゃそうだよな。雪浜さんみたいな人が、一人で遊園地に来るわけないか……。
「それで、貴方はどうなの?」
「そ、それは……」
「ご主人、チケットを貰ったと言っておけ」
オリガミちゃんが耳元で指示を出した。
突然耳元で囁かれて、俺は思わずゾクリとする。
「……チケットを貰ったんだよ。暇だったし、行かないのは勿体ないからね」
「ふぅん…………律儀なのね」
「お、中々良い反応ではないか? ご主人、キスじゃ! このまま押し倒せ!」
「(いや、しねぇよ!)」
耳元で一人ハッスルしているオリガミちゃんに、俺は雪浜さんに気付かれないようにツッコミを入れる。
てか、オリガミちゃんは俺のことが好きなんじゃねぇのかよ……。
「(キスとかって……しても良いのか?)」
「ふぇ!? そ、それは……その……ご、ご主人がしたいのなら吾輩は別に構わないというか吾輩はむしろして欲しい! ……い、いややっぱなんでもないのじゃ!」
まじかよ……オリガミちゃん、寝取られて興奮する性格なのかよ……。
俺に他の女の人とキスして欲しいとか……流石好感度1000は言うことが違うな。
「で、でもそうじゃな。ご主人は遠慮せんで良いと言うか……し、したい時は言ってくれ。わ、吾輩の心の準備はいつでも完了しておるから……」
「………?」
なんでオリガミちゃんは、俺の方に顔を向けて目を閉じているんだ? なんでちょっとだけ唇を突き出しているんだ?
…………分からん。
「…………ねぇ、恋ノ宮くんはこの後どうするの?」
と、雪浜さんが飲み物をかき混ぜながら聞いてきた。
この後か。予定ではオリガミちゃんと遊園地デートの練習だったが、ターゲットとエンカウントするとは思わなかったし……。
というかそもそも、遊園地があまり好きではないと言っているのに、遊園地デートの練習をする必要はないな。
「(どうしたいオリガミちゃん?)」
「わ、吾輩か? 吾輩は……そうじゃな、やはりここは引くべきじゃろう。休日に会う、ただそれだけの小さなことでも、女子は運命と感じるものなのだ」
「(へー…………)」
そういうものか。
「(ちなみにソースは?)」
「楓から借りた、しょうじょまんが?とか言う書物じゃ」
信用して良いのか一気に不安になったぞ?
でも、確かに好かれてもいないのに一緒にいようとするのは良くないかも知れない。
「帰ろうと思ってるよ。と言っても、帰っても何もすることはないけど」
「いや、いちゃいちゃ……じゃなくて女子を喜ばせる練習をするぞ?」
今イチャイチャって言っただろ。
「そう…………なら、ここでお別れね。私はそろそろ妹を見つけに行くわ」
「ああ、じゃあまた月曜日に、雪浜さん」
「ええ、恋ノ宮くん。飲み物、ありがとうね」
雪浜さんは小さく微笑んで、そのまま妹さんを探しに歩いて行った。
「さて、ご主人、帰るとするか」
「え? 何言ってんだ?」
「む?」
キョトンとするオリガミちゃん。
おいおい、何を言ってんだよ。まだ帰るわけには行かないだろ。
「あれとあれに乗りたいんだろ? せっかくのデートなんだから、存分に甘えて良いんだぞ?」
色々と歩き回っている間、オリガミちゃんが二つの乗り物に特別な興味を示していたのだ。
それは、メリーゴランドと、観覧車。
メリーゴランドを一人で乗っているように見えるのは恥ずかしいが、オリガミちゃんのためだ。一肌どころか二肌脱ごう。
俺がオリガミちゃんの頭をポンポンと叩きながらそう言うと、オリガミちゃんは嬉しそうに、
「やっぱり、ご主人はご主人なのじゃ!」
そう言って、俺に抱きついてきた。




