世界観を意識して!
「ひぐっ……うぐぅ…………」
進み続けて出口が近づいてきた頃には、オリガミちゃんはもう限界を迎えていた。
このお化け屋敷も昔と内容を変えているらしく、今は閉鎖されたミラーハウスに肝試しに行った子供たちを、化け物たちから連れ返すことをテーマにしている。
だから最初の方に鏡があったんだな。
「もうやだ…………グス……」
最初はあまり怖くなかった(オリガミちゃんは怖がっていたが)のだが、途中から異次元の世界に閉じ込められた様子を表す装飾になっていて、それは俺でも結構怖かった。
少し不気味なファンタジー感あふれるミラーハウスゾーンから、突然狂気溢れる化け物の世界に連れ込まれるのだ。
身体の一部部分を化け物に変えた子供たちが、「助けてよ……」と血の涙を流しながら訴えてくる所なんか、本当に怖かった。
俺は何度もギブアップを提案したのだが、その度にオリガミちゃんは頑固に続行を提案してきたのだ。
結果として、オリガミちゃんは限界を迎えた。
今ではもう、俺が抱っこしてるからな。
おんぶだと背中が怖いから前から抱き付きたいのだと涙目で言われては、俺もオリガミちゃんに強くは出れない。
「ほ、ほら……もうそろそろ終わるから……」
「うん…………ッグス」
コアラのように俺に抱き付いてくるオリガミちゃんの背中を優しくさすっていると、徐々に嗚咽が止んできた。
俺の胸に耳を押し付けて、心音を聞いていたのが役に立ったのだろうか。
「最後は暗闇か……。行けるか?」
「うん…………」
オリガミちゃんは弱々しく頷き、頭を俺の胸から離した。
終わりが近付いてきたことで余裕が出たのか、「えへへ……」と恥ずかしそうな笑みを浮かべる。
「じゃあ、さっさと出口に────」
行こうか、そう言おうした時、後ろからコツンコツンという足音が聞こえた。
「…………え?」
足音の間隔は短いから、早足で歩いているのだろう。それはまるで、俺たちを追いかけてきたような……。
「ご、ごひゅじん……っっ!!」
前から抱き付いているせいで、俺の背後を見てしまったオリガミちゃんが、顔を恐怖に強張らせる。
今日で一番強く抱き付いてきた。
「ご……ご主人……後ろ…………!!」
「…………!!」
ゴクリと唾を飲み、俺はゆっくりと後ろを振り向く。
すると──
「…………」
「…………」
男の人と、一瞬目が合った。
「…………」
だがすぐに、その男の人は無言で俺たちを追い越し、スタスタと暗闇の向こうに消えて行った。
人間離れした歩き方。指先にまで神経の行き届いた、あまりにも綺麗なフォームだった。
な、なんだったんだ今の……違う意味で怖いんだけど……。
幽霊に後ろから追いかけられたように思ったし、結構怖かったな…….。
てか、オリガミちゃんは大丈夫なのか?
心配になって見てみると、オリガミちゃんは、魂が抜けたような表情で固まっている。
本当に大丈夫か……?
「ご主人……」
「お、おう?」
オリガミちゃんは、無表情でフワフワと空中に浮かんだ。
そして、次の瞬間、俺の視界は真っ暗になった。
停電とかではない、俺の顔が何かに覆われているのだ。…………いや、ちょっと待って?
「ちょっ……! 顔に抱き付くなって!」
「やだ…………」
「まさかの拒否!?」
オリガミちゃんは、ギュッとさらに俺の頭を締め付けてきた。俺の顔が、オリガミちゃんのお腹に押しつけられる。
オリガミちゃんが顔に抱き付いているせいで、全く前が見えないんですが……!
手探りで進もうにも壁がどっちか分からないし、オリガミちゃんの良い匂いで頭は働かないし……!!
柔らかい! 良い匂い! 総じてパーフェクト! 女の子ってこんなに気持ち良いものだったけ……?
俺はフラフラと、壁や出口を求めて、その場を徘徊する。
「キャーーー!!」
と、その時、後ろから女性の悲鳴が聞こえた。
何!? 今度は何!?
「な、なんでここにゾンビがいるのよぉぉ!!」
ゾンビ!? それは流石に世界観がおかしくないかな!?
早急な情報の共有を求める!
「うー! うー!」
だが、喋ろうとしても、オリガミちゃんが顔に張り付いているせいで、うまく言葉が出せない。
変な唸り声になってしまう……!!
「う、唸ったぁ!! き、聞いてないわよ……こんな仕掛けがあるなんてぇ……グスン……」
ゾンビが唸った!? お、俺は聞いてないぞ!?
て、てか……駄目だ! もう、酸素が……し、死ぬ……。
「ヒグゥ……あぅぅ……ゾンビやだぁ……もうやめりゅぅ……!!」
ぐっ……オリガミちゃんがさらにしがみついてくるせいで、脚が……オリガミちゃんの脚が……俺の首を絞め…………。
「ギブアップ!!」
俺の声が、お化け屋敷の出口直前で響いた。




