青いカクテル
(はぁ)
外は夜ー。
天気は雪ー。
息をすれば白ー。
今日はまた、一段とよく冷える。
声の仕事をする八城 透は吸い込めば喉の奥が凍りそうになる冷気を堪え、職場へと向かう。
その前に、行きつけのカフェで飲むコーヒーがここ数年の日課となっている。
街は徐々に白く染まり、その景色が何故か歩みを遅くする。
チリンー。
と、店の扉を開ける音は何度聴いても飽きることは無い。
「いらっしゃい、透くん」
「ども。」
「外は寒かったでしょう?いつものでいいかな?」
「ありがとうございます」
肩まで伸びた髪を束ね、若干茶色がかった毛色が何故かよく似合う。
Cafe&BAR lunaの店長、宗田 満。
髪は長いが清潔感があって、背も高い。
男の俺が見ても羨ましいと感じる程に、この男からは、色気も合わせて体の造りそのものがまるで芸術品のようだー。
(本人には、絶対に言ってやらないー)
漂うコーヒーの匂いが、店の温度が、
外の冷気を纏った自分を温める。
「ほい、おまたせ」
子供のように笑う宗田の顔が、笑い方が、喋り方すら歳を感じさせない、宗田の魅力なんだと、いつも思う。
「今日は、日宇田くん一緒じゃないの?」
「毎日一緒なわけないです、日宇田はバイト。」
「それもそうだねー、でも、だいたい一緒じゃない?」
「勝手についてくるんです。」
「わぉ、辛辣ー。日宇田くん、可哀想に...」
「宗田さんは面白がってますけど、俺は迷惑してます。」
「そう言わないでやりなよ、彼なりに頑張ってるんだから」
「...」
日宇田 要。
3年前、ラジオ局で働いて2年目の秋。
その日は自分の番組を持たせて貰えることになったお祝いにと、上司と同僚や先輩に連れられ夜の街を歩いていた日。
行きつけの店があると勧められたバーで、当時日宇田は働いていた。
暖かみのある店内と豊富な酒の数。
料理は固定の物がなく、その日その日で変わると言う。
日宇田は酒が好きで、自分なりに勉強したらしく、バーテンダーみたいなことをしていた。
酒は飲みすぎると喉に悪い、
できるだけ控えていたが、上司との付き合いとまあれば、せめて1杯ぐらいはいただこう。
しかし、何を頼んだらいいものか。
メニューとにらめっこしていると、不意にカウンターから見える酒が目に入った。
まるで絵の具か、色鉛筆のような、規則正しい並び方をしていたのである。
(これを並べたのは、店長か?)
酒を頼むという意識は、酒を並べたのは誰か
に置換されていた。
「お兄さん、この並べ方、気になりますか?」
その時声をかけてきたのが、日宇田だった。
赤みがかった毛色。
痩せ型のスラリとした身体つき
子供のような黒い瞳。
子供のような笑顔で、まるで子犬がじゃれてくるかのような。
そんな感じー。
「これ、店長に許可とって俺が並べさせて貰ったんです!」
まるで絵の具。
規則正しく、色相にあわせている。