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私と先生・・・とその後

 大昔、高校生の私に中学生だった弟が

 懇々と諭してきたことがあった。


「いいかい、兄さん。

 兄さんは病弱で学校を休みがちだったから、

 兄さんは回りの人間達よりも浮き世離れしている。

 今風に言うと(空気が読めない人)なんだ。

 それに要領も良くないし、器用でもない。

 だからね、何かをする前は、翌々先のことや回りのことを

 よく考えて決めたことの・・・()()()()()()

 するんだよ。兄さんが、よく考えたものは、

 ・・・いつも、・・・いつも、

 ホントにいつも、正しい選択の真逆を行くからね」


 とても真剣な表情で、兄を落ち込ませる発言をしてきた

 弟に、(おお、ついに第二次反抗期か!)と内心

 凹みながらも、彼の成長を当時の私は喜んでいたが、

 ・・・あれから何十年か過ぎ、パソコンを目の前にして、

 私は弟の言葉は、真実、反抗期ではなく、ただ単に

 残念すぎる兄を心配しての、弟の純粋な心配の

 言葉だったのだと思い知る。


 私の思い出の中の弟が、頭を抱えて私を

 生暖かく見ているような気がした。


 ~~~~~


 私の最初の作品は、『小説家になろう』に残っていた

 先生の作品にあったキーワードをなるたけ多く使って書いた。


 魔王・勇者・巫女・女騎士・姫・乙女ゲーム・ざまぁ・

 異世界転生・年の差・チート・男装・女装・男の娘

 ・・・等々を使って書いたが、先生は読んでくれなかった。


 次の作品は、先生が子ども時代好きだったという、

『西遊記』をモチーフにしてみた。

 私が小説を書き始めて、半年が過ぎ、私と先生の

 交流は穏やかに深まったが、やはり先生は読んでくれなかった。


(もう、無理なのかな・・・、もう一度、

 先生に書かせることは出来ないのかな?)


 真面目で優しい青年である先生の作品は、書くことが

 楽しいって伝わってくるようなお話で、身内びいきを

 抜きにしても、私は先生の作品が好きだった。


(よし、三度目の正直って言葉があるから、もう一つだけ、

 書いてみよう。もしダメなら、諦めよう・・・)


 私は最後の作品に、自分みたいな病弱な者が異世界に

 転生したら・・・と、いう無茶な話を書くことにした。


『片頭痛』持ちの主人公、転生者がゴロゴロいる世界。

 乙女ゲームをしたことがないのに、先生の好きな

 乙女ゲームを題材にした。

 でも、読んでもらいたいのは、若い男性である先生なので、

 若い男性が好むような、ちょっと・・・大人な場面も

(今の若い人はエロい場面って言うのかな?

 それともアダルトな場面とかいうのかな?)も、内心、

 顔から火が出るような思いをしながら書くことにした。

 力量不足をわかっていて、長編にも挑戦することにした。


 ・・・だけど、先生は私を光栄にも身内のように

 思ってくれていて(いや、先生は知らないんだけど、

 私と先生は伯父と甥だから、間違ってはいない)

 私の書いた作品を読んではくれなかった。


「どうしたらいいんだろう・・・。やっぱり、

 もう、ダメなのかなぁ・・・」


 後、一ヶ月過ぎれば、私が小説を書き出して

 一年になろうかというとき、その転機は訪れた。


 私は昨日先生を怒らせてしまったと、落ち込んでいたのだが、

 先生が次の日の朝にやってきてくれて、私に

 昨日の自分の振る舞いについて詫びてくれた後、

 自分も小説を書くと言ってくれたのだ。


 彼の友人が私の小説を読んでくれて、酷評したのを

 見かねて、これなら自分の方が面白い話を書けるから、

 私の援軍になってくれると申し出てくれたのだ。


 私は先生の傍にいる人が、私の小説を読んでくれたと

 いう奇跡に感謝した。

 稚拙でも11ヶ月書き続けていて良かったと思い、


 私の小説を読んでくれたユニークユーザーの人達や、

 私の小説にブックマークをつけてくれた人達、

 私の小説に感想をくれた人達、

 私の小説に評価をくれた人達、

 私にメールをくれた人、


 ・・・皆に深い感謝を捧げたいと心底思う。

 本当にありがとうございましたと思う。

 稚拙な突拍子もない話に付き合ってくれて、

 ありがとうございますと思う。

 名も姿も年もわからないけれど、読んでくれたあなたが

 いてくれて、本当に良かったと、とても嬉しいと思う。


 私の自分勝手な願掛けが、回り回って、

 先生の心に一瞬の波紋を起こせた奇跡は、

 色んな人達が読んでくれたおかげです。

 だから、本当にありがとうございます・・・と思う。


 ~~~~~


 あれから先生は新しい恋人が出来て、人生パラ色!って

 顔つきで、イキイキと生活を送っている。

 先生の書いている小説は面白く、

 私もとても嬉しい毎日を送っている。


 ただ・・・先生が小説を書いてくれるならば、

 もう私は小説を書く必要がないのだが、先生に

 それをやんわりと止められた。


「ブックマークや評価をつけてくれている人がいるんですよ!

 最後まで書き通すのが、書く者の務めです!

 どれだけ稚拙でも、突拍子がなくても、書き通すのが筋ですよ!」


 あまりにも、ごもっともな意見に亡き弟夫婦に

 あなたたちの息子は、とても立派に育ちましたよ、と

 内心、手を合わせて報告し、私は・・・項垂れる。


 悪役令嬢・異世界転生・片頭痛・忍者・転生者多数・

 乙女ゲーム・復讐ゲーム・ざまぁ・・・等々の

 悪役令嬢物の長編・・・。


「これ、どうやって、収集しましょうかねぇ・・・」


(だから、言ったじゃないか、兄さん。

 兄さんは病弱で学校を休みがちだったから、

 兄さんは回りの人間達よりも浮き世離れしている。

 今風に言うと(空気が読めない人)なんだ。

 それに要領も良くないし、器用でもない。

 だからね、何かをする前は、翌々先のことや回りのことを

 よく考えて決めたことの・・・()()()()()()

 するんだよ・・・って。兄さんが、よく考えたものは、

 ・・・いつも、・・・いつも、ホントにいつも、

 正しい選択の真逆を行くからって言っておいたのに。


 まぁ、自分で蒔いた種だから自分で何とかしなよ。

 こういうのも(自前ざまぁ)って、言うのかもよ、兄さん)


 項垂れる私の耳に、中学生のときの弟の声が聞こえた気がして、

 顔を上げた私の前で、左えくぼが可愛い先生が

 ニンマリと笑いかけた。


「さぁ、サカタさん!一緒に()()()()()()()!」



 

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