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僕とサカタさん・・・とその後

 僕は自分の家に戻って、ベッドに突っ伏した。

 もう、サカタさんに対して、罪悪感がハンパなかった。


(僕、サカタさんの気を悪くさせてしまった。

 ホントに子どもっぽくて、情けない。

 サカタさん、怒っているかな・・・)


 僕はサカタさんに迷惑をかけっぱなしな自分を恥じる。

 風呂の湯のことといい、今日の失敗といい、

 その他にも・・・色々と僕はサカタさんの前で失敗していて、

 成長がない自分を恥じる。


(急に小説を書いてくれなんて、言って悪かったなぁ。

 普段大人しいサカタさんが、それなら僕に小説を書いたら

 なんて、急に勧めてくるなんて・・・きっと、

 怒らせてしまったに違いないよな・・・)


 サカタさんは僕が、以前小説を書いていたなんて、

 知らないはずだ。

 だって、僕は(小説家になろう)のサイトは教えたけれど、

 僕のペンネームは教えなかったんだから。


 サイレント機能にしていたスマホが枕元で光る。

 少し身構えてスマホを手にしたら、LINEの相手が昨日の

 酒に付き合ってくれた友人だったので、ホッとして

 体中から強張りが解けていく。


 酒に弱い僕を気遣う言葉の数々に、僕は友人の存在を

 有り難く思う。礼の言葉を書き込み、しばらく彼と

 やり取りを交わす。

 昨日の話題に触れることなく、友人は僕に色々と、

 楽しい遊びに誘ってくれる。

 今度、一緒にツーリングに行こうとも言ってくれたので、

 僕は二つ返事で行くと応えた。


 彼はバイクと写真と読書が好きで、僕にサカタさんの

 小説を教えてくれたのも彼だったので、自然と

 話題がそっち方面に言ったとき、僕は内心ドギマギしてた。

 だって、以前、彼と交わした会話では、


「あの小説、未だに乙女ゲームが始まってないんだぜ。

 何か忍者とかって言いだして、相変わらずブレブレだった」


「そうなんだ(サカタさん!何やってるんですか!

 乙女ゲームに忍者は出てきませんよ!)へー、

 ちょっと変わった話みたいだねぇ・・・」


「この間、やっと『入学式』が始まったと思ったら、

 なんか『入学試験』に時間が戻ってた」


「へ・・・、へぇ~(サカタさん!ホント何

 やっているんですか!乙女ゲームに受験なんて、

 おかしいでしょーが!!)本当に変わったお話だね」


「何か細かいゲームルールを色々書いてたと思ったら、

 それらを全部どこかに放り投げて、日常を書き出してた」


「・・・へ、へぇ~・・・」


「なんかヒロインがすっごくマヌケな悪役令嬢だった。

 で、悪役令嬢は片頭痛でほぼ動かない」


「ハハハ・・・(サカタさん!僕の心臓を壊す気ですか!)」


 僕は、初めてのおつかいに子を送り出す親の気持ちとか、

 授業参観に出かけた保護者の気持ち、もしくは

 二者懇談に出る保護者の気持ちのような気分を

 毎回味わっていた。


 なので、今日はどんな心臓に悪いことを聞かされるやらと、

 思ったら、今日は以前に書いていた話を修正していたと

 友人は語っていた。


「何か主人公が攻略対象者の腹を2時間撫でていた話が

 少し内容が変わっていた」


 その書き込みに目を見開いた後、僕は何か適当な

 言い訳をして、友人とのLINEを終えた。


 僕は今日、二度、亡くなった父を思い出していた。


 一度目は鰹節がいっぱい入った卵焼き。

 二度目は友人が書き込んだ、サカタさんの小説の話。


 鰹節が入った卵焼きは、僕の家の卵焼きの味だった。

 友人が語った、サカタさんのお話の内容は、

 お腹が痛くて泣いていた幼かった父のお腹を

 2時間も撫でていた父の兄の話とかぶっていた。


 ・・・これって、つまりは、そういうことなんだろうか?

 そんなお話みたいなことが現実に起こるものなんだろうか?


 ~~~~~


 父は、貧乏で夫婦仲が悪い夫婦の元で生まれた。

 祖父は工場勤めをしていて、酒もタバコもしない人

 だったけど、ギャンブルが好きで、それを祖母が

 咎めると祖母に暴力を振るっていた。

 そして浮気もしていた・・・らしい。


 祖母は祖父が中学出なのも、給与が安いのも、ギャンブルを

 するのも、浮気をするのも、暴力を振るうことも気に食わないと、

 毎日父と父の兄・・・僕の伯父に愚痴っていたという。


 父が言うには僕の伯父は、小さな頃から病弱な人だったという。

 祖母は伯父が病弱なことに、過剰に反応する人で、

 健康になるためならと水泳を習わせたり、妙な薬を飲ませたり、

 どこぞのお守りを手に入れてきたかと思えば、鍼灸治療や

 薬草風呂に入れたりと、色々苦心していたが、

 伯父の心身を傷つける事には躊躇しない人だったと、

 父は暗い目で言っていた。


 祖父母は父が小学生の頃に離婚し、兄弟は母方に

 引き取られたのだが、祖母はよく癇癪を起こす人だった。

 祖母の気に入らない言動、行動を伯父がすると、

 激怒して、『躾』を伯父にしたらしい。

 だから僕の伯父の顔には火傷の跡が少し残っている。


 不器用で要領が悪かった伯父に比べ、器用で要領が

 良かった父は、祖母のお気に入りだったらしく、

 一度も『躾』をされたことはなかったが、父は自分の

 兄を傷つけた祖母を恨み、嫌って、高校卒業式の日に、

 家を飛び出して行った。

 父は病弱で逃げ出すことも出来なかった兄を置いていった

 ことを悔いて、生前、僕に、よく伯父の話をしてくれた。


 パート勤めで不在がちな祖母に変わり、伯父が

 父の面倒をいつも見てくれたこと。

 お腹を壊した父のお腹を2時間以上も撫でてくれたこと。

 四つ葉のクローバーは幸運のお守りになると知って、

 兄弟で遅くまで探した思い出話。

 祖母が祖父のことで癇癪を起こすと、そっと父を

 外遊びに出して、逃がしてくれたこと。

 中学生になった兄が父の遠足のお弁当を作ってくれたこと。

 ・・・そして鰹節がいっぱい入った卵焼きのこと。


 あの鰹節がいっぱいの卵焼きを口に入れた僕の驚きと来たら!

 あれは僕の家の卵焼きの味だった。

 惜しげもなく、たくさん入った鰹節と醤油のあの味!


 兄はお腹が弱い父を気遣って、市販のダシは

 使わなかったと父は嬉しそうに言っていた。

 だからお弁当の卵焼きには、いつも沢山の鰹節が

 入っていて、旨かったと笑ってた。


 僕は偶然だと思ってた。

 でも、サカタさんの書いた物語の、このエピソードは!?


 こんな!こんな奇跡みたいな偶然ってホントにあるのか?

 同じアパートに伯父がいたなんて奇跡が!

 僕がうっかり風呂の湯をあふれかえらせてしまわなければ、

 僕は自分の真下に伯父が住んでいたなんて、気づかなかった!

 これは何なんだろうか?

 単なる偶然?それとも運命?

 親孝行する前に他界した両親が僕を心配して、僕の傍に

 サカタさんを遣わしてくれたのではないだろうか?

 それとも、生前父が恩返しが出来なかったサカタさんに

 対して、父の代わりにサカタさんを労れってことなんだろうか?

 とにかく、僕は孤独ではないってことを今日、知ったんだ。


(サカタさんは父との思い出を、物語にしたのか・・・。

 どんな話なんだろう・・・。

 サカタさんは、父を恨んでいるんだろうか?)


 父が悪役として書かれていたら・・・どうしよう。

 知りたいような知りたくないような気持ちで、

 僕はサカタさんの物語を・・・読み始めてしまっていた。


 ~~~~~


 サカタさんの小説を読んでいたら夜になっていた。

 僕は首をゴキュッと鳴らせた。

 サカタさんの話は、稚拙で突飛で脈絡がなく、

 ハッキリ言うとド下手だった。

 友人がこれまで指摘していたことが全て的を得ていて、

 苦い笑いがこみ上げてくる。


 でも、これを読んでいる人は知らないんだ。

 サカタさんがこれを書いているのは、世界に一人しかいない

 大事な甥っ子のためだということを・・・。


 父は家を飛び出した後、サカタさんと会って

 いなかったらしいから、サカタさんは僕のことを

 知らないはずだ。

 きっと僕の父が家を飛び出した後、祖母は再婚して、

 弟か妹が出来たんだろう。

 サカタさんはその弟妹の息子のことを気にかけて、

(小説家になろう)で小説を書き始めたのだ。


(えっと、確か、その子は、前は小説を書いていた。

 でも今は、ある事情で書いていないって言っていた。

 名前も顔も知らない従兄弟の年はいくつなんだろう?

 小学生か中学生・・・いや、高校生かな?

 小説が書けない理由って、何だろう?

 進学かな、それとも虐め?・・・恋愛かな?

 それとも家庭内で何かあったのかな?)


 サカタさんは、その子の新しい小説が見たいって言っていた。

 その子が他に新しい趣味や、やりたいことが出来たんなら

 それはそれで構わないけれど、特に趣味がないのなら、

 もう一度、小説を書いて欲しいって願ってた。


 願掛け代わりに小説を自分で書くなんて馬鹿げてる。

 それにハッキリ言って、こんなに面白くない話よりも

 僕が書いた方が、多少マシな気がしてくる。


(ちょっとだけ、やってみようかな・・・)


 僕は仕事と家事と勉強に追われていたけど、その間にも

 彼女が出来ていた・・・失恋したけれど。

 本当にやりたいことが出来たら、時間のやりくりに工夫を

 すればいいはずだし、出来るはずだ。


(サカタさんの一人相撲に、無理矢理乱入してしまおうか)


 名前も顔も年もわからない従兄弟に対して、

 彼の心に一瞬の波紋を起こせれば、サカタさんと僕の勝ちだ。

 機械音痴で不器用で要領が悪いサカタさんと、

 ノリが悪く、頭が固すぎる僕の二人がかりでやれば、

 もしかしたら彼の心に何かが響くかも知れない。


(どうせ失恋して、彼女に割いていた時間が余っている。

 少しだけ・・・、、話を書いてみよう。

 何を書こう・・・?そうだ、さっきサカタさんに頼んだ

 無茶振り、あれを自分でしてしまおう!

 誰か一人の目に止まれば、恩の字だって、サカタさんも

 言ってたし、僕もその心構えでやろう!

 えっと、どんな話にしようかな?)


 僕は気が付いたら、無我夢中でパソコンに向かっていて、

 その後、元彼女のLINEにも気づかず、友人と

 ツーリングに向かう前日の金曜日までに小説を書き上げた。

 ツーリング当日、待ち合わせの場所で友人が僕の顔を

 見るなり、「ざまぁってホントにあるんだな!」と言った。

 僕は何の事だろうと首を傾げた。


 ・・・彼女は、ノリが良く、頭が緩い恋愛を求めた結果、

 望まぬ妊娠を疑うような事態になり、慌てて病院に

 駆け込み、・・・妊娠はしていなかったが、・・・その、

 色々と病気をもって、もらっていたと判明し、その事で、

 彼女は複数の男性達に糾弾されることとなったらしい・・・。


 僕が彼女の体を慮ってしていた防御は、

 僕の体を守る防御であったということだ。


 ~~~~~


「サカタさん、その後、甥っ子さんは、

 どんな感じですか?」


「ああ、ありがとうございます、先生!

 先生が私に協力してくれたおかげで、彼もまた、

 小説を書き始めたんですが、彼ね、今、新しく

 出来た彼女に夢中で、小説の更新が止まっているんですよ」


「な、生意気ですね!僕なんて、やっと、

 この間、恋人が出来たとこなのに!」


「まぁまぁ、いいじゃないですか、先生。

 甥っ子も先生も、今が青春なんですから。

 ところで、先生も更新が随分止まっていますね?」


「あ!ハハハハハハハハハ・・・すみません、

 来週中には更新しますから。・・・ところでサカタさんは

 いつになったら、その悪役令嬢物、終わるんです?

 一年間の乙女ゲームの話に時間かけ過ぎですよ?」


「む!これは一本、やりかえされてしまいましたね!」


 ・・・あれから、随分立った今、現在も、僕と

 サカタさんはそれぞれに小説を書く日々を送っている。

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