兄を飼うJK。
「お嬢? どうした?」
なんだか物思いにふけり過ぎて話しかけられている事に気付かなかった。
「あぁ……イル君、何? どうかした?」
「いや、さっきからぼーっとしてるからよ。どうしたのかなって」
「あんたの言葉だからシカトしてただけだろ」
アーニャは相変わらず辛辣。別にシカトしてた訳じゃないよ。
「ごめん。ちょっと考え事してた」
「そっか。お嬢が難しい顔してるといろいろ心配になるぜ」
こういう優しい所はイル君のいいところだと思うんだけど、基本的になんというか気が利かないのと思い込みが激しいのが玉に瑕なんだよね。
そんなんだから女の子にモテないんだよ。
あ、女にモテる必要はないのか。
「そういえばイル君外でいったい何やらかしたの? 今追われてるんだよね?」
こんな所にずっと隠れ住まないといけないくらい危険な状況って事でしょ? 何したらそんな事になるんだろう。
「どうせ人でも殺したんだろ」
「う……まぁ、否定はしない」
まじかよ。
「で? その人は結局どうしたの? 死んだまま?」
「いや、すぐに生き返ったよ。でも生きかえりゃいいってもんじゃないだろ?」
まぁ、普通殺されたら怒るよね。
私だって怒ってるよ? 絶対許さないからな。
イル君は私の視線に気づいたのか、気まずくなって目を逸らした。
「オジキを闇討ちしようとした奴を返り討ちにして殺しちまったんだけど、どうやらそいつがどこぞの組の若頭だったらしくてな。そいつの舎弟から追いかけまわされてるんだよ。捕まったら多分生き返れないようにコンクリ詰めにされて海にドボンだろうな」
ヤクザだか極道だかしらないけどそんな事ばっかりしてるからそうなるんだよ。完全に自業自得じゃん。
「でさ、一つ提案があるんだけど、もし安全に隠れる場所が欲しいだけならここにこない?」
「おいお嬢本気か?」
アーニャは私の意図に気付いて顔を歪めた。
「ん? なんだなんだ? どういう事だよ」
私は前にアーニャと話していた事をイル君に
説明してあげた。
ディメンションポケットの中に居れば安全に移動できる事、中に居る間は絶対安全だって事などなど。
「へぇ~そりゃすげぇ! 俺もここにずっといるのはそろそろ厳しくなってきた所だったんだ願ってもねぇ!」
「……あんたを連れて行くなら条件がある」
「愛菜が俺に条件? いいぜ、なんでも言ってみろ!」
妹から頼み事をされているとでも勘違いしているのか、やけにニコニコしながらイル君がドンっと胸を叩く。
「基本的にはポケットの中に居る事。必要な時に私達の都合で外に出す。戦闘中に出されたら文句を言わずに戦う事。これを守れるなら連れてってやる」
「なんだそんな事か! それでいいさ。ただ適度に食料だけは入れてくれよな?」
なんか育成ゲームみたいだな。
妹に飼われる兄。
……なんだか背徳の香りがしたけどアーニャに言うと叩かれそうだからやめた。






