自分である証を失うJK。
「そんなに怖い事いうなよ愛菜ぁ……。もうちょっと仲よくしてくれたっていいだろう?」
「誰が? 誰と?」
「愛菜が、お兄ちゃんと」
「私が、ヤクザと?」
「極道って言ってくれよな」
毎度ながら仲がいいやら悪いやら……。
いや、良いって事はないか。
そしてイル君は自分の事をヤクザと言われるのを嫌う。
あくまでも自分が属しているのは極道なのだと言い張ってるんだけど、別にどっちだって同じでしょ?
うちの爺ちゃんと一緒でさ、義理と人情とか言いながら自分の意思に反した事は絶対しないし人に優しく接するって気持ちを持ち合わせてない。
……それは言いすぎか。
今私が考えてしまったのはイル君の事ではなくて爺ちゃんの事だ。
爺ちゃんは本当に頭が固くてクズ。部下だか仲間だか知らないけれど極道連中からはすっごく慕われてるから義理と人情に関しては本物だったのかもしれないけれど……。
どんなに人に慕われようと所詮は極道で、そしてなにより……私にとっては恐怖の象徴だ。
私にとってはあの人の言う事が全てだった。
逆らう事は許されなかった。
あの人の理想の私を一瞬でも崩せば容赦なく叩かれた。
酷い時は殴られ蹴られる事もあった。
当時の私は自分の心を閉ざして命令を実行するだけの機械であろうとした。
実際そうなった。
イル君と、アーニャに会うまでは。
あの人は私が男じゃなかった事がとにかく許せないのだ。
私を両親から奪っておきながら、私が女だという事を心底軽蔑していた。
男尊女卑の塊?
ちょっと違う気がする。
あの人はただ跡取りが欲しかったんだろう。
だからきっと私が気に入らなかったんだ。
私が嫌いなのはヤクザ、極道などではなく爺ちゃんだったんだろう。
イル君が極道に拘るのは理解できないけれど、なんだかどうでもよくなってきちゃったな。
それより私にとって一大事だったのが傷。
私の身体にはあの人につけられた傷が沢山あった。
いつまでも治らない、消えない傷痕。
私はずっとそれらと共に生きてきた。イル君と出会い、アーニャと出会って私は変わったけれど、その傷だけは私があの人の孫だという証拠で、毎日嫌でもそれを突き付けてくる。
何度鏡に映る傷を眺めて泣いただろう。
痛くてじゃない。
醜くてじゃない。
その傷は全て、私があの人の物だという証拠なのだ。
それがたまらなく悲しくて、情けない程泣いて泣いて、やがて何も考えなくなった。
心がどこかへ行ってしまった。
私という物はそういう物なんだ。
あの人にとって必要な道具。
その為の私、そうである証拠の傷。
だから私は、そうである事を受け入れた。
それは爺ちゃんが死んだ今も変わらない。
それなのに。
私達がダンジョンに初めて潜ったあの日。
私は死んで、アーニャが私を生き返らせてくれたあの時。
きっとアーニャは回復薬も一緒に使ったんだと思う。
私を心配してくれたのかもしれない。
そしたら、私のあの傷が。
あの傷たちが消えてしまった。
いとも簡単に私が抱えていた物が消えてしまった。
私の痛み、私の過去、私の辛さ、私の恨み、私の惨めさ、私の……。
あの一瞬で私はそれらを失った。
私が私である証が、消えてしまった。
この先、まだ私の肩に刻まれているもう一つの私の証が消えてしまったら……私はどうなってしまうのだろう。
消えたのは祖父から受けた傷で、父親に鉈で切られた傷は未だに残っています。
なぜ全て消えなかったのか、理由はありますがそれもまたいずれ。






