狂っていた【JC】
「そ、それで……どうなったんですの? そこからどうやって今のように……?」
アーニャは、イル君と父親は一緒だけど愛人の子で、母親はノイローゼになって発狂。
薬漬けになって死んだ。
当時イル君の父親は私の祖父の組に居た事もあり、アーニャからしてみれば人生を狂わせたのは父親であり、ヤクザであり、その大本はうちの祖父。
だからアーニャは私の事も嫌っていたし、恨んでいたんだと思う。
あの子はそんな事一切口に出さなかったけれど、時々感じる痛い程の殺意が私の胸に突き刺さっていた。
私はいつからか、彼女の心をどうにかほぐす事だけを考えるようになった。
他愛も無い事を話しかけ、そっけなくされても毎日繰り返す。
思えばこのころには私はもう感情を完全に取り戻していたし、それはきっとアーニャのおかげだったんだろう。
以前の私みたいなこの子を救ってあげたかった。
アーニャは機械なんかじゃないし、自由に生きていいんだって。
私の家に住んでるからって私のいう事をきかなきゃいけないわけじゃないんだって。
分かってほしかった。
だからしつこくしつこく話をし続け、やがて……。
アーニャは壊れた。
それはもう今思い出しても寒気がするくらいだ。
突然。本当に突然大声で叫び、まさに発狂したという言葉がしっくりくる。
彼女は台所から包丁を持ち出し私に投げつけ、逃げ出した私を、裏庭の物置から持ってきた鉈を振り回して追いかけ続けた。
アーニャは限界だった。
自分の中ですべてを抱え込み、押し殺して生きる事を選んだのに、その邪魔ばかりする私が目障りだったんだろう。
我慢の限界をこえた彼女は私を殺そうとした。
「そ、そんな事って……。二人にそんな事があったなんて信じられないですわ……」
「でもね、私がその時感じたのは恐怖でも悲しみでも無かったんだよ」
「どういう事ですの……?」
「私はさ、心の底から……嬉しかったんだ」
初めて自分の感情を爆発させて、思うままに私にそれをぶつけてくるアーニャを見て、なんとも言えない喜びを感じていた。
我ながら歪んでいる。
だけど、そんなアーニャの感情を私が引き出したんだっていう満足感と優越感に浸ってたんだと思う。
部屋を転がり回ってアーニャの振り回す鉈を避けながら、私は笑っていた。
「ありがとう。本気でぶつかってきてくれてありがとう!」
今思えばきっと私も狂っていたんだ。
アーニャは今まで見た事ないような表情で、目を真っ赤にして、感情剥き出しにして私を殺そうと……涙を流しながら叫び続けた。
私は、この子を救えるなら、抱きしめられるならどうなってもいいとすら思ってしまった。
「抱きしめる……ですの?」
「あ、あぁ……ほら、抱きしめて、辛かったね。よく頑張ったねって言ってあげたかったんだよ」
嘘。本当は嬉しくて愛おしくてただ彼女の事を抱きしめたくて仕方なかっただけ。……これはキャロちゃんには言わないけどね。
「そういう事ですのね……それはうまくいったんですの?」
運の悪い事に、そんな時に限って……普段留守がちな父親が家に帰ってきてその現場を目撃してしまった。
当然ながら父は激昂した。
友達として用意したイル君は高校生になるとヤクザとしての活動を本格的にはじめていて家にはなかなか来なくなったし、イル君が連れてきたアーニャは鉈を振り回し私を殺害しようとしている。
父は彼女を張り倒し、鉈を奪って……感情に任せてアーニャに鉈を振り下ろした。
私を守るために。
「そ、それで……どうなったんですの……?」
「私、気が付いたらアーニャをかばっててさ、父親に鉈でざっくりやられちゃった。てへっ♪」
二人の過去は読者様の想像通りでしたか?
おそらくですが、思っていたものとは違ったのではないでしょうか?
二人はお互い同じように機械として過ごし、人として歪んでしまった。
その二人が今一緒に居られるのはある意味奇跡なのです。






