お城がとっても気になるJK。
「お城……?」
お城に用は無いんだけど、この辺りにお城なんてあったかな?
もちゃは急に話しかけてきた運転手を警戒してか鋭い目で睨みつけている。
「おっさん、もう一度言ってみな」
「だからお嬢ちゃん達と一緒にお城に……」
ハム子課長の言葉に運転手のおじさんが返事をしようとして固まった。
固まったのは私もだけれど。
ハム子課長は身を乗り出して運転手のこめかみに銃口を突き付けていた。
「……なんだって? もう一度」
「や、やだなあ……冗談だって。お嬢ちゃんもそんな玩具しまってしまって」
「……玩具だと思う? これでも私は国からダンジョン探索を依頼されているエージェントだ。銃の携帯も認められているし止むを得ない際の発砲も認められている。信じるか信じないかはおっさん次第だ」
「……仮に、だけどお嬢ちゃんの言ってる事が本当だとして、一般人にこんな事して許されると思ってるのかい?」
運転手は課長の言葉を鵜呑みにはしてないだろうけど、万が一本当だった場合の保身を口にした。
「国からの依頼って、ある意味公務員って事だろう? 公務員が善良な一般人を脅したってなったら……」
「死人に口無しって言葉知ってるか? それに……国家絡みだぞ? お前のような一般人の発言をもみ消すどころかお前の存在自体もみ消す事だって容易い。相手を選んで物を言えよ。……で、もう一度聞こうか?」
「な、なんでも無いです……ほんと、すいませんでしたごめんなさい……」
運転手が脅しに屈した。
でも何故お城に誘うくらいでこんな事になってしまったんだろう。可哀そうに。
私達が目的地に到着し、タクシーから降りる際ハム子課長がカードで会計をしていたけれど、そのカードが黒かったのを見て背筋がぞわっとした。
多分運転手も同じ気持ちだったと思う。ハム子課長の言葉はどこまで本気だったんだろう?
「課長、どうしてお城に誘われたくらいであんなに怒ったの?」
「えっ、君はもしかして本当にお城に誘われたと思ってるの?」
「……?」
課長は心底呆れたようにやれやれと言いながら説明してくれた。
「あのねぇ、この界隈でお城って言ったら一件しかないんだよ。ほら、ここからでも少し見えるだろう?」
課長の指さす方向を見ると、確かにお城っぽい建物の先端が見える。
「……あれは? てっきりお城って言うから城跡か何かかと。あれだと西洋風だね」
こんな場所に西洋風のお城って……どういう事なんだろうか。
「マジで言ってるの……? アレはその、つまりアレだよ。モーテル」
「モーテルって何です?」
「今どきの若者ってモーテルじゃ伝わらないのか……」
課長ががっくりと肩を落とした。
「何をする所なんですか?」
「もう、教えてあげない。後でアーニャにでも聞いてごらん」
よく分からないけど、今度アーニャに聞いてみよう。
今までの生活において、ゆゆこにはそのお城が完全に無関係だったので知る由も無かったのであります。
教えてくれる人も居ないですし。






