第1話︰積雪の国
雪とはこういうものだったか。
青年、マルグランガは首を傾げた。その拍子に頭に分厚く積もっていた雪が足元にドサリと落ち、それを隣で見た10歳ほどの少年がその弱々しく細い体躯を一層震わせていた。
「だから言っただろ、マル!この国に来るのはやめようって!」
「いやいや、ガフだって雪が見てみたいってはしゃいでただろう?
…でも、まあ、確かに僕の知る雪ってもっとこう…ふわふわ宙を
舞っていたような気がしなくもないんだけどな。」
おかしいなぁ、と首を傾げるマル。
その髪は微かに残った雪が溶け、僅かに湿っている。
少年、ダグルターニ・リ・ガフにいたっては、急いでこの洞穴に駆け込んだために背負っているバッグばかりか靴下までぐっしょりと濡れていた。
2人は洞穴の中から外界を見る。
「どこがふわふわ宙を舞ってるって?ふわふわどころか、
べちべちビュービューの間違いじゃないか!!」
ガフが力の限りに吠え、洞穴の内にわんわんと谺する。
その右頬は外で真横に吹き荒ぶ雪に当たって真っ赤っかだった。
吹雪に頬をおもいきり叩かれたらしい、べちべちと。
「しかし、参ったね。山の向こうも真っ黒だ。止む気配が無い。
この国の境界を踏んだ時からコレとあっては、首都も見つけら
れるか心配だな。」
「……これ、明日の夜までに次の国行けるの?」
「おいおい、ガフ。次の国に行くと決めるにはまだ早いだろう?
ここを自分の願いの国にするって手もあるさ。」
冗談じゃない、と荷を解いてガフは寝袋に潜り込むが、すぐに跳ね起きる。その眉間には深々とシワが寄っていた。
「当ててあげよう。下が雪解けが固まった氷で冷たく、また洞穴内
のためにデコボコしてて背中が痛い、だろ。」
「分かってんならどうにかしてよ。俺より歳上だろ。」
「無茶を言うなって。僕は料理を作ることは得意だけれど、寝床を作る
のは専門外なんだ。地面を掘るのはガフの方が得意じゃないかな?」
「今日が“綺麗な月夜なら”ね!こーんなちっちゃくて柔らかい前足で
岩肌を掘れる訳ないだろ!」
ばか!マルの人でなし!人のくせにオニ!と寝袋に入ったまま自分のバッグに覆い被さり、三拍子の間にガフは小さな寝息を立て始める。
旅慣れしているなぁ。マルはそんな小さな旅仲間を頼もしく思った。
さて、この吹雪どうしてくれようか。
明日の夜までには国を抜けなければならない。それが国渡をする上での決して破ってはならないルールなのだが、見渡す限りの雪、雪、雪々…。
「あ、ガフ。ちょっと起きて。」
「寝てるから起きれない。」
「バッチリ起きてんじゃん。早く起きてくれ。見失う。」
「え、見失うってなにを!?」




