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第8話 選抜

第一部隊を連れて訓練所に行くと、他の部隊の騎士達が訓練をしていたので無理矢理譲って貰った。この時点で第一部隊の騎士達は相当苛立っていたのだろう。正装から訓練着に着替え、準備をしている騎士達は我儘王女の自慢の護衛を負かしてやろうと息巻いている。

一方クロッシュはといえば、私の後ろでいつも通り何の感情も感じさせない顔で佇んでいた。


「王女殿下、殿下の護衛にも訓練着をご用意致しましょうか。」


私と同じ観覧席に座っている騎士団長は気づかわし気に声を掛けてきた。この騎士団長は50歳手前だからか、初めは私の提案に苛立ったようだったが、直ぐに落ち着きを取り戻し、むしろ私の心配をし始めていた。恐らく自慢の護衛を負かされたら、癇癪を起すのではないかと思われているのだろう。まあ、当然の考えだ。実際私は14歳な訳だし、年齢では子供だ。だが、リウムが良い例なように子供が子供のまま生きられないのが王城だ。


「結構よ。」

「そうですか…。ところで、最初に殿下が除かれた20人はどのような基準で選ばれたのですか?」

「私の好みですけれど、何か問題が?侍らせるのならば、不快でないものが良いでしょう?」

「成程…。」


具体的な選抜方法は事前に私とクロッシュと守護霊で考えていた。指揮系統の関係で私の護衛は出来ない騎士団長と副団長を抜くと、第一部隊は全部で48人。それに対して、クロッシュは一人。全員と闘うのは流石に無理がある。そこで、先に書面を持ってこさせて、公爵家と少しでも繋がりがありそうな家の出のものをまず除く。これで28人。その中から日々の部内戦での結果でつけられた序列順に上位十人を選んだ。ひとまずその十人でペアで戦ってもらい、残った五人にクロッシュと闘って貰う。


「ところで、あの赤い髪のものは?」

「あれは私の愚息にございます。今年第一部隊に入隊致しました。」


そして、見事にその十人にナンディナが残った。


(やっぱり強いなあ、ナンディナ。どうするの、リアたん?もう正直なるようになれって感じだけど。)


手元のメモ用紙にメモをしている様に見せかけて、リモと筆談をする。


【現段階で特に一目惚れもしていないし、今のところは特に接触しても問題ない気がするわ。】

(珍しいね、慎重派のリアたんがそんな選択をするなんて。)

【正直どちらが正しいのか分からないけれど、護衛を任せたとして、関わるのは生誕祭の間だけよ。なら、むしろ不自然ではない短期間の接触が出来て有意義と考えるべきだわ。彼がどのような闘い方をするのか、弱点は何か。何も知らずに対策を決めるのは早計よ。】


ふと訓練場に目をやると、最後の試合の決着がついたところだった。ナンディナは…いた。残っている。


「殿下。決着がついたようですので、護衛の方をお連れしても宜しいでしょうか?」

「ええ、私も行くわ。」

「殿下も、ですか。しかし、下は大の男ばかりで殿下をお連れするような場所では…。」

「構わないわ。壁際の椅子に座っていますから。」

「では、せめて護衛のものを。」

「要らないわ、むしろ私の周りに誰も近づけないで頂戴。むさ苦しいのは嫌いなの。」


聞き入れる気はないとばかりに椅子から立ち、下に続く階段へ向かうと、騎士団長も諦めたのか先導して階段を降りる。下は地面が剥き出しになっているので砂が舞い、汗と少しの血の匂いがする。騎士団長は中央の試合場が良く見える位置に椅子を置き、騎士達を遠ざけてくれた。後ろに控えるクロッシュを呼び寄せ、声を掛ける。


「クロッシュ。頼んだわよ。」

「御意。」


向こうも準備が整ったのか、一人目の騎士が出てきた。クロッシュが正装のままなのを見て、舐められていると感じたのか明らかに苛立っている。


「では、主。しばしお傍を離れさせて頂きます。」

「許します。無様な姿を見せたら、直ぐに解雇よ。」

「御意。」


クロッシュはそう言うと、何の躊躇いも緊張も感じさせない足取りで試合場に歩いていった。


「試合形式は一本勝負。相急所への一撃で一本とみなす。または武器は騎士団所有の模造剣のみとする。審判は私、騎士団長サルビアがつとめる。それでは…


試合、始め!!!!!!!」


騎士団長の合図で先に動いたのは騎士だ。

一気に間合いを詰め、一撃を繰り出す。一撃で勝負を決めるつもりなのだろう。第一部隊の中でも精鋭なだけあり、素人目にも早いし無駄がない。

本当に一瞬だった。一瞬ですぐさまクロッシュが消えて、騎士がつんのめる。

しかし、騎士もすぐさま振り返り、背後に移動したクロッシュに再び斬撃。

今度はクロッシュが剣で受け止める。明らかに体格差がある二人ではクロッシュが圧し負ける。

しかし、クロッシュもそれを感じ取ったのか一気に手を引くと、重心がずれて騎士がよろめく。

その騎士の喉にクロッシュの剣が目にも止まらぬ速さで突き出される。

そして、まさに喉元を貫こうとする剣は皮膚に触れてようやく止まった。


「しょ、勝者…クロッシュ…。」


痛いぐらいの沈黙が支配する。まさかこんな一瞬で仲間が負けるとは思っていなかったのだろう。しかも、息一つ乱さず礼をするクロッシュには明らかに手を抜いていると分かる程の余裕があった。直ぐに訓練場の空気が変わる。基本的に強者を好む集団だ。クロッシュの強さを感じ取ったのだろう。

私の護衛は私に差し向けられた暗殺者を仕留めるのが仕事だ。だからこそ、今の試合で二回も不意を突かれたこの騎士は駄目だ。その間に確実に私は死ぬ。護衛は護衛が死ななければ勝ちではない、護衛対象が死なないことでようやく勝ちなのだ。今の騎士は目の前の相手に集中しすぎていたので、その点でも私の護衛には向いていない。

このことは騎士団には一切伝えていないが、それは一向に構わない。そういった護衛の特性は一朝一夕で身に着くものではないし、私も正直そんなことを騎士団に求めるのは間違いだと知っている。だが、どうせ護衛を選ぶなら、その特性を持ち合わせているものが良い。そうでなくては咄嗟の時に対応出来ない。


しかし、私の期待に反してその後に控えていた三人との試合も直ぐにクロッシュが勝ちを収めた。残るはナンディナのみ。


(予想はしていたけど、やっぱりこうなるのかあ。)

【クロッシュとナンディナではどちらが強いの?】

(うーん、ゲーム内では二人の戦闘シナリオは無かったし、正直分からないなあ。でも、結果はもう決めているんでしょう?)

【どうせすぐに王妃の耳に入るのだから、ただの気休めよ。】


「試合、始め!!!!!」


またしても飛び出したのはナンディナが先だ。間合いを詰めての斬撃、クロッシュが躱して足払い、ここまでは前の騎士達と同じだが、この流れは分かっているのか、ナンディナはそれを躱して、後ろへ飛ぶ。

今度はクロッシュが間合いを詰めてが着地するとほぼ同時に斬撃、しかしナンディナもそれを予想していたのかは後ろに後転し、躱す。


「へえ。」

(伊達に次期騎士団長候補やってないってことかあ。)


クロッシュは16歳、守護霊の話ではナンディナも16歳で同じ年齢だ。年齢という目線で見れば、互角なのはある意味当然なのだ。クロッシュが年上の騎士達をのしていなければ。クロッシュと互角ということは本当に実力があるのだろう。


払う。

蹴る。

斬撃。

躱す。


三分程剣戟の音が続く。正直これだけの実力があれば申し分はないだろう。だが、少し欲が出る。この騎士はもう少しついて来れるのではないだろうか。


「クロッシュ!!!!!騎士の真似事はもう良いわ!!!!!」


突然乱入してきた私の叫び声に、観戦していた騎士達がいぶかし気な顔をする。


「御意!!!!!!」


クロッシュはそう叫ぶと、鍔競りをしていた身を引き、後ろへ飛ぶ。しかし、ナンディナもそれを逃すまいと追って走る。その瞬間、クロッシュは手に持っていた剣をナンディナの眉間目掛けて放った。

周りからどよめきが起こる。当然だ、騎士に取って剣は魂、戦闘中にその剣を手放すなど降伏と同義だ。

クロッシュの予想外の動きには一瞬反応が遅れるがギリギリで躱した。

だが、次の瞬間にはクロッシュがナンディナのがら空きになった懐に飛び込み、鳩尾に重い一撃を加える。


「かはっ。」


ナンディナの口から空気が漏れて、後方へ転がる。ナンディナが暗殺者だったなら、既に勝負はついている。クロッシュが投じた剣は一本ではなく、十本であったろうし、その剣に塗られた毒で掠った瞬間に即死だ。がら空きの腹にも拳ではなく、短刀が刺さった筈だ。

だが、あくまでこれは試合だ。決着は降伏か急所への一撃で決まる。恐らく腹への一撃は一本には認められないだろう。それにあくまでこの勝負は引き分けで終わらなければならないのだ。

クロッシュは少しやりすぎたと思ったのか、間合いを取って様子を伺っている。

しかし、ナンディナも数秒後には体勢を立て直し、再び剣の切っ先をクロッシュに向けた。

それを見てクロッシュは目を細める。

ナンディナはクロッシュが武器を持たない今が好機と思ったのか、一気に間合いを詰め再び斬撃。しかし、クロッシュは飛んで後退。再びの斬撃、後退、斬撃、後退。

この辺りに来ると、周りも勝負はついたかのように思ったのだろう。張り詰めていた空気が少し緩みだす。王女の判断ミスで護衛が負ける。予想とは違ったが結果的に彼等の念願叶った訳だ。

ついにクロッシュは壁際に追い込まれた。しかし、次の瞬間クロッシュは上に飛ぶ。これにはナンディナも虚を突かれたのか、一瞬の隙がうまれる。クロッシュはそのまま壁に着地し、壁を蹴る。

そして、そのままの勢いでに足でナンディナの首を巻き取り、押し倒す。

クロッシュの予想外の反撃に騎士達の緊張が再び高まる。今の反撃でナンディナも剣を取り落とした。条件は対等、しかし体勢はクロッシュが有利。どう転ぶか。


「そこまで!!!!」


しかし、そこで騎士団長から時間切れの合図が発せられた。

その合図で一気に訓練場の緊張がほどける。クロッシュも足の拘束を解き、立ち上がった。


「お怪我は。」


クロッシュはそう言うと、地面に寝転ぶナンディナに手を差し出した。ナンディナは差し出された手に一瞬躊躇うも、次の瞬間には笑顔でその手を取った。


「少し首を痛めたけど、試合なんだし当然だろ。気にすんな。それにしても、お前強いな。」

「有難うございます。」


握手する二人の姿に何処からともなく健闘を称える拍手が起こる。騎士達も良い試合だったと戻ってきたナンディナを誉め称える。それに対して私は仏頂面でクロッシュを迎えた。クロッシュも心得ているので、私の前で跪き、頭を下げる。


「主、勝利を持ち帰ることが出来ず、申し訳ございません。」

「ええ、本当に。まさかこんな結果を持ち帰るとは思わなかったわ。貴方は私の護衛としての自覚が足りないのではなくて?」

「はい、申し訳ございません。」


私の詰るような言葉にあちこちから視線が突き刺さるのを感じるが、それをはねのけるように椅子から立ち上がり、こちらに向かってくる騎士団長に声を掛ける。


「騎士団長、貴方の子息を私付きの護衛にするわ。明日から寄こして頂戴。」

「承知致しました。」

「帰るわよ。そんな汚れた姿で私の横に立たないで。戻ったら直ぐに汚れを落としなさい。」

「御意。」


そのまま明らかな敵意や嫌悪を含んだ視線を背中に受けながら、訓練場を出て自室へ向かう。クロッシュはいつもと同じ疲れを全く感じさせない表情で後ろについてきた。歩く速度は緩めずにクロッシュに話しかける。


「クロッシュ。」

「はい。」

「着替えたら、熱い紅茶を入れてくれる?」


誰が見ているかも分からないこの場所で私はクロッシュを労う言葉をかけてあげることは出来ない。けれど、たった一人の私の護衛に言葉でなくとも信頼という形を示すことは出来る。

私の言葉に後ろでクロッシュが微笑んだような気がしたのは、私に都合の良い想像だ。


「御意。」


その声は少し優しかった。

ナンテン(Nandina domestica)

良い家庭 機知に富む 福をなす 


戦闘シーン難しすぎて、次回はもっと上手く書けるようにします。

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