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第7話 騎士団

クロッシュが護衛になってから二週間、私が一年で最も忙しい時期になった。私の生誕祭だ。

毎年私の誕生日には国をあげてのお祭りが開かれる。他の国では第一王子の生誕祭しか行わない国や、男子の生誕祭しか行わない国もあるらしいが、わが国は王家の加護の発現に王位継承権が大きく左右されるので、性別や年齢関係なく祭りを行うのだ。

生誕祭はそれはもう盛大で前夜に王城の大広間で国中の貴族を集めてのパーティーを行い、当日は馬車に乗って城下街でパレード。そして、次の日は王城の大広間で今度は国外の使者を招いて再びパーティー。この三日間はそれはもう国宝か何かのように尊ばれ、視線に晒され、一挙一動が注目される。この期間は暗殺もほとんどないので、肉体的にはかなり安心できるのだが、人の悪意に最も触れる機会でもあるので精神的には非常に疲れる。


「私以外の護衛、ですか。」

「ええ、そうよ。この三日間は私の周りに多くの人が寄ってくるわ。いくら貴方が優秀だと言っても、限界がある。城下でのパレードの際は特にね。だから、この三日間と準備期間の間は騎士団の第一師団が私の護衛にあたるわ。私とクロッシュは護衛の契約を交わしているけど、クロッシュはまだ騎士の資格は持っていないでしょう?だから、この三日間は私の護衛から外される可能性が高いわ。国事の際の王族の護衛は騎士の資格をもつものに限られているから。」

「それは…。」

「けれど、正直私は騎士団の人間の全てを信用している訳ではないわ。騎士団に入る際に家名を捨てる規則とはいえ、家族との縁が切れた訳ではないのだから。」

「ならば、生誕祭の期間も私を主の護衛にしてください。」

「ええ、そのつもりよ。だから、貴方は私が騎士団との顔合わせをして、信用できそうな代わりの護衛を選んだら、三日で騎士の資格を取ってきなさい。」

「三日ですか。」

「矢張りいくらクロッシュでも難しいかしら。」


騎士は国が与える資格なだけあって、取得は難しく合格率は約5%。試験では剣術などの戦闘力は勿論のこと、王族の前に出ても咎められないレベルの礼儀作法やある程度の教養が求められる。それゆえ、多くの貴族にとってお抱えの騎士がいることは一種のステータスであり、騎士の資格を持っていれば、仕え先に困ることはない。

ただ、試験の課題をこなすには基本的に一週間以上はかかる。主要な試験内容である魔物の討伐にかなりの日数を要するからだ。歴代最高の呼び声も高い現在の騎士団長でも五日を要したという。


「いいえ、それが主の命ならば、必ずや騎士の資格を取得して参ります。」


クロッシュとこのやりとりをしたのが三日前。そして、今日が騎士団との顔合わせだ。朝からクロッシュの護衛のもと、メイドに髪をセットしてもらい、いつもよりかなり華美な衣装に着替えた。腰まである髪はお団子に結い上げられ、私の瞳と同じ紫の宝石を花のようにした髪飾りを。ドレスも白いオーガンジーの生地に紫と金の糸で豪華な刺繍がされ、宝石も縫い付けられたまさに勢を尽くしたものだ。リモには『パーティーでもないのにそんな豪華なドレスを着てたら、ますます悪役我儘王女っぽくなる』と苦言を呈されたが、騎士団はこれから私の護衛になる訳だし、最初にきちんと力関係を示さなくては舐められると言ったら、『リアたんってたまに思考がヤンキーっぽい時あるよね。』と言われた。

だが、それにしても動きにくいし、過ごしにくい。いつもはせいぜいクロッシュとメイド、たまにリウムとしか顔を合わせないから、もっと簡素な服を好んで着ていた。教育係は公爵家の息のかかった人間ばかりで、本当に最低限のことしか教えてもらえなかったり、低レベルなことを永遠と教えられたりしたので、全員解雇し今は誰も雇っていない。


(リアたんが今14歳ってことは多分騎士団長の息子ももう騎士団に入ってる時期な筈。どうするの?)

「そう言われても…。貴方の話によると、未来の私はその子息に恋をしていたから、庶民を虐めたのでしょう?なら、単純に好きにならなければ良いのではないかしら?」

(うーん、でも、よく転生ものだとゲームの強制力が働くとか聞くしなあ。そう上手くいくかなあ。)

「なら、貴方も何か良い案を出しなさい。この手の話は貴方の方が詳しいんだから。」

(そうだなあ。手段としてはその息子に一切関わらないか、逆に好かれるぐらい仲良くなるかのどっちかだよなあ。でも、今は関わらなくても、学園に入ったら結局顔を合わせるんだし、主人公がいない今のうちに顔を合わせておいた方がまだ良いかも。)

「そういえば、その子息の名前は何というの?」

(名前はナンディナ。深緑の髪に赤い瞳を持ったイケメンだよ。性格としてはちょっとヤンチャ系かなあ。近所の気の良いお兄ちゃんというか。)


身支度を終え、と自室で話していると、クロッシュが応接室へ続く扉へと目をやった。クロッシュはどうやら身体強化の魔法で聴力を上げているらしく、いつも私の部屋付きの衛兵が来客を告げる前に来客を知らせてくれる。


「主、迎えのものが参りました。」

「分かったわ。行きましょう。」


クロッシュが差し出してきた手をとり、エスコートをしてもらう。今日はクロッシュもいつもの国が支給する護衛服ではなく、白の生地に金と紫の糸で刺繍がなされた私と対になるような護衛服を着ている。顔合わせで存分に動いてもらう予定なので宝石はついていないが、見た者はすぐに私の護衛だと分かるだろう豪華なつくりだ。


「分かっているわね?しっかり貴方の力を見せつけて頂戴。」

「御意。」

(こういう時のやりとりがゲームでのリアたんとクロッシュのやりとりと似すぎてて、不安しかないんだよなあ…。)


リモの呟きは無視して、部屋を出て騎士団が待つ大広間に向かう。

最近未来の私が主人公を虐めた気持ちが分かるような気がしていた。毎日一緒に過ごして、私を誰よりも心から大事に思ってくれるクロッシュは最早私にとって家族のような、私の一部になりつつある。そんなクロッシュが私の元からいなくなってしまうとしたら…。未来の私はきっとそのことに恐怖して、絶望したのだ。



大広間に入ると騎士達は直ぐに王族に対する礼をとった。その前をゆっくりクロッシュにエスコートされながら進み、中央に置かれた私専用の玉座に腰かける。


「顔をあげてください。騎士団長、発言を許可します。」

「はっ。タラクサクム王国騎士団第一部隊を代表して、騎士団長サルビアがご挨拶をさせて頂きます。この度、陛下の命により、コロナリア第一王女殿下を生誕祭の準備期間及び生誕祭期間、御守りさせて頂くことになりました。王女殿下の御身を命を賭して御守りする所存でございます。」


毎年お決まりの行事なので、特に新鮮味も感じない。正直騎士団も信用できるとは思っていないので、毎年必要以上の接触はしていない。けれど、毎年適度に我儘を言ったり理不尽に怒りをぶつけたりしているので、恐らく好印象は持たれていないだろう。


「ご苦労様。今年も頼むわね。と言いたいところなのだけれど。」


私の一言に騎士団長が身構えるのが分かる。


「先日新しい護衛を手に入れたの。クロッシュ。」


後ろに控えているクロッシュを呼び寄せ、挨拶をするように促す。


「お初にお目にかかります、コロナリア様の護衛をつとめさせて頂いております。クロッシュと申します。」

「私はこの護衛がとても気に入っているから、生誕祭の期間もこれに護衛して欲しいの。だから、三日後にこれには騎士の資格を取ってこさせる予定です。そして、これがいない間に騎士団から一人私専用の護衛を借りたいのだけれど。通常期間ならともかく、今日から第一部隊は私の護衛になる訳だから、一人ぐらい私付きになっても問題はないでしょう?」


私の提案を聞いた途端に騎士団長の顔が渋くなった。後ろに控えている騎士達の中には恐らく去年も私の護衛にあたったのだろう、私の我儘に『またか』という顔をしている者もいる。


「しかし、王女殿下。我々の主はあくまで陛下です。陛下のお許しがない限り私共の一存では何とも…。」

「別に生誕祭後も私付きになれと言っている訳ではないわ。私の護衛が騎士の資格を取ってくる間限定よ。そもそも紅茶も満足に入れられない護衛だなんて、こちらからお断りよ。それに『私を守れ』というお父様のご命令から逸脱した内容ではない筈。貴方達の主がお父様でも、貴方達が忠誠を誓ったのは王国のでしょう?その国の王女の命に反抗するというのはどういうことかしら?」


暴論なのは自覚している。倫理観や暗黙の了解、騎士団にかかる負担といった方面に問題があるものの、法的に問題がある訳ではない。その要求を王女という権力で強制しようとする辺り、まさに『我儘王女』である。毎度の如く頭の中でリモが悲嘆する声が聞こえるが、無視する。


「…大変失礼を致しました。ご気分を害してしまい、申し訳ございません。一人護衛をご用意致します。」


騎士団長も苦言を呈したものの、こちらの要求を飲まざるを得ないことが分かっているのだろう。直ぐに私の我儘を受け入れた。


「待ちなさい。まさか貴方が選ぶつもり?一時的とはいえ、私のものになるのだから、私が選びます。使えないものを寄こされて困りますから。」

「しかし、王女殿下。精鋭である第一部隊とはいえ、若い者も多く中には王女の護衛はつとまらない者もおります。」


クロッシュの容姿の良さから私が見目の良いものを護衛に選ぶと思っているのか、騎士団長は再び苦言を呈してきた。好印象をもたれていないとは分かっているが、まさか美形を侍らせて楽しむ人間だと思われていたとは正直心外だ。


「心配ないわ。選ぶのは私の護衛よ。私の護衛と闘って負けなかった者を私付きの護衛にするわ。」


騎士団長は平静を装っているが、後ろに控える騎士達は顔つきで私への嫌悪が強まったことが分かる。それはそうだろう。何しろ、騎士団の第一部隊は国の精鋭だ。近衛騎士団は実家の階級も入団資格に含まれる為、階級ではお父様の護衛をつとめる近衛騎士団に負けるが、強さでは上回る者も多い。「最高の近衛騎士団」と「最強の騎士団」の二つ名はそこから来ている。その第一部隊の騎士とまだ16歳の護衛が互角に闘えると思っているなど、彼らにしてみれば侮辱されたようなものだろう。


「後ろの騎士達は皆不満そうな顔ね。」

「いえ、決してそのようなことは。」

「なら、こうしましょう。私の護衛が負けたら、私付きの護衛は用意しなくても良いわ。」


私の提案は願ってもいないものだったのか、騎士団長の顔つきが少し柔らかくなった。


「そういうことでしたら、承知致しました。」


サルビア(Salvia splendens)

良い家庭 家族愛 燃える思い



ようやく攻略対象三人目が登場の兆しです。この調子だと全員出るのはまだかかりそうですね。特に魔法騎士団副団長はこの話の核心に迫る人物なので…。

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