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第5話 守護霊

クロッシュは完璧な護衛だった。護衛としての仕事は勿論、メイドの仕事も出来たし、何より気遣いが出来た。私が命令を出す前に全てやってのけるし、私がやろうとしたことも先回りしてやってくれる。一体どんな人生を歩めば、16歳でこんな完璧人間になれるのか。私は自分がそのうち一人では何も出来ないダメ人間になってしまうのではないかと、今から恐れている。そして、そんなクロッシュを私より恐れているのが守護霊だ。

メイドを殺した日から三日程経つと、守護霊の声は再び聞こえるようになった。そして、クロッシュに赤子のように世話を焼かれる私を見て悲鳴を上げた。何でも、げーむの中ではクロッシュは私のことをそれはもう嫌っていたが、隷属の首輪がある上に恩義があるからと言ってしぶしぶ仕えていたらしい。クロッシュはそういう存在だと思っていた守護霊からすると今のクロッシュは最早別人過ぎて怖いらしい。ちなみにクロッシュは守護霊の存在には直ぐに慣れた。慣れたというか、クロッシュがいるのを忘れて守護霊と話しているのを聞かれてしまい、物凄い勢いで心配をされたのだ。


「主!!?どうされたのですか!!?何かの毒?いや、だが食事は全て私が毒見をしていますし…。ならば、呪いの類!?っ申し訳ございません、主!!貴方を御守りすると誓った身であるにも関わらず、貴方を害するものを排除出来なかった!!!!今すぐ宮廷魔導士団に行って、黒魔法使いに見て頂きましょう!!!失礼!!!」


そう叫んだクロッシュは真顔で私を抱きかかえ、廊下に飛び出そうとしたのでそれはもう焦った。これは呪いでも何でもない「王家の加護」なのだから、下手に宮廷魔導士団にでも見てもらってそのことがバレたら呪いより大変なことになる。

大丈夫だと何度言っても聞かないクロッシュに命令を行使したことでようやく止まった。そして、そこから私は懇々と王家の加護について説明をした。私のこの力は王家の人間のみが持つ特殊な力で、それぞれもつ能力は異なり、それは元々持っている属性とは全く関係のない能力であること。王国では一般常識だが、クロッシュは帝国の生まれだ。理解するのに時間がかかるかと思ったが、どうやら帝国の皇族も似たようなものをもっているらしく、すんなりと納得してくれた。そして私はそんなクロッシュに最も重要なことを念押しした。


「いい、クロッシュ。この能力の発現の時期は人によって様々よ。そして、この能力を発現していることは王位を継ぐ絶対条件。王家の加護を所持しているということが、その者が正式な王家の血を継ぐ人間であるという何よりの証拠になるから。」

「成程。それ故このことは内密にとのことなのですね。」

「ええ、何しろ、今お兄様もリウムも王家の加護が発現していない。」

「それは…。」

「二人共王位を狙っているのだから、加護が発現したなら直ぐにそれを公表している筈よ。今この状況で私の加護が発現していると知られたら、それこそ暗殺の数は倍増どころではすまないわ。」


クロッシュは事の重大さを理解したのか、絶対に口外しないと誓い、隷属の命令にそのことを付け加えて良いと言ってくれたので、有難く付け加えさせて貰った。クロッシュのことは謎の忠誠心の高さからほとんど信用しているのだが、念の為という奴だ。


「それで、主。その守護霊というのはどのような方なのですか?主の身を御守りして下さっていた方なら、是非ともご挨拶をしたいのですが。」

「私も良く分からないわ、何でも本人が自分自身のことはほとんど分からないらしくて。そうよね?」

(そうなんだよねえ。ゲームの事なら何でも分かるんだけど、自分のことは全く。)

「矢張り分からないらしいわ。」

「成程、それはお名前もでしょうか?」

「名前?」

「はい、守護霊殿とお呼びするのも宜しいのですが、毎回そうお呼びするのも大変ですし。主は何とお呼びしているのですか?」

「特に名前では呼んでいないわね。特に守護霊以外に話す相手もいなかったから、『貴方』で充分だったし。」

(うっ、そうだよね、リアたん私以外にお友達いなかったもんね…。グスッ。カンパニュラが来てくれて本当に良かったねっ、お姉さん嬉しいっ!!!!)

「うるさいわね、貴方のことを友達だなんて思ったことは一度もないわ。大体クロッシュは友達じゃなくて、護衛よ、護衛。それに今はもうクロッシュなんだから。」

「あの、主、守護霊殿はなんと?」

「大したことじゃないわ。それにしても、いちいち通訳するのも面倒ね…。クロッシュも守護霊の声が聞こえるようになれば良いのに。」

「主のお手を煩わせてしまい、申し訳ございません。」


クロッシュは最初に見せた笑顔以外ほとんど真顔だし、声にも感情がのらないのだが、よく観察すると感情が分かる。今は多分少ししょんぼりしている。多分だが。


「クロッシュのせいじゃないし、ただの愚痴だから気にしなくて良いのよ。それにしても、名前ね…。正直考えたこともないし、何でも良いのだけれど。リモニウム、略してリモとかで良いんじゃないかしら?」

「はい、大変良い名だと思います。流石は我が主。」

(リアたん、もうちょっと考えてくれても良くないかな!!?名前って結構大事だよ!?それにカンパニュラもイエスマンすぎない!?)


リモの『私に冷たすぎる…』という嘆きを遮って、私は疑問に思っていたことを口にした。


「そういえばリモの未来予知は私が16歳の時からだと言っていたわよね。ならば何故クロッシュを見た時に直ぐに『カンパニュラ』だと分かったの?16歳の時は既にクロッシュだった筈よね?」

(ああ、それはカンパニュラルートで好感度上げていくとそういうイベントがあるんだよね。『俺の本当の名はカンパニュラ。今はあの女につけられた名を名乗っているが、君には俺の本当の名で呼んで欲しい。』って言われるの!!!あれには王家推しの私も画面の前で悶えたわあああああ!!!!いつもは一人称私なカンパニュラが一人称俺になるのとか、素を見せてくれた感じがして堪らん!!!!素晴らしいイベントでした!!!)

「主、少し顔色が悪いですが、どうかなさいましたか?」


なんということだ…。忘れていた。クロッシュも攻略対象なのだ。つまり、今はこんな従順に仕えてくれているクロッシュも私を裏切るのだ。この優しいクロッシュに裏であの女呼ばわりされるのだ。最近は大型犬みたいでちょっと可愛いとか思い始めていたのに、その仕打ちは辛すぎる。


「リモ。私がクロッシュに裏であの女呼ばわりされるのは確定なのかしら…。」

「な、主?何をおっしゃっているのですか!?私が主をそのような呼び方をすることなど未来永劫有り得ません。」

「けれど、私を裏切った人間は皆そう言って裏切ったわ…。マリアにレージュ、ルース、カンミュ、リーク、ネラ、ハンス、ノース、ミア、コリア、ルーク、ベス、」

(リアたんって意外と繊細だよね…。私最初にリアたんがベッドで虚空を見つめながら自分を殺そうとしてきたメイドとか護衛の名前を呟いてるの見た時、怖すぎて震えたもん。クロッシュ、リアたん結構そういうところあるから気をつけてね。って聞こえないのか…。)

「主、主!お気を確かに。俺が主を裏切ることなんてあり得ません。」

「リューク、スーザン、」

(あーもう、リアたん!!!リアたん!!!大丈夫だよ!主人公がカンパニュラルートに入らなければ、カンパニュラには裏切られないよ!!)


リモの叫び声に過去の回想からふっと意識が戻る。


「どういうこと?ルート?いつも思うのだけれど、リモの話は専門用語が多くて難しいのよね…。」

(あー、それもそうか。リアたん大人びているから忘れがちだけど、よく考えたら中学一年生だもんなあ。私の今までの説明も悪かったかなあ。えーと、なんというか、主人公が他のルートに入ってくれれば大丈夫というか。)

「しゅじんこうがクロッシュ以外と恋に落ちてくれれば良いということ?」

(いや、でも結局リアたんはどのルートでも大体死ぬからやっぱり駄目なのか?そういえばリアたん殺人ルートでクロッシュはリアが殺されるのを見逃してたり、何ならクロッシュがリアたんを殺すルートもあった気がするし。)

「…私クロッシュに殺されるの?」


隷属の首輪があるのだからと思っていたが、その効果を無効にする何かがあるのだろうか?だとしたら、それはまずい。早急に手を打っておかないと、クロッシュが私を嫌いになった瞬間に私は死ぬ。私の人生にそんな綱渡り要素はこれ以上要らない。

私がそんなことを考えていると、私の手を取り跪いていたクロッシュが突然立ち上げり抜刀した。


「クロッシュ!?」

「リモニウム。主に何を吹き込んでいる。俺が主を害することなど有り得ない。今すぐ発言を撤回しろ。」

(待って、クロッシュ激おこやん…。声も聞こえないし、姿も見えないんだから、絶対殺されないって分かってるのに、声と威圧だけで死ぬわ…。私ほぼ幽霊状態で本当に良かった…。)


リモの言う通り威圧が凄い。クロッシュは最高の味方だと思っていたが、そうか。最高の味方は敵に回ったら最悪の敵なのだ。自分で言っておきながら、心が痛い。


「大丈夫よ、クロッシュ。実際その可能性もない訳ではないのだから。」

「主…。主も俺が裏切ると思っていらっしゃるのですか?」

「悪いけれど、私まだ完全に貴方のことを信用した訳じゃないわ。貴方が何故そこまで私に忠誠を誓ってくれるのか。それを明かしてくれるまではね。」


捨てられた子犬のようなクロッシュに良心が痛むが、心を鬼にして言い切る。それにしても真顔なのに同情を誘う表情に見えてしまうなんて、私は大分絆されてしまっているのではないだろうか。


「リモニウム。改めて貴方が知っていることを全て話して。貴方がクロッシュの存在を、そしてカンパニュラの名を事前に知っているのは貴方が本当に未来予知が出来る証拠に他ならない。今まで貴方の話を信用せずに、聞き流していたことは謝るわ。本当にごめんなさい。」


ソファから立ち上がって、最上級の謝罪の礼をとる。


(仕方ないよ…。私も正直いきなり守護霊が現れて『貴方の未来知ってるよ!』って言われたら、多分信用しないし。でも、私の話を聞く気になってくれたってことは悪役王女を止めてくれるの!!!!?)

「貴方の話次第かしら。」

(まじか!!じゃあ、お姉さん頑張って話すね!!あ、一応掻い摘んで話すけど、かなり長い話になるから、御茶でも飲みながらゆっくり聞いてね!!!)

スターチス(Limonium)

変わらぬ心 途絶えぬ記憶 同情

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