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幕間 初恋 routeアコ二ウム

リモニウムがプレイした乙女ゲームのリアのお話です。

番外編のようなものなので、読まなくても本編を読むのに支障はないです。

いつまでも忘れられない記憶がある。




私は黒いワンピースのスカートを膝の上で皺になるまで握り締めて、俯いていた。教会の大きなステンドグラスを通して差し込んでくる光は、ピンクや赤できらきらしている。人が一人死んだくらいでは、世界は何にも変わらないのがとても不思議で怖かった。結局最後まで涙は一滴も出なかった。だって、もう私は泣いていいのかすら分からなかった。母の最期の一言だけがずっと私の中でこだましている。

足元できらきらしていた色んな色の光が急に黒い影で塗り潰されて、黒い靴が見えた。


「こんにちは。」


みんな、みんな帰ってしまって、帰る場所がない私だけが残った筈なのに。取り残された私に話かけてくれる人なんて誰一人思いつかなくて、私はのろのろと顔をあげた。


そして、私は目にした。この世で一番美しい人。今まできれいな人をいっぱい見てきたけど、この人は違った。この人のミルクティーは私と同じだと思えない程、きらきら光に反射していて、瞳のタンザナイトは深い深い海の色だった。

ああ、なんでこの人はこんなにきれいなんだろう。


それが私がもっている叔父の最初の記憶だった。








叔父はその日から私の部屋を良く訪ねるようになった。お菓子と花を持ってやってくる叔父が私の唯一だった。一緒に薔薇園でお茶を飲んで、他愛もないことを話した。叔父は話すのが苦手なようだった。だから、私達のお茶会はとても静かなものだったけれど、その静けさが私にも叔父にも必要なんだと子供ながらに理解していた。


しばらくすると、叔父が私を良く訪ねているという噂が王城で広まった。王城の人達が同情と憐憫をもって噂する『母を亡くした少女』と『婚約者を亡くした青年』の傷の舐め合いのお話は、どうすれば良いのか分からない私にとって酷く有難いものだった。そんなところまで私と叔父はおんなじで、でも、叔父のその喪失感が婚約者の死への純粋な悲しみと絶望から来ている点で私達は違った。


立て続けに暗殺に成功して、その頃は公爵家も大人しくしていたから、私たちの周りはとても穏やかだった。私は母のことを口にしなかったし、叔父も婚約者のことを話さなかった。そうすることで何とか私達は生き永らえていた。そんなゆっくりとした時間に私はずぶずぶに溺れていって、いつの間にか叔父のことを考えない日はないようになった。母がいなくなったことでぽっかり空いた穴には、叔父との時間が埋め込まれていった。


そうやって毎日をいたずらに繰り返すうちに、叔父は持て余していた激情の矛先を公爵家に向けることにしたようだった。それはいつかは来ることだった。この日々は私達を傷つけない代わりに、傷を癒してくれることはないのだと私達は気付いていた。そうして、私が8歳になった年の秋に叔父は王家の加護を授かった。


叔父がそれを公表したことで再び公爵家は牙を剥いて、私たちのお茶会は一週間おきになり、一か月おきになり、三か月に一回になった。食事は体調を崩すものでしかなくなり、ベッドは安心して身をまかせる場所ではなくなっていった。メイドも護衛も解雇して、公爵家の顔色しか窺わない家庭教師も解雇した。理不尽な命令と我儘を繰り返すうちにようやくそれらは収まっていった。けれど、度々襲ってくる死に私はいつしか眠れなくなっていった。


叔父の名前を御守りのように呼んで毎日ベッドに入った。食事の後に凄まじい吐き気に襲われて朦朧とする意識で叔父の顔を思い浮かべた。『出来損ないの王女』だと後ろ指をさされ、謂れのない悪評を流される度に叔父が私を呼ぶ優しい声で耳を塞いだ。


そうして抱えきれなくなった想いが叔父に知られるのはある意味必然だった。叔父の中にまだ婚約者が生きていることを知っていた。叔父の時間があの時から止まっていることを知っていた。けれど、不相応にも溢れてくるその想いは既に私の一部になってしまっていた。そうして私のその罪によって、私達が守っていた柔らかで繊細なあのお茶会は砕け散った。私が本当に叔父の為を思うのであれば、その禁忌は犯してはいけなかった。


私の13歳の誕生日の出来事だった。









叔父に暴かれたことで再び空いてしまったその穴から、私は崩れていった。不眠症は酷くなり、新しく出来た護衛に八つ当たりをして、そうやって日々を過ごすうちに私はいつの間にか本当に『出来損ないの王女』になっていた。

学園でも私は我儘三昧だった。私をおだてる貴族の子女を周りに侍らせて、私が傷つかない世界をつくろうと必死だった。けれど、そんな私の世界を壊したのは一人の少女だった。


花のような薄紅色の髪に蜂蜜のような黄色い瞳。彼女はその類い稀なる容姿と無邪気な立ち振る舞い、穢れのない性格で可憐に咲き誇っていた。それは私がずっと昔に捨ててしまったものだった。私が諦めざるを得なかったものを、至極当然のような顔をしてもっている彼女に私は生まれて初めて嫉妬した。


今まで色んな人から愛されてきたんだろうと思った。きっと幸せな人生を歩んできたんだろうと思った。ひどく憎らしくて羨ましくて、この少女も私のように失ってしまえば良いと思った。取り巻きを使って嫌がらせをして、恥をかかせて、散々虐めた。けれど、それでも失われない彼女の輝きに私の心はますます搔き乱された。むしろ増していく彼女の輝きはあの日のステンドグラスのようで私はそれにさらに嫉妬した。


私がたまたま一人で廊下を歩いていた時だった。生徒は皆帰ってしまった夕暮れ時に中庭を二人で歩く叔父と少女を見かけた。何故あの二人が一緒に歩いているのか。胸騒ぎがして急いで後を追った。二人はそのまま校舎の裏にある教会に入っていった。その教会は学校行事の際にしか使われず、普段は人もほとんど訪れない場所だった。ここに一体何の用があるのか。逸る気持ちを押しとどめて、静かに教会の扉に近づいて手をかけた。ゆっくりゆっくりと扉を開けて、隙間から中を覗き込んだ。


教会のステンドグラス越しの夕焼けの輝きに目が眩んで、思わず目を閉じる。そして、ゆっくりと目を開けていき、じょじょに慣れてきた私の瞳に写ったのは降り注ぐ光の中で口づけを交わす二人の姿だった。


その瞬間、私の中で最後に残っていた何かが弾ける音がした。


叔父に受け入れて貰えないことは仕方のないことだと思っていた。叔父の中には婚約者がいて、誰ももう彼女にはなれないのだと分かっていたから。


けれど、少女は彼女になった。叔父の唯一になった。




私は走って走って走って、自室のベッドで慟哭した。




なんで、なんで、なんで。

私の方が先に好きだった。私の方がずっとずっとずっと好きだったのに。


どうして私じゃないの。


こんなに好きなのに。


私は貴方じゃないと駄目なのに。


貴方が私の唯一なのに。


どうして私は貴方の唯一じゃないの。


どうしてあの子は私が手に入れられなかったものを全部持っているの。


私はどんなにボロボロになったって良かった。本当はドレスも宝石も言いなりになる友達も何にも要らなかった。


ただあの人だけいてくれれば良かった。私はずっとずっとあの人だけが欲しかった。


なのに、なんであの人すら奪っていくの。






お願いだから、私を一人にしないで。


一人は寂しい、寂しいよ。



ずっと、ずっと、私は貴方を………。




…………アコニウム。




これは誰も知らない、一人の少女の初恋の話。

【アコ二ウム】


 絶世の美男子の王弟。

 30歳とは思えないその美貌とその手腕から多くの女性を虜にしてきた。穏やかで優しい誰からも好かれる性格だが、自分の容姿が良いことを自覚して利用する強かな一面も。

 しかし、そんな彼には忘れられない存在がいるようで?



現王の弟 王位継承権 第2位 

年齢:30歳   身長:183cm  体重:65kg

好きなもの:紅茶・???         嫌いなもの:???・???


※このキャラクターは特定の条件を満たすことで攻略が可能になります。

 

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