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短編小説

デレなかったツンデレは、どうなると思いますか?

掲載日:2018/12/08

「ゆーとくん、はやくいこう! おひさま、しずんじゃうよ!」

「う、うん。ま、まって、ゆかりちゃん」

「ほら、て、つないであげるから。まっててあげるから、あせらないでいいよ」

「う、うん。ゆかりちゃん、ありがとう」

「いいんだよ。ゆーとくんのこと、だいすきだもん」

「ぼ、ぼくもゆかりちゃんのことだいすき!」

「うれしい! ゆかりも、ゆーとくんのことだいすきっ!」

「じゃ、じゃあ、おとなになったらけっこんしてくれる?」

「うん、いいよ。ゆかり、ゆーとくんのおよめさんになる」

「や、やった! やくそく!!」

「うん、やくそくだよ」




「ゆうとくん、学校いこ?」

「あ、ゆ、ゆかりちゃん。ちょ、ちょっとまってて、ご、ごはん、まだたべおわってないから」

「そんなにあわてないで! つまらせちゃうから! ママが言ってたけど、ご飯はよくかんで食べたほうがいいって!」

「で、でも、ねぼうしちゃったから、ゆかりちゃんがおくれちゃうよ……先生におこられちゃう……」

「その時は、いっしょにおこられればいいよ! ゆうとくん、一人でおこられたら、泣いちゃうじゃない」

「で、でも……」

「いーの! 食べおわったら、て、つないで学校にいこ!」

「ゆ、ゆかりちゃん、ごめんね。いつも、ありがとう」

「だいじょうぶ! ゆかりがずーっといっしょにいて、おせわしてあげるから!」

「う、うん! ゆかりちゃん、ありがとう!」




「ゆかりちゃんって、ゆうとくんと付き合ってるの?」

「え……な、なんで……?」

「だって、3組の健太くんが言ってたもん。いつも、二人で手つないで帰ってるって。ラブラブカップルだ~って言ってたよ?」

「えー! ゆかりちゃん、ゆうとくんなんかと付き合ってるの!? どこがいいの!? このまえの体育で、転んで泣いてたよー!?」

「え、ち、ちがうよ!! つ、付き合ってなんかない!! い、家が近いから、めんどう見てやれってママが!!」

「じゃあ、好きじゃないの?」

「え……う、うん。す、好きじゃないよ。て、テストの点数だっていつもひくいし、ご飯食べるのおそいし、なにやらせてもダメだし、す、好きになんかなるわけないじゃん!」

「だよねー!」

「あ、あんなバカ、好きなわけないよ……し、しかたなく、お世話してあげてるだけだもん……」




優人ゆうと、あんた、いい加減にしなさいよ!!」

「ご、ごめん」

「だから、この公式を使えばいいだけでしょ!? 何度言えばわかんのよ、この単細胞!! 教科書!! 教科書見れば、どんなバカだってわかるでしょうが!! なんであんだけノートとっといて、こんな問題もわかんないのよ!!」

「い、いや、でも、この公式の意味が――」

「だから、意味なんてどうでもいいの!! 憶えるの!! 憶えればテストで点数とれるんだからそれでいいでしょうが!! どんだけ、頭悪いのよ!? 毎日毎日毎日、あんたなんかの世話する身にもなりなさいよ!!」

「ご、ごめんね、ゆかりちゃん。め、迷惑だったら、教えてくれなくていいから」

「はぁ? 誰も迷惑だなんて言ってないでしょ? それにあんたの頭が悪いと、幼馴染の私までバカみたいだって言われるじゃない。仕方なく、あんたに勉強教えてあげてるのよこっちは」

「う、うん。あ、ありがとうございます」

「ま、あんたみたいなバカでノロマな男、世話してやるような優しい女の子は、世界中探しても私くらいのものでしょうね。

 ほら、見なさいよ。また、百点。テストが簡単過ぎて困っちゃうくらいだわ」

「……うん」

「そ、そう言えば、ま、ママから映画のチケットをもらったのよ。あ、あんた、どうせ、明日は暇でしょ?

 い、一緒に見に行ってあげても……い、いいけど」

「え、ぼく、明日はみんなで対戦ゲームする約束が」

「は、はぁ!? そ、そんな約束、どうでもいいでしょ!! そ、それに、い、いつも世話してあげてる、わ、私が誘ってあげてんのよ!! な、なによりも優先するのが普通でしょうが!! ば、バッカじゃないの!?」

「で、でも」

「いーから!! 明日は私と映画!! どうせヘボなあんたがゲームしても負けるだけなんだから、時間の無駄!! わかった!?」

「……うん」




「ゆかりって、葛城(かつらぎ)くんのために、志望校のレベル下げて、ココ入ったって本当?」

「あー、そのことね。そうよ、本当に困ったものだわ。あのバカの世話をし続けてたら、私の頭まで腐っちゃったみたいでね。こっちが必死に勉強教えてあげたにも関わらず評定が上がらないから、私が下げてあげることにしたってわけ。

 まー、優人(アレ)は放っておいたらのたれ死にしちゃうし、子供の頃からの付き合いだから、可哀想なペットとして愛着もっちゃってんのよ」

「うっわー、ひっど! アレだけ傍にいて男として見られてないって、本人からしたら相当キテると思うよ?」

「私が躾けただけあって、アレは身の程を知っているから安全なのよ。ま、バカなでかい犬みたいなもんね」

「ゆかり、やさしー! でも、いい加減、自分のこと考えたほうがいいって! アレだけ告られてるのに、全部フッてるんでしょ? もったいないよー、サッカー部の柏井先輩とか、ちょー当たりだと思うよー?」

「わ、私が付き合い始めちゃったら、あぶれたあのバカが可哀想じゃない。だから、仕方なく、お付き合いは避けてるの。

 ま、まったく、困ったものだわ」

「……まさかとは思うけど、ゆかり、葛城(かつらぎ)くんのこと好きじゃないよね?」

「は、はぁ!? そ、そんなわけないでしょ!? あんなグズのノロマ!!」

「でも、お弁当、毎日作ってきてるじゃん」

「え、ちが、コレは……は、はい、新城くん!」

「は? なんで、新城?」

「だって、新城くん、いつもコンビニのお弁当ばかりじゃない。たまには、きちんとしたものも食べないと身がもたないわ」

「いや、だからって、新城にあげるって……こんな髪長くて色白の気持ち悪いの、なんか不潔な感じするしさ……クラスで相手してあげてんのゆかりくらいだよ……」

「でも、新城くんは、いい人よ? 誰もやりたがらない仕事は率先してやってくれるし、この間、轢かれた子猫を動物病院に連れて行ってるのを見たわ。

 長い前髪も似合ってると思うけれど」

「だからって、うわ、ないわー」

「と、ともかく、アイツのことはなんとも思ってないから!!」




「あ……あ、あの、ゆかりちゃん……実はぼく……」

「優人! 今度の日曜日、勉強会するわよ!」

「え、あ、ご、ごめ、そ、その日は約束があっ――」

「はぁ!? バカでヘボなあんたが遊んでる暇なんてあると思ってるの!? 私が志望校下げてやったこと、忘れてないわよね!?

 そもそも、あんた、最近いつもそう言ってサボってるじゃない!! どこのバカ男子と遊び回ってるか知らないけど、自分の立場理解してるわけ!?」

「で、でも、ぼく、ゆかりちゃんには一番行きたい高校に行って欲しいって」

「あーあー、そういうこと言って、私から受けた恩義を無駄にするのね。最低ね、あんた。バカでノロマだけじゃ飽き足らず、クズだったなんて知らなかったわ」

「…………」

「明日は勉強会。いいわね?」

「……うん」




「優人、行くわよ。さっさと、準備しなさい」

「…………」

「ちょっと、なにしてんのよ。早く行かないと、図書館の席埋まっちゃうんだから。

 まったくもう、本当にあんたは、私がいないと何も出来な――」

「い、行かない」

「……は?」

「べ、勉強会はしない。ゆ、ゆかりちゃんとは行かない」

「え、あ、な、なに? ぐ、具合悪いの!? 大丈夫!? す、直ぐに薬と栄養のあるもの買ってくるから! あ、あんたは、二階の部屋で寝て待ってなさい! い、いい!? ちゃんと布団をかぶって、温かくして寝――」

「か、彼女ができたんだ」

「…………………………ぇ」

「と、隣のクラスの白川さん。い、委員会で一緒になった時に、す、すごく優しくしてくれて。そ、それで好きになって、この前、ゆ、勇気を出して告白したら、わ、わたしも好きだよって言ってくれて」

「ぇ……ま、まって……ご、ごめ……い、いっかい、ま、まって……」

「で、デートも何回もしてて。そ、それで、ゆかりちゃんにも言わなくちゃって、お、思ってたんだけど、ゆかりちゃん話聞いてくれなくて。そ、それで言い出せなくて。で、でも、ゆかりちゃんと会うって言うと、白川さんは悲しそうな顔で『いいよ』って言ってくれて。ぼ、ぼく、本当に白川さんのこと好きだから、そんな顔させたくなくて」

「…………」

「だ、だから、もう、ゆかりちゃんとは会えない。きょ、今日も白川さんと会うから、一緒に行けない」

「……ど、どこがいいの?」

「え?」

「あ、あんな女のどこがいいの? し、白川さんって、べ、別に可愛くないし、ちょ、ちょっと太ってるし、に、二組でも浮いてるんでしょ? さ、さすがにさ、な、ないんじゃないの? あ、あんたがクズでノロマなバカだとしてもさ、あ、あんな女を選ばなくても、もっと可愛い子がい――」

「やめろっ!!」

「ぁ……ち、ちが……」

「いつもいつも!! なんで、人に対して、そんな酷いこと言えるんだよっ!! 迷惑をかけてきてるぼくは、まだいいよ!! でも、白川さんの悪口まで言うのはおかしいだろっ!!」

「ご、ごめ……ち、ちが……わ、私、ほ、本当は……」

「帰れ!! 帰ってよ!! 嫌いだ!! もう顔も見たくない!! 恩は感じてるけど、全部、お前が押し付けてきただけだろ!! もううんざりなんだよっ!! 帰れよっ!!」

「ごめ、ごめんなさ……ごめんなさい……ごめんなさい……」


























 全身、汗だくになって目が覚める。

 

 午前3時半。この夢を見るのは何度目のことか……高校二年生になった私は、未だに優人と顔を合わせていない。


「…………」

 

 洗面所の鏡に映る私は髪の毛がボサボサで目は充血し、目の下にはくっきりとした黒いクマができている。顔中から疲労感がにじみ出ているせいか、無理に墓場から這い上がった老婆みたいだった。

 

 最も嫌いな自分を目の当たりにして、私は怨嗟を投げかける。


「死ね」

 

 ――ぼ、ぼくもゆかりちゃんのことだいすき!


「死ね、死んでしまえ……お前なんか、死ね……死んじゃえ……」

 

 ――ゆ、ゆかりちゃん、ごめんね。いつも、ありがとう


「死ねぇえええええええええ!! 死ね、死ね、死ね、死ねぇえええええええええ!! お前なんかっ!! お前なんか死ねぇええええええ!! うわぁあああああああああ!!」

 

 叫びながら思い切り拳を鏡に叩きつけるのを繰り返し、体力の限りを尽くしたところで息を荒げながら涙を零す。


「うぅ……うぁあ……ぁあ……ぁあ……」

「ゆかりちゃん! どうしたの!? 大丈夫!? ゆかりちゃん!?」

 

 たかが恋愛でぶっ壊れた私は、ママに抱きかかえられて泣き縋る。


 引きちぎれて破れた手の甲を手当してもらって、もう一度ベッドに横たわり眠れない時間を過ごす。

 

 コレが――優人を虐めてきた私への罰。




「一ノ瀬さん、数学のプリント、早く出してよ」

「ぁ……ご、ごめんなさ……す、直ぐ出しま――あ、ご、ごめ、ロッカーかも」

「はぁ? なら、コレ、職員室まで運んどいてよ」

 

 一年生の時には優しく接してくれていたクラスメイトが、ぞんざいに大量のプリントを私の机に置き、雪崩となったそれらが床に崩れ落ちる。


「あーあー」と吐き捨てた彼女は、スマホをいじりながら立ち去っていった。


「ちょっともー、ゆかりちゃーん。早く拾ってよー、これじゃまー」

「ご、ごめんなさい……す、直ぐ拾います……」

 

 這いつくばった私は、足で渡されたプリントを回収し、どこからか聞こえてくる嘲笑に頭痛を憶える。


「女子、ひでーな。こっわ」

「おい、一ノ瀬のパンツ、見えそうじゃね?」

「メンヘラのパンツ見てどうすんだよ。アイツ、葛城(かつらぎ)追いかけるためにココに入学して、フラれた上に今でも付きまとってるって噂だぜ?」

「俺からしたら、そっちのほうがこえーわ」

 

 泣きそうになる自分を自覚しつつもプリントをかき集め、私はそれを抱え逃げるようにして廊下に飛び出した。

 

 優人との訣別の後、私はまともに人と接することが出来なくなった。

 

 あまりにもショックで三日寝込んだ後、教室に入ろうとした私が聞いたのは、友人だと思いこんでいた彼女たちからの中傷で……元々、多くの男性から好意を抱かれていて、なおかつ、自分の成績の良さを吹聴していた私を疎んでいたに違いない。


 自分からの好意を言葉や態度では伝えようとせず、高圧的な物言いと傲慢な素振りで見せつけていた私は、さぞや周りには嫌味ったらしく映っていたことだろう。


 でも、私は、そんなこと微塵も理解しておらず――予想外の方向からきた“悪意”に、過呼吸を起こして倒れた。


 三日間も学校を休んで過呼吸で倒れた女子がいると聞けば、好奇心を抱くのが人であるし誰もがその理由を知りたがることだろう。


 次に登校した時には、私と優人の関係性が広まりきっており、私は優人のストーカーで、未練がましく付きまとっているメンヘラということになっていた。


 間違えていない。間違えてはいないが、私はもう誰も信じられなくなった。


 せめて、優人と“友だち”としてやり直せたらと何度も思った。でも、今の状態で彼に近づけば迷惑がかかるしそんな勇気は持ち合わせていない。


 だから、泣くしかない。眠れない夜を過ごして、何度も死にたいと願って、幾度も消えてしまえればいいと願う他ない。


 正直言って、もう生きていたくな――うつむいて歩いていた私は誰かにぶつかり、慌てて頭を下げる。


「ご、ごめんなさ……い……?」

 

 顔を上げた私は相手の顔を見ようとして、“相手の顔が見えない”ことに気づき、思わず呆けていた。

 

 前髪。男の子とは思えないくらいに、異様なまでに長い髪の毛が彼の顔を覆い隠している。


 さすがにココまで伸ばしてしまったら、校則違反として生徒指導を受けるんじゃないだろうか……私の心配をよそに、彼は宣誓するみたいにして片手を挙げた。


「通りすがりのハーレム主人公だが、なにか手伝うことはあるか?」

「……え?」

 

 ハーレム主人公? 今、ハーレム主人公って言ったわよね? なに、ハーレム主人公って? オスマン帝国に存在してたハレムのこと? どういう類の冗談かしら?


「は、ハーレム主人公?」

「知らないのか? 大昔の恋愛シミュレーションゲームの主人公は、御尊顔に自信のないプレイヤーでも感情移入できるように、そのイケメンフェイスを前髪で覆い隠していたんだ。

 そういったギャルゲー主人公の大半は、特に理由もなく美少女やらを助けることでハーレムを築き上げていた。そこから閃き(エウレカ)を受けた俺は、わかめを食べ続けることで強く確かな毛根を育て上げ、毎夜のトリートメントを忘れないことで、“不快感のない清潔な前髪”を実現させたのだ。

 つまり、モテたかったから前髪を伸ばした」

 

 私が言うのもなんだけど、この人、間違いなくやばい人だわ。

 

 彼の言う通りに艶めいて輝きを発し、サラサラと音を立てて流れる前髪を目にしながら、私は微笑んで一礼する。


「い、急いでるので、コレで失礼しますね」

「大変だったよ、ココに至るまではな。なにせ、参考資料は、フロッピーディスクに収められているような古代のゲームだ。現行PCに仮想マシンを導入して、MS-DOSやPC-98の環境を構築し、中古屋やネットオークションを巡って手に入れたソフトを仮想ディスクに――」

 

 早足で歩き始めた私の後ろを、謎の呪文をつぶやきながら追いかけてくる彼。


 シャツを出しっぱなしにして猫背で両手をポケットに突っ込んでいる異様な風体もあって、恐ろしいまでの存在感を醸し出しており恐怖すら覚える。


「あ、あの、付いて来ないでもらえますか……!」

「なぜだ、理由を明示してくれ。ハーレム主人公だぞ。普通、通りすがりのハーレム主人公に会ったら、そのプリントの山の半分を差し出すものなんじゃないか。俺が君の立場なら、喜んでイベントに突入するが」

 

 ダメだ、言葉が通じない。頭がオスマン朝だ。

 

 言い聞かせるために立ち止まった私は、プリントを受け取ろうと両手を広げた彼に、紙代わりの言葉を投げつける。


「め、迷惑がかかります……わ、私の噂くらいは聞いたことあるでしょ……そ、それに人の目が怖いから、他人とは関わり合いたくないんです……」

「なら、安心じゃないか。俺の両目は隠れている」

「そ、そういう意味じゃなくて! あなたと一緒にいるところを見られたら、また私に変な噂が立――」

 

 ――え、ち、ちがうよ!! つ、付き合ってなんかない!! い、家が近いから、めんどう見てやれってママが!!

 

 なんで。なんで、噂なんかを恐れていたんだろう。優人は優しいから大丈夫だという慢心が、私と一緒にいてくれるという根拠のない自負が、あのセリフを口から吐かせておしまいを導いた。


 私は――あの頃から、何も変わっていない。


「……一人にしてください。もう、疲れたんです」

「そいつは困るな。なにせ、俺は通りすがりのハーレム主人公だ。お困りの美少女を助けるのは、当然のタスクと言える」

「あ、あなたの“お遊び”に巻き込まないでください。これくらいのプリントを運ぶくらい、あなたに手伝ってもらわなくても――」

「葛城優人」

 

 大好きな幼馴染の男の子の名前――心臓が跳ね上がって、私は髪の毛の隙間から覗いている目玉を見つめる。


「明日の一時半、駅前の大時計の前だ」

「あ、ちょっと」

 

 私から無理矢理にプリントの束を奪った彼は、平然とした態度で言った。


「葛城優人と君の仲を取り持ってやる。

 来るも来ないも君次第だが……もう、後悔はしたくないんじゃないのか?」


 主張するかのように左胸がドクンドクンと音を立てて、私は震える両手を押さえつけるようにして立ち尽くす。


 子供の頃からずっと一緒で、一日たりとも逢わない日はなかった。


 逢いたい。逢いたくてたまらない。好きで好きで好きでたまらなくて、そのことを自覚する度に余計に辛くて、部屋に飾ってある子供の頃のツーショット写真が宝物で、思い出す度に胸が引きちぎれて死んでしまいそうで。


 逢いたい。でも、逢いたくない。


 逢ったらもっと酷い目に遭うんじゃないかって、優人が自分のことを好きだと信じ込めない今の自分が、手ひどく痛めつけられることになるんじゃないかって。


 でも、優人の、私を見る、あの優しげな眼差しを、いつからか向けてくれなくなったあの目を思い出すと――


「……逢いたい」

 

 たまらなく、逢いたくなる。


「逢いたい……逢いたいよ……優人に……」

「だったら、逢えばいい。そこで立ち止まっている暇なんてないんだろ? ハーレム主人公はモテるからな、なんでもお見通しだ」

 

 『助ける』とのたまう彼は、プリントを両手でもって歩き出し――


「……コレ、どこに運ぶの?」

 

 なんでも、お見通しじゃなかったの……不安になった私は、彼から半分のプリントを受け取った。




 フリルのついた白色のトップスに薄手のカーディガンを合わせて、フロントにスカラップのあるピンクのタイトスカートで彩りを加える。


「か、可愛いかな……あ、でも、トップスは黒色にしたほうが大人っぽくて良いかしら……優人は女の子っぽい女の子が好きそうだから、白のほうが爽やかな感じが出ていいと思うんだけど……顔色の悪さは、メイクでも誤魔化せそうにないのがネックね……」

 

 鏡の前で何度も衣装を合わせてくるりと回転、目の下のクマはメイクで隠して、髪の毛も丹念に溶かしツインテールに結んだ。


 少しでも可愛いと思ってもらえるように万全の準備を整えて、私はそわそわとしながら何度も腕時計に目をやる。


 あとちょっと我慢すれば優人に逢える……自然とニヤつく顔を抑えるのに必死で、鼻歌を歌い出しそうになる自分に驚く。


 もしかしたら。もしかしたら、優人と前みたいに戻れるかもしれない。それどころか、やり直せるかもしれない。今度こそ素直になって、『好きだ』と伝えられるかもしれない。


「やり直す……やり直すのよ……今度こそ……今度こそ、素直に……憎まれ口を叩かないように……慎重に……慎重に……」

 

 姿見に映る自分に言い聞かせてから深呼吸をして、待ち合わせ時刻の一時間前に、未来(そと)へと通じる扉を開け――


「よう」

「うわぁっ!!」

 

 開けた瞬間、目の前に長髪で顔を隠している男子がいて、あまりの驚きに尻もちをつきそうになるが片手で支えられる。


「どうした、大丈夫か。なんで、急にリアクション芸の練習を始めたんだ。芸人を目指すなら応援するが、時と場合を選ばない笑いは、聴衆の反感を買――」

「人の家のドアの前で、あんたが待ち伏せしてたからでしょうが!! どういう思考回路してたら、リアクション芸の練習してると勘違いするのよ!!」

「え、なんだって?」

 

 ぶん殴ってやろうかと右拳を振り上げ――これから優人に逢うにも関わらず、暴力に走ってはいけないと思い直して引っ込める。


「すまないな。ハーレム主人公は、総じて難聴なんだ。もし告白していたなら申し訳ないが、相手が悪かったと思って胸に恋心を秘めててくれ」

 

 ダメだ、この人の相手をしてたら正気が揺らぐ。


 私は愛想笑いを浮かべ、姿勢を正してから彼の手を打ち払う。


「なんで、ココにいるんですか? 110番がどこに繋がるか知ってます?」

 

 『110』と入力済みのスマホを見せつけながら迫ると、彼は両手をポケットに突っ込んだままニコリと微笑む。


「ぶつかりたかったんだ」

「……は?」

「伝統芸能だよ、伝統芸能。知らないのか? アレだアレ、食パンを咥えた美少女が『遅刻遅刻~』と言いながら走ってきてぶつかるアレ。

 アレをやろうと思って、三時間前からそこの曲がり角で待ってたんだが……よくよく考えてみれば、君があそこの曲がり角を曲がる可能性は100%じゃないだろ? だから賢い俺は、扉の前で待つことでその可能性を100%まで引き上げたわけだ。

 『確率の魔術師』と呼んでも構わないよ」

 

 自動車事故率を100%に引き上げて自死してくれないかしら、確率の魔術師。


「つまり、君を迎えに来た。ハーレム主人公は、紳士たる風貌を保つために、常日頃からの努力を怠らんのだよ」

「どこをどう概略したら『つまり』という副詞に辿り着くんですか……って、もうこんな時間! バスが行っちゃう!!」

「大丈夫だ、安心しろ」

 

 迎えに来た、安心しろと言うくらいだから、移動手段を用意してきたんだろう。


 私は期待に満ちた目で、彼を振り返る。


「駅前までなら、走れば30分だ」

「本気でぶん殴るわよ、あんた!! 走って汗なんてかいたら優人に嫌われちゃうし、この靴で走れるわけないでしょ!?」

「冗談、冗談。次のバスで行けばいいだけの話じゃないか。そう喚くのはやめて、ハーレム主人公の好感度でも上げたらどうだ?

 今なら、『ちゅきちゅきだいちゅき』と言うだけで、好感度20%アップボーナスキャンペーン実施中!!」

「メリットひとつないのに誰が言うかっ!!

 優人を待たせたくないし、早めにあっちに行って下見しておきたいの!! 時間が空いた時にウィンドウショッピングできるような優人好みのお店、私は完璧に把握してないんだからっ!!」

 

 思いの丈をぶち撒けると、彼は納得したかのようにうなずく。


「なるほどな、それは悪いことをした。

 乗れ」

「……なにこれ」

 

 私の家の塀前に停めていたらしい自転車は、普通の自転車とは違ってサドルとペダルが二人分ついていて、妙に長い赤色のボディを誇らしげに見せつけていた。


「タンデム自転車だ。

 王道ラブコメの定番と言えば二人乗りだが、昨今は道路交通法違反として取り締まられてしまっていてな。地域にもよるが、タンデム自転車であるならばセーフということで、導入することにした。

 ハーレム主人公たる俺は10人用のタンデム自転車を、美少女9人と乗り回すのを旨とする未来を描いていたが、日本では到底許されることではないらしいので、2人乗りで我慢することにしたんだ。

 さぁ、乗るがいい」

「……絶対に嫌だ」

 

 こんなものをこんな変人と二人でキコキコ乗っていたら、否応なく周囲からの好気の目にさらされる。さらされないとしても、コレに跨って笑顔でペダルを漕ぐのは、ゾンビに襲われていてもごめんだ。


「なんだ、葛城優人に向ける想いはそんなものか」

「……は?」

「君の愛を試すつもりで、コレを持ってきたわけだが……案外、大したことないんだな。タンデム自転車で愛する人の元まで辿り着けないなんて、正直言って、がっかりを通り越して呆れの情すらも抱くよ」

 

 私が? 私が優人を愛してない? 幼稚園に通ってる頃から、ずーっと好きだったのよ? その私が? その私が優人を愛してない?

 

 無言でタイトスカートのボタンをひとつ外した私は、タンデム自転車の後部座席に座ってヒールでペダルに足をかける。


「……そこまで言うなら見せてやるわよ」

「え、なんだって?」

「そこまで言うなら見せてやるって言ってんの!! 私が抱えてる優人への愛!! しかとその目に焼き付けなさいよ三下ァア!!」

「それでこそだ」

 

 ボソリとつぶやいた彼は、前の席に座ってハンドルを握り――


「『めくるめく愛の世界号』、発進!!」

「え、なに、その生ゴミみたいな名前。

 やだ、乗りたくない、やめて、下ろしてっ!!」

 

 途中下車拒否を示すかのようにタンデム自転車は軽快に動き出し、私は羞恥心をこらえながら必死にペダルを漕ぎ始めた。




「…………」

「良かったな、無事に店の目星もついて。予定よりも早く駅前に着くことができたし、坂が多いこともあって汗もかかずに済んだしで万々歳じゃないか」

「……坂道でスピードがつきすぎて死にかけた以外はね」

 

 タンデム自転車は一人乗り用の普通自転車と違って、走行重量が大きい上に空気抵抗は一人用とさほど変わらないので、普通自転車よりもはるかに速度が高くなる……ということを、死にかけた際に、笑顔でこの男は解説していた。


 彼の言う通りに予想外に早く到着できたのはいいが、強風で崩れた髪の毛のセットに時間を食ったし、そもそも彼さえ現れなければ、バスを使うことで余裕をもって辿り着くことができたのだ。


 ……まぁ、元を辿れば、目の前にいる『ハーレム主人公』のお陰で今日があるから、何も言えないんだけどね。


「ね、ねぇ、髪型、おかしくない? 服装も問題ないかしら? あ、あと、に、匂いはどう? ママに借りた香水をつけてきたんだけど、匂い過ぎてないかな? ど、どこか、妙に思える部分はない?」

「後頭部から髪の毛で腕を生やしている以外は、どこもおかしくないと思うが」

「そういう髪型!! ツインテールよ、コレ!! そういう認識でツインテール見てきて、よく自分がモテてるとか言えたわねあんた!!」

「イッツ・ア・ジョークだ。

 そう緊張するなよ、ただ幼馴染に会うだけじゃないか」

 

 さっきから震えっぱなしの両足を指さされ、私は小刻みに痙攣する両手でソレを押さえつける。

 

 口の中は乾きっぱなしで妙に身体は暑く、心臓を口から吐き出したいくらいに耳元で心音が響き渡っている。


「……どれ、俺も髪型を変えてみるかな」

「え?」

 

 そう言って、彼はおもむろに前髪を掴んで――ずるりと、“髪の毛”を引きずり落とした。


「きゃぁっ……って、あれ?」

 

 現れたのは、同じくらい長い前髪。

 

 彼はウィッグを人差し指でくるくると回し、もう一度ソレをかぶり直していたずらっ子のようにほくそ笑む。


「どうだ、驚いただろう。この間、パーティグッズを漁っていたら、偶然にも『ハーレム主人公の髪の毛』が売っていたんだ。キューティクルが半減するものの、ハーレム主人公を志す身としては買わない手はなかったからな」

「び、びっくりさせないでよ! 子供じゃないんだから、もうちょっと節度をもっ――」

「震え、止まって良かったな」

「え?」

 

 気づいたら、両手足の震えは収まっていた。


 驚いたせいで意識が逸れたせいか、落ち着いて周りを見ることができて、丸まった背中でこちらを見つめる彼をようやく捉えることができる。


「あ……その……ありが」

「お、今日の主役のご登場だ」

 

 勢いよく顔を上げる。


 人混みの中から一瞬で優人を見つけて、幸せな気持ちが全身に満ちていき、同時に嬉しさと愛しさが無尽蔵にこみ上げてくる。

 

 優人が私を見つけて――へにゃりと微笑んだ。


「ゆかりちゃん、久しぶり」

 

 私の目の前に優人がやってきて、緊張感がピークに達する。


 脳に心臓がくっついたみたいにして、爆音が頭を支配する。さっきまでの緊張がほぐれていなかったら、冗談抜きで倒れていたかもしれない。


「ゆ、優人、あ、あの、その、げ、元気そうね。よ、よかったわ。あ、じゃなくて、その、よ、よかったわ。うん、その、よかった。あ、あの、元気、そうで。その、よ、よかったわ。う、うん」

 

 言いたいことはアレだけあったのに、ひとつたりとも頭に浮かんでこない。どうすれば、優人に嫌われずに済むのかを考えるだけで手一杯。深夜までシミュレーションしたにも関わらず、同じ言葉を繰り返す他ない。


「……ゆかりちゃん、顔色がいいね。

 クラスが変わってから会ってなくて心配したんだけど、元気そうで安心したよ」


 朝の時点では、間違いなく私の顔色は悪かった……たぶん、自転車を漕いで、適度な運動をしたお陰で血行が良くなったんだろう。


 だとしたら、この人のお陰で――


「今日は、服装が可愛いね。ゆかりちゃんによく似合ってるよ」

「……ぇ」

 

 優人が! 優人が褒めてくれた!!

 

 天上に舞い上がるような幸福感。血が集まって、頬が上気しているのがわかる。あまりの嬉しさにニヤつきが押さえられなくて、好き勝手に口が滑り始めるのを感じた。


「は、はぁ!? あ、会ったばかりの女の子に、か、可愛いだなんて! そ、そんなこと急に言い出すなんて、頭おか――ふべっ!」

 

 顔の正面を引っ叩かれて、私の口が見事に動作を止める。


「悪い。顔にクワガタがついてたから」

 

 素知らぬ顔で私の顔面を引っ叩いた彼を見て、私の中の何かがブチリと千切れて――


「この季節の駅前で、クワガタが飛んできて顔についてたまるか!! そもそも、人の顔でクワガタを潰すような真似をするんじゃないわよっ!!」

「でも、オオクワガタだぞ?」

「なるほどね! オオクワガタだったら、潰れないからセーフ……ってなってたまるかっ!!」

 

 くすくすという笑い声が聞こえてきて正気に戻ると、優人が涙を滲ませてお腹を抱えるようにして笑っていた。


「い、伊織くん、やっぱり面白いね。ゆかりちゃんと息ピッタリだ。二人が友だちになったって聞いて、正直、合わないんじゃないかと思ったけどぼくの間違いだったよ」

「え、いや、ち、違うのよ、優人。私がこんな男と友だちになるわけないでしょ?」

「そうだぞ、優人。冗談でも言っていいことと悪いことがある。

 俺たちは友だちじゃなくて、ラブラブカップ――」

「喰らえ、オラァ!!」

 

 本気で腹部を狙ったフックをひらりと避けられ、私は息を荒げながらジリジリとヤツとの距離を詰めようとし……また、優人に笑われてしまう。


「残像だ」

「実像よ!! 避けたでしょうが!!」

 

 私から逃げるようにして、ヤツは優人の横に並ぶ。


 ムカつくことに、こうして見ると、二人は背格好がそっくりだった。優人が前髪を伸ばしたら、私ですら見分けがつかなくなるかもしれない。


「それじゃ行こっか? まずは、カラオケに行くんでしょ?」

「あ、う、うん」

 

 私はさり気なく優人にひっついて、彼の後ろをついていく。


 今まで、私の後ろについてくるだけだった彼が、自分から歩き始めたのを見て、なぜか胸中に不安が混じりだす。


 ――まったくもう、本当にあんたは、私がいないと何も出来ないんだから!


 いつからだっけ。いつから、私は、“上から”優人を見下ろしていたんだっけ? なにも出来ないと決めつけて、絶対に自分から離れられないと決めつけていたんだっけ?


「はい、二時間で。ドリンクバーは……はい、三人分。その部屋で大丈夫です、機種もこだわりないよね? はい、それじゃあ、それで」

 

 カラオケ店でテキパキと注文を行った優人は、私たちを先導するかのように部屋まで案内して、私と“伊織”とかいう名前らしいハーレム主人公からドリンクの注文をとる。


「はい、ゆかりちゃん。氷の数は4個だったよね?」

「あ、ありがとう」

 

 いつも、いつもだったら、私が店員さんとお話をして、優人はどこか不安気に私を待っていて、ドリンクだって私が持ってきて……優人はどもりながら、私にお礼を言うのだ。


 今は、まるで、逆だ。


「ゆ、優人、その、な、なんて言うか、あの、変わったわね」

「そうかな? 自分では自覚ないけど……ゆかりちゃんは変わらないね」

 

 笑顔を向けられて、どきりとする。


 熱を帯びた頬を冷ますようにしてジュースを吸って、勢いが良すぎたのか咳き込んで背中を擦られる。


「ゆかりちゃん、大丈夫? ゆっくり飲まないとダメだよ。昔から炭酸はあんまり得意じゃないんだから」

 

 撫でられた部分から気持ちのいい感覚が伝わって、あまりの心地よさに頬が緩むのを感じた。そんな顔を見られたくなくて、いつまでも撫でていて欲しくて、両腕に隠れるようにして伏せたままでいる。


「だ、大丈夫。よ、余計なお世話よ、バ――」

 

 口元がフリーズして、急激に背筋が凍る。


 あの日、優人ともう逢えないことを覚悟したあの日、絶対に、絶対に『バカ』とか『グズ』とか『ノロマ』とか……一生涯、口にしないと決めていた。

 

 なのに。なのに、なんで、言おうとしてるのよ。当たり前みたいに、口を滑らしてんじゃないわよ。さっきだって、危なかったじゃない。伊織が私の顔を叩いてくれてなかったら、きっと、『頭おかしい』なんて酷いこと言ってたじゃない。


 なんで! なんで、変われてないのよ!! アレだけ! アレだけやり直したいと願ったのに!! 願ってたのに!! また、繰り返すだけじゃない!! 素直になりなさいよ!! 素直になれなかったから失ったのに!! なにもかも失ったのに!! なんで、変われてないのよあんたはっ!!


「……ゆかりちゃん? 具合、悪いの? 大丈夫?」

 

 背中を擦られる度に、その仕草に哀れみが籠められているようで、哀しさが肯定されているみたいで、惨めでも嬉しくて嫌でも喜びが溢れて――涙が滲んで、床がぼやけて映り込む。


「ゆかりちゃん?」

 

 優人が横合いから顔を覗き込もうとしてくる。

 

 嫌だ。絶対に嫌だ。こんな惨めったらしい姿を、優人にだけは見られたくない。せっかく頑張ってメイクしたのに、溢れ出して止まらない涙のせいで露見された、あの色濃いクマの残った顔を見て欲しくない。


「ゆか――」

 

 突然、顔に冷水がぶっかけられる。

 

 驚いて顔を上げると、前髪で顔を覆い隠した伊織が、空になったコップをこちらに向けていて……しれっとした声音で言った。


「おててが滑った」

「い、伊織くん!! じょ、冗談だとしてもやり過ぎだっ!!

 ゆ、ゆかりちゃん、大丈夫? つ、冷たい? ほら、コレで顔を拭いて。あ、あと、どうすれば……あ、せ、洗面所はこっち!」

 

 私のために怒ってくれた優人が手渡してくれたハンカチで顔を隠し、手を引かれるままにして洗面所に逃げ込む。


「い、伊織くん!! さすがのぼくでも、コレは怒るよ!? 冗談にしては性質たちが悪すぎるよっ!!」

「ハーレム主人公を差し置いて、なんか目立ってるから腹が立って……別にお前にとって、大して大事でもないんだろあの人? だったら、そんなに怒らないでくれよ」

「ふ、ふざけないでよっ!! ゆ、ゆかりちゃんは、ぼくの大事な幼馴染だっ!! む、昔から、ぼくのために!! いろんなことを犠牲にして尽くしてくれたんだっ!! そ、そんな人が大事じゃないわけないだろっ!!」

 

 廊下で口喧嘩をしている二人の声が聞こえてきて、優人が未だに私を想っていることがわかって、せっかくおさまった涙がまだ流れ始める。


「だったら、なんで今まで放置してた?」

「そ、それは……」

「あの人がどんな環境に置かれてるかくらい、ハーレム主人公じゃなくてもわかる筈だ。

 お前があの人を助けるのを、俺は期待して待ってたんだ。にも関わらず、なにもしなかったのはなんでだ?」


 沈黙が訪れる。


 蛇口から流れる水音を聞きながら、私は彼の答えを待ち望んだ。


「……もう、ゆかりちゃんに『バカ』だって言われたくなかった」

 

 私の臓腑に、鋭利な刃物ことばが突き刺さる。


「ゆかりちゃんはプライドが高いから、ぼくなんかに助けられるのは望まないだろうと思った。何度も謝ろうと思ったけど、そうしたら、またゆかりちゃんに足で蹴られたり『グズ』とか『ノロマ』だとか言われる日々に戻ると思うと……また、白川さんが悲しい思いをすると思うと……ぼくは、怖くて、なにもできなかった」

 

 心臓が、痛い。呼吸が、うまく、できない。視界がぼやけて、両手足の感覚が遠のいて、自分が立っているのか寝そべっているのかわからない。


「言い訳だな」

「言い訳だよっ!! 誰も彼もが、伊織くんみたいに強くないよっ!! ゆかりちゃんと幼馴染で良いなって言われたりもしたけど、正直言って、辛くて辛くてたまらなかったよっ!! いつもいつもいつも、百点満点のテスト用紙を見せられて、バカだグズだノロマだってバカにされて!! 劣等感で苦しくて痛くて悲しくて、でもゆかりちゃんは正しいから!! 正しくて、いつもぼくのことを好きでいてくれたから!!」

 

 空気に染み込むようなささやき声が、そっと洗面所に忍び込む。


「ようやく解放されたって、思っちゃったんだよ」

「うっ……うぁ……ぁあ……うっ、う、うぅ……」

 

 嗚咽が押さえられなくて口から溢れだし、私は個室に逃げ込んで自分の腕に噛み付くようにして慟哭を口中に覆い隠す。

 

 そうして泣き続けて、どれくらいの時間が経っただろうか……覚束ない足取りで店を出た時にはもう夕方で、スマートフォンには優人からの着信がたんまりと残っていて、店の外で待っていた伊織が腰を上げる。


「悪かった」

「……近寄らないで」

「もう一度、機会を設定しよう。次こそは上手くやる。君と葛城優人の仲をとりもって、また昔みたいにやり直せるようにするから」

 

 家に帰りたくなくて、駅の奥へと歩き始めた私の肩に手が置かれ――爆発した感情が、叫び声となって迸る。


「私に近寄るなっ!!」

 

 ざわめき。道行く人たちの好気の目を集めながら、私は真っ赤になった両目から涙を垂れ流す。


「もう終わりよっ!! もうおしまいっ!! 優人は私に近寄って欲しくないのよっ!! 私は変われなかった!! なんにも変わってなかった!! 今日、それをはっきりと自覚したの!! 好きだけど!! 優人のことは好きだけどっ!! 近づいたら、また、傷つける!! 酷いこと言う!! 言いたくないのに!! 好きなのに!! 大好きなのに!! 近づいたらダメなのよっ!!

 優人を!! 好きな人を!! 大好きな人を!! もう、傷つけたくないのぉ!! 傷つけたくないのよぉ!!」

 

 汚らしい嗚咽を上げながら叫んで、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で言い放って、こちらに手を伸ばしたまま固まる伊織を放置して駆け出す。

 

 走って走って走って……もう走れないと、心臓が破けるんじゃないかってくらい、疲れ果てた頃、辿り着いたのは見慣れた住宅街で、そこには優人との思い出が詰まった公園があった。


「……懐かしい」

 

 ――ゆ、ゆかりちゃん、はいプレゼント

 

 砂場で作った泥団子。


 一生懸命に汗を浮かべた優人が丸めて丸めて丸めて、時間をかけて作り上げたソレを私だけにプレゼントしてくれた。

 

 ――み、見て、ゆかりちゃん! ココまで登れたよ!

 

 怖がりの優人が挑んだジャングルジム。


 他の男の子に私がバカにされた時に、ゆかりちゃんはぼくよりも高いところに登れると言うためだけに頑張ってくれた。


 ――ゆかりちゃん、しょーらい、けっこんしよーね!


 古びて塗装の剥げたベンチ。


 ここに二人で腰掛けてアイスを食べたりお喋りをしたり……結婚の約束を交わして、指切りげんまんをした。


「……優人」

 

 好き。

 

 この一言が言えなかった。きっと、あのハプニングがなくても言えなかっただろう。いつか、またいつか言おうと思って先延ばしにして、照れ隠しの罵倒で仲をこじらせるだけだったに違いない。


「言えなかった……言えなかったなぁ……好きって……大好きだよって言いたかったなぁ……あの時は言えたのに……なんで、言えないんだろ……なんで……なんで、好きって……言えないんだろ……」

 

 隠れんぼをした時、いつも、優人が見つけられなかった大樹の陰に座り込んで泣いていると――話し声が聞こえてきて、そっと様子を伺う。


「今日、会って大丈夫だったの? 一ノ瀬さんと会うんじゃなかった?」

「うん、大丈夫。ゆかりちゃん、また怒らせちゃったみたいで、途中で帰っちゃったから」

「……一ノ瀬さんには悪いけど、優人くんと会えてよかったな」

 

 白川さん。白川さんだ。やっぱり、優人とまだ付き合ってたんだ。

 

 仲睦まじく手を繋いで歩いてきた二人は、“私たちのベンチ”に腰掛けて、お互いに信頼しきっているように肩を預けあっていた。


「優人、くん」

「あ……し、白川さん」

「白川さんじゃなくて『みき』って呼んで」

「あ、うん。みき、いいの?」

「うん……して」

 

 優人は私が見たこともないような優しげで嬉しそうな顔をして、目を閉じた白川さんに顔を近づけていって――


「や、だ……や、やめて……お、おねがい……やめて……」

 

 キスをした。

 

 じゃれるようにして愛おしそうに、優人は『好きだよ』とささやきながら、何度も彼女へのキスを繰り返す。

 

 キスの間隔はどんどん長くなっていき、ようやく二人が離れた頃には、お互いの頬が真っ赤に色づいていて恥ずかしげに微笑み合う。

 

 その姿に――もう、私が立ち入る隙はないんだと理解させられる。


「みき」

 

 ――ゆかりちゃん


「将来、結婚しよう」

 

 ――しょーらい、けっこんしよーね!


「うん。好きだよ、優人くん」

 

 また、キスをし始めた二人を見つめ――目の前が急に暗くなる。


「見なくていい」

 

 伊織の声がして、彼が私の目元を覆っているのだとわかった。


「……ねぇ、あんたの着けてるウィッグ貸して」


 ぐちゃぐちゃになった心のままで、私は空虚な言葉を投げかける。


「顔、隠したいの」

 

 その日、どうやって家に帰ったのか憶えていない。




 真っ暗になった部屋の中で、布団をかぶった私は壁を見つめる。

 

 そこには、なにもない。なにもないから落ち着く。こうしていれば、優人のことを想わなくて済む。

 

 ドアノブが動く気配がして――伊織が立っていた。

 

 彼は何も言わず、ただ立ち尽くす。審判を待つ黙示録のラッパ吹きみたいに、来るべき時まで私を見つめている。


「……優人の夢を見るの」

 

 乾いて張り付いた喉の痛みを、誤魔化すために声を出した。


「忘れよう、忘れようって思う度に、優人の夢を見るの。幼稚園の頃からずっと一緒で、片時も離れたことがなくて、私にとっては家族同然どころか一心同体で……一生、このまま傍にいられると思ってたの」

 

 春になったら家族ぐるみでお花見に行って、夏になると川に行って二人で魚を見つけた。秋の寒さを感じ始めたら手を繋いで歩き、冬に降る雪よりも優人にくっつける口実ができることを喜んだ。


「アイツね、あんな痩せっぽちな身体してるのに、たくさん食べるのよ。お寿司が好きでね、私がお刺身とご飯で作ってあげると飛び上がるみたいにして喜ぶの。ぐちゃぐちゃで食べられたもんじゃないのにね。

 小さい頃からゲームが好きで。小学校で流行ったテレビゲーム、何回も一緒にやらされたわ。でも、私、下手で。相手にならなくて、一緒にゲームがやりたくて練習したんだけど、手加減してくれた優人にしか勝てたことなかった。でもね、アイツ、私がゲーム練習してるところ見ると酷く嬉しそうでね、私も構って欲しくて頑張ったの。

 それからね、アイツさ、中学二年生の時の私の誕生日、私に……わ、私にさ……な、なにを……プレゼント、してくれたと……思う……?」

 

 声が、詰まって、脳に詰まった思い出が、涙となって溢れ出る。


「『肩たたき券』よ……わ、私、アイツの母親でも、な、ないのにさ……か、肩たたき券って……し、しかも手書きで……あ、アイツ、な、何百枚も……ゆ、ゆかりちゃんは、いつも大変そうだからって……ま、毎日、ま、毎日、してあげたいからって……あ、あんな、あんないっぱい……ひ、ひとりで書いて……」

 

 自分ではどうしようもない、どうしようもないくらい、悲しみと喜びが胸中に染み込んで、嘔吐するみたいにして嗚咽として吐き出す。


「なんで……なんで、こんなに好きなのに……好きなのに好きって言えないの……本人を目の前にすると血が上って、好きでたまらなくて、否応なしに自分の気持ちが正反対になって……好きの一言も言えない……なんで……なんでなのよ……」

「好きだからだ」

 

 潤んだ瞳に、霞んだ主人公が映った。


「好きだから言えないんだ。君の気持ちはあまりにも特別で神聖で、そう簡単に口に出してはいけない禁句だった。あまりにも強い想いは、言葉なんかじゃ表すことはできない。本物の愛は“表象”に表れたりしない。ただ、そこにあるだけだ。

 この世界はギャルゲーなんかじゃないし、選択肢ひとつで結末が変わるようなことなんて有りはしない」


 彼は、言った。


「でも、君は“やり直す”べきだ。

 葛城優人に――『好き』だと言うべきだ」

「言えない……言えるわけないっ!! 私の愛情は、あんたの思ってるようなもんじゃない!! 本当に好きだったら言える!! 言えるのよっ!! 私は言えない!! 言えなかった!! 自分では変われたと思ってた!! でも、間違いだった!! 『バカ』なんて絶対に言わないって誓ったのに言おうとしたっ!! 昨日のデートだってあんたがいなかったら台無しになってたっ!!

 勇気も愛情も、何もかもっ!! 何気ない行動のひとつひとつが、私には足りてな――」

「違うっ!!」

 

 初めて怒鳴った伊織の迫力に負けて、気迫の籠もった眼差しに釘付けになる。


「君が優しい子だからだっ!! 君は!! 一度足りとも!! 自分の幸せのために、好きだと言えなかっただけだっ!! 誰かを思いやることしかできないからっ!! 葛城優人に好きだと伝えれば、彼の思い描いている“幸せ”から遠ざかるからっ!! 言わなかっただけだっ!!

 君は!! 葛城優人が君のことを“幼馴染”として見ていたから、自分が幸せになるための好きを言えなかった!! 葛城優人は優しいから!! 自分の告白を受け入れると、君は知っていたから!! 知っていたから、言わなかっただけだろうがっ!!」

 

 息を荒げた伊織の髪の隙間から、私が流したものと同じ“悲しみ”が流れ出ていた。労るように寄り添うように、彼は私のために泣いていた。


「もう、自分のために歩いていいんだ!! 楽になっていいんだ!! 幸せになっていいんだっ!! 言え!! 言っちまえよ!! そのための勇気、俺がくれてやるっ!!」

 

 勢いよく扉を開けた伊織が出ていって――また、伊織が入ってくる。

 

 それは、優人に対する私の愛情を試し、勇気づけるようなものだった。


 彼が何を考えているのかわかって、その献身にまた泣いて、でも笑って、これが最後だから、きっと終わりだから、伊織が仕組んでくれた“幸せ”の道に向き直る。

 

 ――君の愛を試すつもりで、コレを持ってきたわけだが


 きっと、伊織は、最初からこの時のために。


「あなたのことが」

 

 震える。全身が、手足が、内臓が、全部が全部震えて、自分自身が壊れかけのロボットになったみたいだった。こんなにも緊張したのは初めてのことで、勇気が口からでなくて、ぽろぽろと涙がだけがこぼれ落ちる。


「あ、あなたの、あなたのことが」

 

 ――いいんだよ。ゆーとくんのこと、だいすきだもん


「あ、あなたの……あ、あなたのことが……」

 

 ――ゆ、ゆかりちゃん、ごめんね。いつも、ありがとう


「あ、あなたの……あ、あなたのことが……あなたのことが……」

 

 ――もう、自分のために歩いていいんだ!!


「好きです」

 

 私は、ようやく、その一言を言って――泣きながら笑った。


「ず、ずっと……ずっと、あなたのことが好きでした……だ、大好きでした……子供の頃から……出会った時から、大好きでした……あ、あなたと一緒にいられて、幸せでした……だ、だから……だから……」

 

 “ウィッグ”を外した優人は、突っ立ったまま泣いていた。ただただ、得難いものを失くしたかのように泣いていた。


「幸せになってね、優人……お願いだから、幸せになってね……ずっとずっとずっと、幸せでいてね……」

「ゆ、ゆかりちゃ……ゆかりちゃん……ぼく……ぼ、ぼくね……」

 

 嗚咽を上げながら膝をついた優人は、私の手を握って涙と鼻水だらけの笑顔で言った。


「も、もう……大丈夫だから……ゆ、ゆかりちゃんなしでも歩けるから……だ、だから、もう、大丈夫だから……ありがとう……本当にありがとう……ゆ、ゆかりちゃんのお陰で……ここまで……ぼく、ここまで、歩けたよ……ありがとう……ゆかりちゃん……ありがとう……」

 

 ――まったくもう、本当にあんたは、私がいないと何も出来ないんだから!

 

 もう、優人は、歩けるんだ。大丈夫なんだ。私がいなくても、大丈夫で、それはきっと優人の望んだことで。


 私たちは、もう、それぞれの道を歩めるんだ。


「うん……うん……優人……優人……よかったね……ごめんね……ごめんね、優人……ごめんね……ごめんね……」

 

 私たちは泣き続ける。12年分の涙がいつ途切れるのかはわからない。でも、いつかは泣き止むことができる。歩くことができる。

 

 私と優人は――もう、大丈夫だから。











 過去を清算した一ノ瀬ゆかりは、以前よりも一層明るくなった。

 

 物怖じもしなくなったし自分の意見も言える、打って変わったかのように物腰が柔らかくなって、困っている人間には誰であろうと手を差し伸べる。


 彼女に対するいじめや差別が綺麗さっぱりなくなるのに、あまり時間はかからなかった。高嶺の花をわざわざ手折って顰蹙ひんしゅくを買うようなアホは、この学校には存在しなかったらしい。


「俺の役割も終わりか」

 

 散りゆく桜を眺めながら、寄りかかっていたガードレールから腰を浮かす。

 

 じきに季節は移り変わり、物語の様相も転じる。


 一ノ瀬ゆかりの描くト書きに俺の出番はないし、彼女が思い描いた幸せはきっと俺には眩しすぎる。


「コレで少しは恩返しできたんだろうか」

 

 ――何気ない行動のひとつひとつが、私には足りてなかった


 思わず遮ったあの言葉。我慢ならなかったセリフ。彼女が言ってはいけない禁じられた口上。

 

 ――だって、新城くん、いつもコンビニのお弁当ばかりじゃない


 俺――“新城”伊織に対するあの言葉。あの何気ない行動がなかったら、俺は彼女を助けようなんて思わなかった。


 母親が死んで、父親は育児放棄。残された俺は、親父が置いていく小銭でコンビニ弁当、水道もガスも止められていて風呂すらまともに入れなかった。


 当然、誰も彼もが白い目で俺を見る中で、一ノ瀬ゆかりだけは常に優しく接してくれて“俺”を見てくれていた。


 ――でも、新城くんは、いい人よ?


 あまつさえも、こんな俺のことを“いい人”だと言ってくれた。


 だから、俺は、彼女を裏切らないために“いい人”になろうと思った。無条件で困っている人を助けるような“ハーレム主人公”みたいなヤツに。


 ――長い前髪も似合ってると思うけれど


「さすがに、そろそろ、前髪を切らないと叔母おばさんに殺されかねん……まぁ、切る気なんてさらさらないが」


 両手を突っ込んで前のめり、いつもみたいに歩き出そうとして――背中に“軽い”衝撃が走って振り向く。


「おっす」


 そこには、髪を切って、更に可愛らしくなった一ノ瀬ゆかりが立っていた。


 桃色の花弁が宙空を舞い踊る最中に現れた彼女は、まるで愛らしい桜の精霊のようで……不覚にもどきりとする。


「いや、なんのようだ。ハーレム主人公らしく降り注ぐ桜吹雪にたそがれて、ハーレムロードを帰宅するところだったんだが」

「あんたと一緒に帰ろうと思って。

 ダメ?」

「……いや、誰もダメとは言わないが。

 俺なんかと一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいし……とか言わないの?」

「噂なんて気にしないわよ。

 というか、明日、暇? 藍子ちゃんとショッピングに行くんだけど、あんたも来ない?」

「暇と言えば暇かな」

「なら、決まりね。連絡しておくわ。

 荷物持ち確保……と」

「おい」

「冗談よ、ばーか!」

 

 一ノ瀬ゆかりは笑って――俺を追い越して走り出す。


「早く来なさいよー!! 寄り道して、あんたの奢りで、なんか食べましょー!!」

 

 その明確な意思表示に、これからも俺と関わるつもりだという暗示に、憂いのない綺麗な笑顔に――彼女の舞台に、俺も上がっていいのだと言われた気がした。


「……眩しいなら、手ひさしでも作ればいいか」

「え、なんだってー!?」

「ハーレム主人公ぶるな小娘風情。

 ハーレム主人公に奢らせるつもりなら、低身長で甘えたがりな妹くらいのキャラ付けしてから来なさい」


 笑う彼女を追いかけて、小走りで駆け寄る。


 桜並木の狭間を駆け抜けて、俺は季節の境目をはっきりと目にしたような気がした。


 いまが終わって――(つぎ)が、始まる。

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[一言] 初めまして、百合から入った新参読者であります。 百合が面白すぎたために作品一覧の下から駆け上がってきております。 百合の時も思ってさらにいくつか読んで確信しましたが、作者様、いわゆる"お約…
[気になる点] そう、リアルだとねー どうしてもツンデレはね!! ドジっ子と同じよね!! ツンからデレに至る確信があるからツンデレは存在が許されてるわけですよね! デレに至れなかったツンデレはツン…
[良い点] 少年少女ってのは些細なことで驚くべき成長を遂げる。 好きだのどうだのなんてものは当時は一大事だからなぁ笑 彼女たちの行く末が明るそうでよかった。
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