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禍人(まがびと)  作者: K氏
2/4

2話

 石積みの家並みが続くオイミャコン村に一人先に付いたアキラは首を傾げていた。

 それも束の間、不意に視線を上げる。


「ああそっか、ノア・スフィアがねーのか」

 そう呟くと今度は辺りを見回し、

「まあこんな小さな町じゃ張られてないのも無理はねーか」

 納得したように頷いた。


『ノア・スフィア』とは、星の革命期に建てられた巨大な防御装置である。

 星の革命期以前に人類は無数の隕石が地球に衝突すると衛星レーダーで察知しており、対策として当時軍事利用に使われていた拡散型隔離レーザー砲を元に防御シールドを造り上げた。

 それこそが現在でも稼働し続ける絶対守護装置――ノア・スフィアだ。


 外見は半球の土台に巨大な剣が十字に重なった形状で天へと延びており、その高さは都市によって違うが500~3000mと長大。

 巨大な内部は全て光エネルギーを増幅・収束させる装置で、臨界点になった瞬間切っ先から放たれる。

 切っ先には特殊な反射を行うための研磨を施した鉱石が設置され、そこに光エネルギーを当てることでドーム状に放出して町全体を覆いあらゆる方向からの脅威を退けているのだ。

 当時の科学技術の粋を集めて完成させたお蔭もあり隕石群は勿論、天災規模の環境変化すらも退け平穏な毎日を手に入れることに成功する。


 だが――世界中全ての人を救うには数が少なすぎた。


 時間や技術者などの問題はあったが、何より製造に必要な資材が不足していたのだ。

 よって、装置は大都市の先進国のみに建てられ小さな国や市町村には与えられず、隕石群を含む災害に晒され結果多くの人々が死んだ。

 皮肉にもノアの箱舟から取った名称が実現するような形で。


 それでもノア・スフィアほど完全ではないものの高い防御性を備えたシェルターなどで凌いで被害を抑え、同じ境遇の人たちで集い異常気象に耐え、知恵や力を合わせ助け合って生きてきた。

 その後も食糧問題やライフラインの停止などで大勢が犠牲になったが、現在もこうして生活しているのだ。


「しっかし、どーしてアレがねーくれーでそこに住んでる奴らはどいつも死んだような辛気くせーツラしてんだ! ゾンビどもが町中を闊歩してるみてーだぜ!」


 様子を眺めていたアキラが感想を漏らすが露骨に声を張り上げた。

 少年には町の人々の無気力さが何故かとても癪に障り、自分でも解らない苛立ちについ声を荒らげてしまったのだろう。


 だが仕方ないのかもしれない。

 災害に晒された彼らは確かに生き長らえこそしたが、劣悪な環境にいつ尽きるかも解らぬ食料、何より嘗て栄えていた科学文明はほとんど失われてしまっていた。

 今ではノア・スフィアと一部の物を除き、中世時代の文明レベルまで下がり、心は荒み疲れ果てるのも無理はない。

 だがそれをアキラは知らない――いや、知ったとしても怒りは収まらないだろう。


 何故なら彼の方が遥かに辛い人生を強いられているのだから。


 だから聞こえている筈の厭味にすら反応しない彼らが許せないのかもしれない。

 最も、村の住人たちは露骨な嫌味にも顔さえ向けなかった。



 イライラする気持ちを落ち着かせようと散策を始めるアキラだったが、石積みの家ばかりで商店街も目新しいものがなく早々に飽きてしまう。

 そんな時、少し開けた街中で住民が輪のようになって集まり騒いでいた。


 揉め事かと興味を持った少年は、嬉々として人混みの合間を縫って進む。

 最前列まで顔を出すと、1人の中肉男性に大勢が口々に叫んでいることが分かった。


「村長、もう少し徴収を減らしていただけませんか?」

「我々も手いっぱいでして、これ以上収めては生活がままなりません」


 いくつかの言葉を拾う限り、村長に対して何やら抗議しているのが分かる。


(んだよ、つまんねぇ)


 喧嘩といった暴力沙汰でないと知ったアキラはすでに興味をなくしていた。

 しかし先ほどと違い、前へ前へといった勢いのせいか抜け出せない。

 その場でもがく彼を誰も気に留めず、先ほどまで言われるがままだった中肉の男が叫ぶ。


「ええい! 何度言われようと徴収を減らす事はできん! これは王国が決めたことで応じなければ配給は途絶えてしまうのだぞ!?」


 振り払うかのような怒声だったが囲む人々は食い下がる。


「しかし徴収がこれほど高いと生計が立てられません。唯でさえ配給も最低限の食事や水しか頂けないのに厳しすぎます!」

「我々もできる限りの事をしていますがそれでも手元に残る分は殆んど無いんです!」


 住民たちの悲痛な叫びが木霊の如く続いた。


 この時代には大きく2つの国によって世界を治めており、人類復興のため様々な活動が行われている。配給はその1つであり人々の支えとなっているのだが、それでも生活は厳しいようだ。

 今はその要因である徴収を下げるよう抗議していたのだろう。


 それに対して村長は少し語気を下げ、蔑む様な眼で周囲を睨む。

「君たちは知らんだろうが私が無理を言って多めに配給を頂いているんだ。これくらいの徴収払えなくてどうする? もし下げてくれなんて頼んだら他の恩恵も止められる可能性だってある。それにできる限りの事はやっただと?」

 1度言葉を切り不気味に微笑み、

「手段なら他にもあるだろう。『魔物』討伐というなあ?」

 その言葉を聞いた途端、住民たちは生気を吸い取られたかのようにその場に俯いてしまった。

今回も読んでいただきありがとうございます。

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