5日目-7
ギギギギ……
「おはようございまーす!」
「「「(やっぱりきた……)」」」
一度、ギルドに入ってから、再び外に出た小枝に向かって、冒険者たちは揃って複雑そうな視線を向けていた。あるいはこう考えていたのかも知れない。……小枝がまた、厄介ごとに巻き込まれた——いや、小枝がまた誰かのことを厄介ごとに巻き込んだ、と。
一方の小枝は、自分に視線を向けてくる冒険者たちのことを気に掛ける様子無く、真っ直ぐにEランクの掲示板に向かった後……。そこで書類をいくつか剥ぎ取って、ギルドのカウンターへと足を向けた。
「おはようございます。蚊取り犬さん」
「おはよ……うん??」
「今日はこの依頼を受けようと思います」
そう言って小枝が、受付嬢の蚊取り犬——もとい、カトリーヌに差し出した依頼は3つ。薬草の採取依頼と、薬草の採取依頼、そして——、
「……これ全部、薬草の採取依頼じゃない……」
——である。ちなみに、小枝が自分でギルドに出している薬草採取の依頼とは別だ。
「あの、コエダ様?Eランクなのですから、魔物の討伐を行われてもよろしいのではないですか?」
「昨日、良いだけ魔物を虐めましたから、しばらくはそっとしておこうと思っているのです。……あ、いえ。昨日は何もしていませんよ?そう、魔物たちは勝手に森へと帰っていったのですから」ニコッ
「……そうですか」
カトリーヌは心底呆れたような反応を隠さずに見せ、その表情のまま小枝の書類に判子を押した。
「はい、どうぞ。今日もよろしくお願いします。あ、そうです。コエダ様は前回の火炎草採取の功績により、Dランク試験の受験資格を獲得されています」
「Eランクになって、まだ1つしか依頼をこなしてない気がするのですが……」
「……あまりに大量の火炎草を持ち帰ったので、一瞬でポイントが貯まったのです」
「そういうものですか……」
「試験を受けられますか?」
「ちなみに内容を聞いてもよろしいですか?」
小枝のその問いかけに、カトリーヌは目を細めた。どうやら何か彼女たち冒険者ギルドには、何か企んでいることがあるらしい。
それから彼女は、ふっ、と息を吐いた後で——、
「試験の内容はt」
「あ、やっぱりやめておきます」
「ちょっと!せめて最後まで聞きなさいよ!」
——途中で小枝に声を掛けられた結果、内容を言いそびれてしまう。
「いえ、今日はどうしてもやらなくてはならないことがあるので、余計な事は考えたくないのです。明日以降、またお伺いします。それでは」
そう言って小枝はその場を去ろうとした。しかし、どういうわけかカトリーヌに呼び止められてしまう。
「待ちなさいって。話はまだ終わってないんだから!」
「地が出てますよ?」
「そりゃ、コエダ様が話を聞かないからでしょ……もう……」
とカトリーヌは不満げに溜息を吐いてから……。小枝に伝えるべき事を話し始めた。
「試験については今度話すわ?話したい事って言うのはそっちの話じゃなくて……まず、あなたが出してる依頼——薬草を採取するってやつね。あれ、早速、採取した薬草が届いてるわよ?」
「そうですか。じゃぁ、いただいてもいいですか?」
「えぇ、依頼料と報酬金は受領済みだから、いつでもブツは渡せるわ?量があるけど……まぁ、コエダ様なら問題は無いわよね?」
そう言って、カウンターから離れて、事務所の奥の方に消えるカトリーヌ。
それからしばらくして彼女は麻袋を持ってくるのだが——、
「はい、これ」
「なんか、思ったより少ないんですけど……」
——どうやら、小枝が考えていた量よりも、かなり少なかったようである。
「どこぞの誰かが乱獲したせいで、町の周囲に殆ど生えてないらしいわ?」
「そんな……一体誰が……」あぜん
「あなたよ!あ・な・た!」
「……えぇ、分かっています。冗談です」
「本当に分かってるのかしら……。それで、どうするの?まだこの依頼は継続して出すの?」
「……この量なら、依頼料はまだ使い切ってないですよね?」
「えぇ、まだ9割5分以上残ってるわ?本当に全然採れないのよ……」
「じゃあ、そのお金が無くなるまで継続します。ただし、報酬金額は今の倍額にしてください」
「……は?」
「だって、薬草採取の報酬金というのは、子供たちのお小遣いでもあるのですよね?私が乱獲したせいで子供たちが残念な目に遭うのはあまりに可哀想すぎます。でも、そうですね……依頼を受けのに、年齢の制限は掛けられますか?」
「あなた……」
「どうなんです?」
「……えぇ。掛けられるわ?でも良いの?破格なんて金額じゃないわよ?」
「えぇ、寄付みたいなものですから、構いません」
そう言ってニッコリと笑みを浮かべながら、カトリーヌから薬草を受け取り、異相空間へと収納する小枝。
そして彼女は今度こそ冒険者ギルドを後にしようとするのだが——、
「だから、ちょっと待ちなさいって。話はもうひとつあるわ?」
——カトリーヌの話は終わったわけではなく……。まだ小枝に伝えなければならないことが残っていたようである。




