表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/1392

5日目-6

「私に何の用でしょう?」


 朝、話しかけてくる人々は、知り合いを除いて、大抵碌な者はいない……。そんな確信があった小枝は、怪訝そうに問いかけた。


 すると、修道女——シスターの方が、柔和な笑みを浮かべながら、小枝に対して返答する。


「初めまして、コエダ様。私、シェムと申します。こちらはハザ」


「初めまして、ハザです」


「これはご丁寧に……(シェムとハザ……シェムハザって堕天使の名前じゃないですか……。さすが教会関係者です。ですが、教会関係者が堕天使とか、ギャグでしょうか?まぁ確かに、"関係者"という意味では、間違っていないのかも知れませんけれど……どうも腑に落ちませんね……)」


「かねてからコエダ様の噂は伺っておりました。そしてその強さも……。この度は強いお力をコエダ様に、礼拝のご案内をさせていただきたく思い参りました。コエダ様は未だ当教会をご利用になられていないようですので、ご存じないかと思いまして、念のためご説明に上がった次第です」


「……どういうことです?確かに、教会に行ったことはありませんが……」


「冒険者の方々は、お仕事柄、生傷が絶えません。当教会では、怪我をした冒険者の方々に、"神の御業"を行っておりますが、コエダ様は未だ1度もご利用になっていませんよね?」


「(神の御業……?話の流れ的に、回復系の何かでしょうね。回復薬の販売……あるいは回復魔法と言ったところでしょうか?)」


 シェムと名乗ったシスターの言葉から、内容を推測する小枝。そんな彼女は、そもそも怪我をすることがなかったので、回復薬も魔法も必要無く……。これまで一度も教会には行ったことは無かった。あるいは宗教関連施設だったことも、日本出身の彼女の関心を薄れさせる原因の一つだったのかもしれない。


 それからも小枝は、短い時間の中で、思考を回し続けた。果たして、シスターたちがやってきたのは、"神の御業"について案内をしに来たことだけが目的なのか、と。


「(他の冒険者の方々に対しても、一人一人に説明しているのでしょうか?……ちょっと考えられないですね。この感じは、背後に、別の考えがあると考えた方が自然でしょう)」


 魔物のスタンピードを抑えた結果、今や小枝は、町の中で有名になっていた。本人はスタンピードを抑えたことを認めていなかったものの、目撃者はそれなりにいたので、周知の事実となっていたのだ。あるいは、冒険者ギルドや、商業ギルドでの一件なども、有名になってしまった原因と言えるかも知れない。


 その結果、教会が、自身の噂を聞きつけて、接近してきたのではないか……。小枝はそんな推測を立てた。


 だが、接近してきた目的までは、情報不足で、断定出来なかったようである。


「(純粋に近付こうとしているだけなのか、あるいは厄介者として見られているのか……。そのどちらかなのは間違い無いでしょうね……)」


 と、いくつかの可能性について、目星を付ける小枝。しかし、その推測のいずれもで、彼女は何となく焦臭(きなくさ)さを感じたらしく——、


「……えぇ。ですが、間に合っていますから結構です」


——宗教の勧誘を断るかのように、そんな返答をすることにしたようだ。


 そして小枝は歩き始めた。そのままそこに立って、相手からの返答を待つような真似をすれば、付け入る隙を与えてしまうかも知れないと考えたのだ。


 その結果、ジェムは慌て始めた。ここまで話を聞いてくれるかのような態度を見せていた小枝が、突然態度を変えて、話を切り上げようとしているように見えたからだ。まぁ、実際、その通りなのだが。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「大変、申し訳ありませんが、今、私はとても忙しいのです。スケジュールが詰まっておりまして、ギルドで手続きを終わらせ次第、行かなくてはならない場所があるのです(グレーテルさんのお家を探しに……)」


 それから小枝は歩く速度を上げた。怪しい者たちからは逃げるに限る……。彼女に迷いは無かった。


 ……そう、その瞬間までは。


 その会話は、小枝の姿が冒険者ギルドの中に、完全に消えるか否かのタイミングで聞こえてくる。


「……シスターシェム。もう少し言いようがあるのではないですか?これはまだ()()が足りていないようですね……」

「も、申し訳ございません。神父ハザ……」


「(……訓練?)」


 2人のやり取りを聞いた小枝は、ふと考えて立ち止まった。"訓練"とは一体何なのか……。つい先ほどまで、アルティシアとスプラッタな話をしていたせいか、碌でもない想像が浮かび上がってきたようである。……もしや、折檻に類するものなのではないか、と。


 小枝の心は、自分の言動のせいで傷つくかも知れない人々がいることを無視出来るほど冷たくは出来ていなかった……。そう、出来ていなかったのである。


 ゆえに彼女は後ろを振り返ると……。シェムとハザに向かって、こう言った。


「お2人とも?」


「「えっ?」」


「時間を見つけられたら、教会の方に伺おうと思います」


 そう言って、ギルドの中へと姿を消す小枝。その後のやり取りを、彼女は見聞きしていなかったものの……。シェムが折檻を受けるような事だけは無いように、と小枝は祈ることにしたようだ。



人間関係を調整するのが大変なのじゃ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 96/96 ・新キャラだぁ。当然のごとく予測不可能です。楽しみに待っときます。 [気になる点] 神父さん、もしかしてハゲてる? [一言] 教会に入るとお菓子とジュースを出されそうなのは気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ