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5日目-3

 そして自室へと戻ってきたアルティシアは——


バタンッ!


——力加減をすることなく、全力で扉を開いた。


「お待たせしました!」


「え、えぇ……そんなに待ってはいませんよ?」


 扉を破壊するのではないかという勢いで自室に戻ってきたアルティシアを見て、小枝は眼を丸くした。しかし、それは乱暴に扉が開けられたためではない。アルティシアが元気になっていくことに驚いていたのは、ブレスベルゲンの重鎮たちだけでなく、小枝も例外ではなかったのだ。


「えへへ……」


「……どうしたのですか?」


「私にもよく分かりません。だって……嬉しいんですから!」


「そ、そうですか……。でも、元気になって何よりです」


 アルティシアに尻尾が付いていたなら、きっと今頃、千切れんばかりにブンブンと振っているのではないか……。嬉しそうなアルティシアに獣耳と尻尾が付いている様子を頭の中で想像をしながら、小枝はアルティシアに向かって早速切り出した。


「さぁ、アルティシアちゃん?今日も食事の用意してきましたが、いかがしますか?」


「是非喜んで!もう、くたくたです……。一日中、キノシタ様のお料理を食べることだけを考えて、執務をしていたのですよ?」


「執務ですか……。私には詳しく分かりませんが、すごく大変そうですね?(領主のご令嬢様も、何かしらの執務を任されるのですね……)」


「(領主の仕事というのは)本当に、凄く大変なのです。でも、今回は本当にどうにかなって良かったと思います。もう少しでこのブレスベルゲンが壊滅しそうになっていたところを、凄く強い冒険者の方が救ってくれたと言うではありませんか」


「(さすがにこれは私の話でしょうね……)」


「もう、千切っては投げ、千切っては投げと、強い魔物をまるで雑草のように扱っていたというのです!」


「(……やっぱり、私ではなさそうですね。千切っていないどころか、1匹たりとも殺していませんし……)」


「一体、どんな方なのでしょう?」


「さぁ?私にも分かりません。千切って投げるって……どんな魔物を千切って投げていたのでしょう?」


「私も代官に話を聞いただけなので分かりませんが……やはり、頭ではないでしょうか?こう、手でガッと掴んで——」


「……この話はこの辺にして、お食事にしましょうか」


「……そうですね」


 このままだと、凄惨な内容の会話になりそうだと思ったのか……。小枝は早々にスタンピードの話題を切り上げて、食事の準備を始めることにしたようだ。アルティシアも、せっかくの食事が美味しくなくなる話はしたくなかったらしく……。素直に小枝の提案に従うことにした様子だ。


 それから間もなくして、小枝は、5つの小さな弁当箱を、アルティシアの部屋にあったテーブルの上に展開した。その中を覗き込んで、アルティシアが不思議そうに問いかける。


「なんというか今日は……お肉っぽくはないのですね?」


「えぇ、昨日……というか今日は、良いだけ魔物を見たので、お肉をあまり使っていない料理にしてみようと思いまして。こちらが"肉じゃが"で、こちらが"だし巻き玉子"、そしてこちらが"揚げ出し豆腐"で、こちらが"白米"、それに"シジミのお味噌汁"です。私の故郷の伝統的な食事です」


「まったく見かけないお料理です……。いただいても良いですか?」


「えぇ、そのために作ってきたお料理ですから、是非どうぞ。お口に合わなかったら、残していただいて結構です」


「……絶対に残しません!」


 そしてアルティシアは両手を合わせると——、


「……今日もキノシタ様のお恵みをありがたく頂きます」


——そんな挨拶をしてから、フォークを使い、食事に手を付け始めた。


 その挨拶を聞いて、小枝はふと思う。


「(あれ?昨日と何か挨拶の内容が違う気が……)」


 アルティシアの挨拶に何か小さな違和感を感じる……。しかし、小枝がその違和感の原因に気付くことは無かった。アルティシアが目をキラキラと輝かせながら、嬉しそうな声を上げたからだ。


「すっごく美味しいです!」


 アルティシアが最初に口にしたのは、肉じゃがだった。保温出来る容器に入った肉じゃがからは、ほかほかと湯気が立ち上っていて……。思わず手を伸ばしたくなるような雰囲気と香りを漂わせていたようである。


「この柔らかくて、黄色い食べ物は何なのですか?」


「ジャガイモです」


「じゃがいも?」


「こぶし大の丸いお芋さんです。ジャガイモにはいくつか種類があって、中でも粘り気の少ない品種を使っているのですが……ブレスベルゲンでは、こういったお芋さんは食べられていないのですか?」


「……すみません。好き嫌いが過ぎて、把握しておりません……お恥ずかしいことに……」


 そう言って、恥ずかしさを紛らわせるためか、今度はシジミの味噌汁に口を付けるアルティシア。


 その瞬間だった。


「…………?!」


 味噌汁を口にしたアルティシアの眼が、カッと見開いた。どうやら味噌汁の味に何か思うことがあったらしい。それもただならない何かが……。


主語を省略する部分があって、ちゃんと書くか否かで悩んでおったりする今日この頃なのじゃ。

よく読めば分かる、というのは話としてどうかと思うからのう……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 93/93 ・主語の省略? 少なくとも、今回はとても分かりやすかったです。 [気になる点] 最後、味噌に目覚めたのか、シジミで熱くなったのか…… [一言] 先日の全身の痒みボリボリの件、…
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