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4日目-25

「(今日は早く帰らなきゃ!)」


 ダニエルたちと別れた後、小枝はすぐに現代世界へと戻ろうと考えていた。死の淵を彷徨っていた魔女グレーテルを現代世界にいる姉に託してきたので、彼女の容態が気になって仕方がなかったのだ。


 結果、冒険者ギルドから出た小枝は、すぐに路地裏に入って、転移を行おうとするのだが——、


「……コエダ様」げっそり


——路地裏に入る直前、どこかで見たことのある若い商人が、疲れ切った様子で小枝に向かって声を掛けてきた。ニルハイム商会の若頭、ゲートリーである。まぁ、小枝の中では、商業ギルド長の"手下A"程度にしか覚えられていなかったようだが。


「お断りします!」


「まだ何も言っていませんよ……」


「とにかくお断りします!たとえ慰謝料として1兆ゴールドを渡すとか言われても、今の私を止める事は出来ません!絶対に忘れませんからね?今朝、商業ギルドで受付の方に受けた仕打ちを!」


「やはりあの朝の出来事は……」


 小枝の発言を聞いたゲートリーは、すべてを理解した。朝、商業ギルドの内部が、まるで嵐に見舞われたかのように荒れに荒れ、業務の大半が滞ってしまった挙げ句、多大な損失を生んだ原因が、目の前に居るのだ、と。


 しかしそれでも彼が、小枝に文句を言うことは無かった。否、言えなかったのである。何しろ彼は、商業ギルドの受付嬢から、変わった赤い服を着た子供が憤慨した途端、ギルドの中が無茶苦茶になったという報告を聞いていて……。そしてその子供——小枝が憤慨した原因は、受付嬢が小枝の事を子供扱いしたことだということを理解していたのだから……。


 さらには、昨日の自身の失態や、小枝が魔物のスタンピードを1人で制圧したという噂、あるいは騎士団長を問答無用で吹き飛ばしたという根も葉もない話などなど……。それらを知ってしまった今のゲートリーには、小枝に文句を言えるような勢いは無かった。むしろ、可能なら距離を取りたいとさえ思っていたようである。


 しかし、賠償金を払うと言っておきながら払えていない今、信用を武器に商売を行う商人としては、小枝に何としても賠償金を受け取って貰わなければならず……。仕方なく、小枝に接近してきた、という背景があったようだ。恐らく、ギルド長のヴァンドルフも、ゲートリーのことを急かしているに違いない。


「とにかく、これ以上、貴方方とお話しすることはありません!あまりしつこいようなら、騎士団を呼びますよ?……物理的に」


 そう言って、昨日同様、小枝はゲートリーに背を向けて歩き出そうとするのだが……。しかし、そんな時、ゲートリーとは異なる人物が、小枝の事を呼び止めた。


「おう!コエダちゃん!」


 同じ商人でも、小枝から絶大な信頼を受けている(?)リンカーンである。


「あ、リンカーンさん」


「おいおい、噂聞いたぞ?魔物を皆殺しにしたんだって?」


「いや、してません。追い払っただけです」


「はははっ!また、謙遜して……」


「ホントですって」


「まぁ、どちらにしても、コエダちゃんは町の英雄ってわけだな!じゃぁ、今日は町の英雄の誕生を祝って、ミハイルたちの奢りで一杯飲むか!」


「リンカーンさんが払うわけでは無いのですね……」


 と、どこか仲よさげに会話する小枝とリンカーン。その様子を見ていたゲートリーは、至極、複雑そうな表情を浮かべていたようである。


 なにしろ、リンカーンは、ほぼ無名と言っても過言ではない商人であるにも関わらず、商人全般を嫌っているはずの小枝と普通に会話しているのである。その様子は、ゲートリーからすると、異様以外の何者でもなく——、


「あの……すみません」


——思わず問いかけてしまうほどの出来事だったようだ。


「あなたは確か……旅商人のリンカーンさんですよね?」


「えっ?あっ!ニルハイム商会のゲートリーさん!すみません!気付くのが遅れまして……」


「いえ、それは良いのですが……どうしてコエダ様とそんなに仲良く話せているのですか?」


「はい?仲良く……?」


「あ、いえ。実は……大変、お話ししにくいことなのですが、この町の商人は、基本的にコエダ様に……その……嫌われておりまして……私たちのせいで……」げっそり


「あっ……」


 その瞬間、リンカーンは、ゲートリーが何を言わんとしているのか、大体のことを悟った。すなわち——、


「(取り次ぎを頼めと?!)」


——嫌われている自分たちの代わりに、小枝専用の窓口になって欲しい、と。


 それ自体は、リンカーンとしても、(やぶさ)かではなかったようである。強い冒険者である小枝に、商業ギルド公認で贔屓にされるというのなら、商人としては願ったり叶ったりだからだ。


 しかし、この時、リンカーンは、ゲートリーたちのことを疎ましくも思っていたようである。リンカーンにとって小枝とは、取引をする相手というよりも、どちらかと言えば親しい知人。できればそこに泥臭い仕事の話を持ち込みたくなかったのである。


 そして、小枝も、リンカーンが何を考えているのか、大体予想できていたようだ。結果、彼女は、恩義を感じているリンカーンのために、一肌脱ぐことにしたようだ。


1日のルーチンワークが出来上がりつつあるのじゃ。


深夜:アルティシア殿に会いに行く

早朝:問題に巻き込まれる

朝〜昼:冒険者として活動

夕:問題に対応

夜:食事 ← 次ここ

深夜:帰宅


なお、5日目以降は、さらにルーチンが増える模様。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 87/87 ・ゲートリーさんのげっそりに同情しちゃう。コミュニケーションが生んだ悲劇は根深いw ・ゲートリーさん、やっぱり他作品だと高確率で話が通じない悪役になりそうです。ここではまと…
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