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4日目-23

『黒服の者たちがガベスタンの者たち』という記述を書き換えて、『魔法陣が開発されたのがガベスタン』に修正したのじゃ。

小枝殿は、黒服の者たちがガベスタンの者たちだと断言しない、と決めておったからのう……。

 ミハイルとのやり取りを終えた後、小枝は冒険者ギルドへと向かっていた。ギルドへ至るまでの経路で、彼女は町の人々から全力で避けられ続ける。


「(分かっていてもショックですね……)」がっくり


 町の人々も、冒険者たちも、商人たちも、あるいは騎士団も、多くの者たちが小枝を避けた。それぞれに考えていた事は異なっていたようだが、皆、共通して、小枝という人物に恐怖のようなものを感じていたようである。


 しかし、それでも、一度町に残ることを決めた小枝の心を変えるには至らなかったようだ。


「(……ですが、私の気持ちがこの程度の事で曲がると思って貰っては困ります!分かってくれる人は、分かってくれて……じゃなくて、すべてはワルツのためなのですから!)」


 皆から後ろ指(?)を差されても、小枝は挫けることなく、心を強く持った。彼女の心の中心にあったのは、妹に会って連れ帰りたいという強い意志。その気持ちは、誰かに害されるものではない。……彼女はそう考えることにしたようだ。それ以外に、自分の心を支えてくれるものが何なのかを理解出来なかったらしい。


 そして小枝は——、


ギギギギギ……


——冒険者ギルドへと戻ってきた。


 その瞬間、小枝に皆の視線が集まる。冒険者たち、そしてギルド職員たち……。彼らの大半は、町の人々と同じく、小枝に対して恐怖の権化(ごんげ)を見るような視線を送ったようである。


 しかし、ミハイルが言っていた通り、人から畏怖の視線を向けられるというのは強い冒険者にとっての通過儀礼のようなものだったらしく……。ギルドの中に居たすべての者たちが小枝のことを化け物扱いしていた、というわけではなかったようである。


 中でも、ギルドマスターのダニエルは、小枝に向かって呆れたような視線を向けていて……。カトリーヌも恐怖ではなく、苦笑を表情に浮かべていたようだ。


「お疲れ様です。コエダ様」

「大丈夫でしたか?」


「えぇ。ちょっと魔物たちと戯れてきただけです。それで……森であったことについて報告したいのですが良いですか?」


「……お願いします」


 小枝の口調に何かを察したのか、ダニエルとカトリーヌは表情を改めた。そんな2人に対し、小枝は見てきたことを端的に説明する。


「魔女の森の奥で黒服の人たちが"スタンピードの魔法陣"なるものを展開していたので、陣地ごと破壊してきました」


「「は、はあ……」」


「その後で森を出たら、魔物が冒険者の方々を襲おうとしていたので、とりあえず森に帰って貰いました」


「「…………」」


「以上です」


 小枝の説明があまりに端的すぎたのか……。ダニエルたちは思わず頭を抱えてしまったようだ。いや、彼らだけではない。他のギルド職員や、話を聞いていた冒険者たちも、小枝が何を言っているのか分からなかった様子で、首を傾げていたようである。


 そんな状況の中で、ダニエルが問いかけた。


「あの、コエダ様?確認したいことがあるのですが……」


「はい、なんでしょう?」


「"スタンピードの魔法陣"というのは……なんなのでしょうか?今まで聞いたことがないのですが……」


「えっと……これです」


 小枝はそう口にすると、ホログラムシステムを使って、その場の空中に、森の中で見た魔法陣をそのまま描いた。


「「なん……」」


「光魔法です」


 その緻密な魔法陣を見たダニエルたちは目を疑った。直径、5mほどの魔法陣が、空中でゆっくりと回転しているのである。止まっているならまだしも、3次元に動いているというのは、もはや人が扱う光魔法でどうにかなるレベルの話では無かったのだ。


 しかしそれでも、彼らが、小枝のホログラムに突っ込むことはなかった。小枝の行動の一つ一つが異常だというのは彼らも気付いていたので、わざわざ指摘すると話が進まないことを理解していたからだ。


「これは……」


「分かりますか?」


「全然」


「あ、そうですか……」


「ですが、この魔法陣が開発された場所なら分かります」


「「ガベスタン」」


 その瞬間、小枝の言葉と、ダニエルの言葉が重なった。すると、ダニエルが、驚いた様子で小枝に問いかける。


「知っていたのですか?」


「えぇ、司令官の方の額に落書きをするついでに……どこで開発された魔法陣なのかを耳に挟みましたので……」


「司令官の額に落書き……?」


「はい。今のダニエルさんのように……」


「なっ?!」バッ


「……冗談です」


「……悪い冗談は勘弁してください」


「では、実際に書いた方が?」


「やめてください。他に聞いたことは?」


 そんなダニエルの問いかけに対し、小枝は素直に、檻の中に閉じ込めてきた、とは言えなかったので——、


「いえ、私が聞いたのはそれだけです」


——それ以上は記録の中に仕舞っておくことにしたようである。


 彼女がそんなことを考えているとダニエルが察したかは定かでない。しかし、彼はそれ以上追求せず、疲れたように溜息を吐くと——


「……分かりました。では次の質問です。魔物に帰って貰ったというのは……具体的にどうやったのですか?」


——いよいよ本題とも言えるその疑問を小枝へと投げかけたのである。


ダニエル殿の名前の覚え方を考えねばのう……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 85/85 ・今日の小枝さん、げっそりしてそう [気になる点] ダニエル……ダニのLサイズ……失礼すぎる(げっそり) [一言] お疲れ。 つ[稲荷寿司]
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