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4日目-18

ウィィィィィン……


 機械的な音がその場に鳴り響く。地面を穿った巨大な手が、再び板状の形へと戻ったのだ。その巨大な板は、次の瞬間——、


ブゥン……


——と、虚空へと消えて……。淡く輝く魔法陣があった場所には、大きな穴と、小枝の姿を残すだけになった。


 小枝が繰り出した魔法とは異なる暴力的なその現象を見た黒服の者たちは、皆、揃って、呆然とした。内訳は、およそ半分の者たちが現実を受け入れられない様子で、そしてもう半分が力に圧倒された様子で立ちすくんでいたようである。


 そんな黒服の者たちを前に、小枝は不敵な笑みを浮かべながら、こう呟く。


「おっと、地面が光っていたので、軽く触ったら吹き飛んでしまいましたね。いったいどんな効果のあるものだったのでしょうか?ちょっと、聞いてみましょう」


 そう言って小枝はおもむろに前へと手をかざした。すると、その先にいた黒服のリーダーと思しき男が、まるで小枝の手に吸い寄せられるかのように、彼女の方へと水平に飛んでいく。


「んなっ?!」


ガッ!


 直線を描いて小枝の方に()()()()()()男は、小枝の前、50cm付近で不意に静止する。そして、彼は、そこで身動きの一つすら出来ず、小枝の尋問を受けることになる。


「さぁ、質問です。ここで何をしていたのです?」


 小枝はそう言いながら、男が腰に付けていた剣を引き抜いた。


「だんまりですか?」


「いや、まだ時間は経っておらn——」


バキバキッ


 小枝は男の武器を素手で握りつぶした。この間、1秒。


「私は短気なのです。さっさと喋って下さい」


「分かった。しゃべ——」


ドシャァァァァッ!!


 何かを喋ろうとした男は、地面を転がっていった。


「何度も言わせないでください。私は短気なのです。目的だけを無駄なく答えて下さい。はい、次」


ギュウンッ!!


 そして始まる小枝の尋問——もとい拷問。重力制御システムで引き寄せてから、吹き飛ばすまで、1人辺り平均2秒。その間に答える素振りを見せなかったり、言葉に詰まった場合は——、


ドシャァァァァッ!!


——と、容赦なく地面を転がされて……。黒服の者たちは、急速にその数を減らしていった。


 実はこの時、小枝には、彼らの話を聞くつもりが無かったのである。何しろ彼女は、黒服の者たちの会話を間近で盗み聞きしていて、わざわざ尋問しなくても、知りたいことはすべて把握していたからだ。


 ではなぜ、小枝は尋問のまねごとのようなことをしていたのか。答えは単純。彼女は憤っていたのだ。


 彼女がブレスベルゲンという町にどんな感情を抱いたのかは定かでない。だが、少なくない者たちとの出会いや出来事が、彼女にとっては掛け替えの無いものなっているのは事実で……。誰かに町を攻撃されるというのは、我慢ならない事だったのだ。


 それから間もなくして……。その場に立つ者は、小枝以外にいなくなっていた。死人こそ出ていないものの、皆、満身創痍な様子で、立ち上がれる者はいなかったのだ。あるいは、立ち上がるだけの体力が残っていても、小枝という名の災害(ディザスター)が過ぎ去るのを地面に伏せながらジッと待っていた可能性もあるだろう。


 一方、小枝は、皆がジッと息を殺している可能性に気付いていた。何しろ、彼らの事を圧倒的な力でねじ伏せながらも、大怪我をしないように計らっていたのは彼女自身なのである。それには、れっきとした理由があった。ただし、黒服の者たちの身を案じたからではない。


「(これで私の噂がガベスタンに広まれば、もしも()の国にワルツがいた場合、彼女の耳にも入るかも知れません)」


 そう、小枝は、黒服の者たちに、自分の噂をガベスタンへと持ち帰って欲しかったのだ。なにしろ、彼女がこの世界にいる理由は、そこに住まう人々を怖がらせるためでもなければ、人々の上に立つことでも、ましてや富や名声を得るためでもなく……。ただひたすらに、妹のワルツを探すためなのだから。


「(さて、どうしましょう?気付かないふりをしてこの場を立ち去るか、それとも、下手なことをされないよう、もう一押ししておくか……)」


 小枝はその2択で悩んだ末、後者を選ぶことにしたようだ。このまま黒服の者たちを返したのでは、ただ詰めの甘い"人間"に見られると判断したらしい。まぁ、人間らしさを求める彼女からすると、それはそれで良かったようだが。


 それから彼女は、わざとらしく、胸の前でパンッと両手を合わせると……。皆に聞こえるような声で、こんなことを言い出した。


「……そうです!ここから逃げ出されると困りますから、檻でも作って閉じ込めておきましょう!」


 その瞬間だった。周囲の木々から、バキバキという音が響き渡る。大量の木々が、小枝の重力制御システムの影響を受けて、地面から一斉に引き抜かれたのだ。木々は宙に浮かぶと、ミシミシという破滅音を立てながら枝や根を剥ぎ取られて、ただの丸太へと変貌していく。


 それは小枝のオーケストラ。無数にある木々は、メロディーを奏でる奏者たち。彼らは、小枝の指揮に合わせるかのように、フワフワと宙を舞って、メキメキと姿を変えて……。そして——、


ズドォォォォン!!


——と一斉に地面へと刺さり、その場の地面を揺るがした。


 小枝が森の中に作り出したのは、およそ10cm間隔で大木が並ぶ10m四方の巨大な檻。高さはおよそ10mで、天井は無く……。頑張って登れば、抜け出すことも不可能ではなかった。まぁ、表面は滑らかに加工されている上、生木なので、そう簡単には登れないはずだが。


 小枝は、開いていた天井部分から、檻の中へと、死んだふりを決め込んだ者たちを放り込んでいった。すると、ようやく異変を察知した人々が、檻の中で飛び起きて、そこから出ようと足掻き始める。


 その様子に見た小枝は、焦った様子の黒服の者たちに向かって、ニッコリと人の悪そうな笑みを浮かべた後……。即席の松明にレーザーで火を付けて、こんなことを言い始めた。


「さーて、どうしましょう?魔物を呼んできて、鳥葬にするというのも良いですし、この松明を放り込むというのもよさそうですねー」


 その瞬間、閉じ込められた者たちは理解したようだ。今、自分たちの命は、小枝の手の上にあるのだ、と……。


 絶体絶命の状況に追い込まれた黒服の者たちは、悲鳴のような声を上げながら、小枝に助けを請おうとした。だが、そのときには、既に小枝の姿はその場から忽然と消えていて……。彼らは、天井のない檻の中に、放置されてしまったのである。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 80/80 ・さすが小枝さん熱いですね。 ・今回、背景の色を意識しちゃいました。 [気になる点] 最後、異相空間に行きましたね(それか光学迷彩?) 最近、異相空間のイメージが『二枚重…
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