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4日目-10

「……あの、カトリーヌさん?」


「…………」ぽかーん


()()()()さーん?聞こえてますか?」


 小枝はあえてカトリーヌの名前のニュアンスを変えながら、火炎草を彼女の顔の前で揺らしてみた。すると、ようやく我を取り戻したのか、カトリーヌが反応する。


「な……」


「な?」


「なんでこんなことが出来るのよ?!」


「なんでって……出来るから出来るに決まっているではないですか?魔法があるのですから、これくらい出来て当たりm……えっと…………もしかして皆さん、出来ないのですか?」


「当然よ!こんなこと出来る人なんて、いるわけないじゃん。宮廷の錬金術師たちにだって無理よ!」


「…………っ!」


 呆れと憤りを混ぜたような反応を見せるカトリーヌを前に、小枝は悟った。……自分の行動は"(いささ)か"人間の範疇を超えていたのではないか、と……。なお、言うまでも無いことかも知れないが、"些か"ではなく"大幅に"である。


 しかしである。この試験管は作ったにも関わらず、肝心の試験管立てが無ければどうにもならなかったので……。小枝は開き直って、こんなことを言い始めた。


「……まぁ、この際、そんな些細なことは置いておきましょう」


「ちょっ……」


「先ほどもお聞きしましたが、木枠も作りましょうか?さぁ、答えてください。ご存じの通り、私には時間が無いのです!」


 すこし凄みを効かせながら小枝が問いかけると、カトリーヌは青い表情を浮かべながら、試験管を立てるための木枠についても作って欲しいと口にした。なので、小枝が即席で、試験管立ても作成する。


 その場には他の職員たちや冒険者たちもおり、彼らは息をするのも忘れて、小枝の作業に見入っていたようだ。彼らに共通して言える事は、自分の目が信じられない様子だった、という点。誰しもが、自分の目を擦ったり、頬をつねったり、眉に唾を付けたり……。しかし、どんなに確かめても現実だったようで、彼らは目に見える光景を仕方なく事実として受け入れることにしたようだ。


 そんな冒険者たちの反応に気付いているのかは定かでないが、小枝は異相空間から取り出した木材をほぼ一瞬とも言える時間で、試験管立てに加工した。指の先から赤外レーザーを出して、丸太を切って板状にして、穴を開けて、柱を数本立てて……。20台作るのに、3秒。


 結果、出来上がった試験管立てに、小枝は先に作った試験管と、採取してきた火炎草を挿して、受付のカウンターの上に並べていった。その際、小枝は試験と火炎草を手に持ってなにやら固まると——、


「……あっ、手が滑りました!」ガシャン


——と、宣言してから、これ見よがしにそれを床に落とす。


「「「………」」」しーん


「……手が、滑りました」


「「「………」」」しーん


「……手が——」


「もう良いわよ!もう分かったから……」


 このままだと無限ループに陥ると思ったのか、カトリーヌは小枝の露骨な人間アピールをやめさせた。


「…………ねぇ、コエダ様?」


「何です?」


「……あなた、本当に冒険者なのよね?」


「先日、冒険者になろうとして、誰かさんに断られましたけど、一応、冒険者です」


「……その節は申し訳ございませんでした」


 今ではかなり小枝への対応に慣れてきたカトリーヌだったが、当時のことを掘り返されると反論出来ず……。それ以上、小枝の素性について追求するのはやめておくことにしたようだ。


「……99本の火炎草と、ホルダー代の合計で、52万ゴールドよ?」


「では、その報酬を、すべて昨日の依頼金の報酬に回して下さい」


「えっ?」


「薬草の採取を倍額でお願いするという依頼です。キャンセルしたつもりはありませんでしたが……」


「あの話は商業ギルドに対する報復として考えられていたのではないのですか?和解した今では必要無くなった依頼だと考えておりましたが……」


「いえ、一度出した依頼ですから、途中で違約金を払ってまで止めるつもりはありません。実はですね……商業ギルドから頂くはずの損害賠償金からその違約金を支払おうと考えていたのですが、今朝、商業ギルドに行ったら、受付の方に子供扱いされて追い返されてしまいましてね?」


「え゛っ……(ま、まさか……!)」


「ヴァンドルフさんに会おうとしたら、門前払いになってしまったのですよ。これって損害賠償金を支払わないという明確な意思表示だと思うのです」


「ちょっ……(今朝、工事の施工ミスのせいで商業ギルドが壊滅状態になった、っていう話があったけど……あれって本当は……)」


「というわけで、商業ギルドには潰れて貰おうと思います。……いえ、正しくは、いつでも潰せる状態に持っていく、と言った方がいいですね。一応、ヴァンドルフさんや商業ギルド関係者以外の人たちにも生活があるわけですし……。でも、ヴァンドルフさん方には失望しました。命があるだけでもありがたいと思ってほしいところですよ。カトリーヌさんもそうは思いませんか?まったく私のことを子供扱いするとか……」


「そ、そうですね。失礼だと思います……(……ごめんっ!商業ギルドの人たち!私たちにはコエダ様のことを止められないのっ!)」


 カトリーヌは内心で謝罪を繰り返した。しかし同時にこうも考えていたようである。……当然だ、と。


 こうして小枝の火炎草に関係する話は、一通りが終わった訳だが……。小枝がギルドで行う用事はもう1つ残っていた。ただし、新しい依頼を受けることの他にもう1つ、である。


「あ、そうでした。忘れないうちに聞いておきたいのですが、変な情報とか入っていませんか?」


「変な情報……ですか?(商業ギルドがヤバいって話?)」


「例えば……魔物が普段と変わった行動をしていて、森の中を同じ方向に向かって移動している、とか」


ガタンッ!


「なにそれ、どこで聞いたの?!っていうか、納品なんて良いから、そっちの方を先に言いなさいよ!」


「えっ……」


「あ、いえ、失礼しました。魔物が普段と異なる行動をしているとなると、魔物の暴走(スタンピード)が疑われますので……」


「やはりそうなのですね。魔女の森の中で(魔女のグレーテルさんと)のんびりとお茶を飲んでいたら、大量の魔物たちの移動で邪魔されまして……。それで急いで戻ってきたのです。町に問題は無いかと心配になったのですよ」


「…………」


「……?あの……カトリーヌさん?聞いていますか?」


 小枝の問いかけに、カトリーヌからの返事は無かった。ただ彼女は、難しそうな表情を浮かべていて……。まるで小枝の言葉にどう返答して良いのか分からない、といったような雰囲気を漂わせていたようだ。


 と、そんな時。カウンターの奥の方にいたギルド職員のダニエルが、2人のところへと近付いてくる。


 そして彼は、小枝の前に立つと、眉間に皺を寄せたながら——


「……コエダ様。その話、もう少し詳しく聞かせて貰えないだろうか?」


——と、カトリーヌの代わりに、そんな質問を投げかけてきたのだ。


明日はきっとストックが貯められる……はず。

そんな淡い期待を抱いておるのじゃ。

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