4日目-4
順番がおかしくなっておるのじゃ。
仕方がないので、2話投稿するのじゃ。
そして今日もブレスベルゲンに朝が訪れる。
小枝は、アルティシアと別れた後、冒険者ギルドへと直行した。周りに目もくれず、できるだけ人に会わないようにして……。そうしなければ、昨日の商人ギルドのように、厄介事に巻き込まれるような気がしていたのだ。
それともう一つ。彼女がギルドに急いだ理由がある。
「今日からEランクです!」
受けられる依頼のランクが上がって、依頼の内容が大きく変わるからだ。Fランクでは、主に、誰でも出来るような安全で簡単な依頼しかなかったものの、Eランクでは少し難易度が変わって……。危険が伴う魔物退治や、1段難しい薬草採集などが含まれるようになるのである。まぁ、それでも、面倒な条件が増えるだけで、極端に難易度が上がるというわけではないのだが。
「なにがあるかなー?」
ギルドに入ってから、真っ直ぐにEランクの掲示板の前にやって来た小枝は、嬉しそうに掲示板へと目を向けた。その際、掲示板の前から、他の冒険者の姿が消えたのは、単なる偶然か、それとも必然か。
しかし、小枝は、そんな些細なことなど気にしない。彼女は、周囲の者たちの恐怖を含んだ視線に気付かないまま、掲示板に貼られていた書類に目を通し続けた。
その際、彼女は、ふと気付いたことがあるらしく、不思議そうに首を傾げてしまう。
「(……気のせいですかね?他のランクの掲示板に比べて、やたらめったらと依頼の書類が貼り付けられているような気がするのですが……)」
彼女が見ていたEランクの掲示板には、FランクやDランクの掲示板と比べても、5倍くらい多くの量の依頼書——特にゴブリンなどの討伐依頼などが張られていた。……果たして、昨日の掲示板も、今日と同じくらいの量の依頼書が張られていただろうか……。小枝はふと疑問に思ったようだが——、
「……ま、いいですけど」
——何者かの意図が加わっている気配を感じたらしく、深く考えないことにしたようだ。
大量の依頼書の中から、小枝はあえて1枚だけを手にすると……。それを持ってそのまま受付へと向かった。
するとそこでも人垣が割れて……。彼女は待ち時間ゼロで受付に辿り着くことに成功する。
「おはようございます。蚊取り犬さん」
「えっ?かと…………っ?!お、おはよう……ございます(何かおかしな呼び方をされたようながしたけど……じゃなくて、もしかして名前覚えられた?!)」
「……?どうかされましたか?この依頼を受けたいのですけど……」
「は、はい……。拝見します……」
恐る恐る書類を受け取ったカトリーヌは、そこに書いていた文字を見て、眉を顰める。
「……魔物の討伐ではないんですね?」
「不必要な殺生はしないよう心がけているのです。食べるならまだしも、素材目当てに大量殺戮など、そんな野蛮なことは——」
「…………」
「——なんですか?」
「いえ、なんでも……」
カトリーヌは、小枝の発言にどこか納得いかないような表情を浮かべながら首を振る。どうやら何か言いたいことがあったようだが、口には出せなかったらしい。
それから彼女は、改めて小枝に向かって問いかけた。
「火炎草の採取でよろしいですね?1本辺り、5000ゴールドと薬草に比べて非常に高価ですが、花びらの炎が消えてしまうと、価値は無くなってしまうので注意して下さい。あと開花していない火炎草も価値はありませんから、こちらも注意して下さい」
「わかりました(……やっぱり燃える花があるんですね。異世界らしいです)」
小枝が受けることにした依頼は、燃える花——火炎草の採取だった。地球では絶対に考えられない植物に、興味が湧いたのだ。
受付での手続きが終わった後。小枝は早速、火炎草の採取へと出かけた。場所は、町から歩いて6時間ほど離れた場所にある断崖絶壁。そこに生えている火炎草を採取し、炎が消えてしまわないようにギルドへと持ち帰るのが今回の依頼である。
多くの場合、採取してから町まで6時間掛かる移動時間の間に、花の炎が消えてしまうので、達成するのが簡単ではない依頼で……。危険らしい危険が無いものの、持ち帰る難易度の高さから、Eランクに指定された依頼だった。なお、正しい依頼達成の方法としては、火炎草専用の高価な容器に入れて持ち帰ることなのだが……。小枝がその"正しい方法"を選ばなかったことは言うまでも無いだろう。
◇
そして小枝が去って行った後。冒険者ギルドの職員である蚊取り犬——もといカトリーヌは、ギルドマスターのダニエルと、こんなやり取りを交わしていた。
「ちっ!あの子、魔物の討伐依頼には目もくれなかったわ!」
「釣り針があからさま過ぎたんじゃないか?」
「……どうかしらね……」
「…………?」
「あの子、あれだけ色々な場所で暴れていたっていうのに、殺生をしないって言うのよ」
「殺生を……しない?魔物を倒さないって言うのか?そりゃ困るな……」
「不必要な殺生はしない、って言ってたから、狩らないわけじゃないと思うけどね?」
2人は深刻そうに、そんな会話を交わしていた。その背後には何やら面倒な事情があったようだが——、
「……まぁ、すぐにどうにかなるって話じゃないはずだから、今は地道に説得するしか無いだろうな」
——小枝に魔物退治を強制するつもりは無かったようである。
「聞いてくれれば良いけどね……。あの子、魔物並みに聞き分けなさそうだし……」
「そういうことを言ってると、いつか本人に聞かれるぞ?」
「……怖いこと言わないで」
「普段からそのくらい慎重なら良いんだけどな……。ま、話はとりあえずコレで終わりだ。俺たちは俺たちで、準備を進めよう。——魔女の森のスタンピード対策を、な」
そう言って話を締めくくるダニエル。彼のその言葉からどことなく苦々しさが滲み出ていたのは、人知れず内心で焦っていたから、なのかもしれない。
妾、大混乱。