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1日目-02

 森の中を進む道には、轍が2本出来ていた。つまり——、


「(車……いえ、馬車のようなものが走っている、という事ですね……)」


——この世界の知的生命体は、乗り物を使うようである。


「(この感じ……この世界の住人たちの素性が分かるまでは、人らしく歩いた方が良さそうですね。どんな方がいるのかは分かりませんが、空を飛んでいたら、驚かれるかも知れませんし……。広範囲に渡ってワルツを探すのは、姿が見えにくくなる夜になってからにしましょう)」


 道に歩み出た小枝は、どこに続いているかも分からない道の先を眺めた後、悩ましそうに小さく溜息を吐いた。


「さて……。この道、どちらに歩いて行きましょうか?」


 彼女が見る限り、森の中を進む道は、大木を避けるかのように蛇行しており、どこに繋がっているのか皆目見当も付けられなかった。ただ言えることは、どちらに進んでいったとしても、そのうち知的生命体と遭遇するだろうという事だけ……。馬車と思しき乗り物が通過してから、まだそれほど日は経っていないようなので、すでに絶滅していた、などと言うことは恐らくないはずだ。


「ど・ち・ら・に・い・こ・う・か・なっ、と!」


 左右を指差しながら、どちらに行くかを決める小枝。その結果、彼女は、最後に指を差した方向とは逆の方向に進むことにしたようである。


「……あっ、タンポポ……」


 道ばたに見慣れた植物が生えていることに気付いて、小枝は驚いた。ここは異世界、あるいは地球とは異なる惑星のはずだというのに、地球にしか存在しないはずの植物が生えていたのだ。


 つまり——、


「……この世界、どこかで地球と繋がってるようですね。常に繋がっているのか、それとも時々繋がるのか……」


——植生が伝わる程度には、地球とこの惑星との間に何かしらの繋がりがある、ということである。尤も、プテラノドン(?)のような動物は地球上にいないので、一方方向である可能性も否定は出来ないが。


「この感じだと……多分、その辺に生えてる木の実とか、野草とか、問題なく食べられそうですね……」


 小枝はそんな独り言を呟きながら、近くの木になっていた実を手に取った。親指よりも少し大きな赤い果実。まるでスモモのような見た目で、ほんのりと甘い香りを漂わせていた。


「これ……持って帰ったら、姉様、喜ぶでしょうね……」


 小枝はそう呟きつつも、そっと地面の上にスモモのような果実を置いた。キラが検疫室を完成させるまでは、動植物を持ち帰れないのである。場合によっては、現代日本に、未知のウイルスが蔓延しないとも限らないからだ。


 それからも、小枝の探検は続いた。見たことのある花だったり、見たことの無い果実だったり……。時には小動物などを観察しながら、彼女はハイキングを楽しむ少女のように、森の中を歩いて行った。



 それから4時間ほど散策を続けた頃。草木だけでなく、鉱石などにも興味が移っていった小枝の聴覚に、どこからともなく、ある音が聞こえてくる。


キィィィィンッ!!


 何か固いもの同士がぶつかるような音。それに——、


「……りゃぁぁぁぁっ!」


——まるで人間が発しているかのような大きな声が聞こえてきたのだ。


「(……誰かいるのですか?)」


 小枝は散策を中断し、曲がりくねった道の先へと急いだ。そして、300mほど進んだ先で、声の主と思しき()()()の姿を見つける。


「うりゃぁぁっ!!」


 どこからどう見ても人間にしか思えない者たちが——、


ガンッ!!


——槍や斧、あるいは剣などを使い——、


「ギギギギギッ!!」


——巨大なアリのような生物と戦っていたのだ。


 そこにいたのは、若い男性と思しき者が2人、中年くらいの男性と思しき者が1人。若い女性と思しき者が1人。合計4人。彼らの見た目は、どこかのゲームや物語に出てくる冒険者のような格好をしていて……。皆で巨大なアリから馬車を守ろうと奮闘していたようである。まぁ、中年の男性は戦えないのか、馬車の影で皆の様子を見守っているだけのようだが。


 一方のアリは合計5匹。日本でもよく見かけるクロアリを3mほどに大きくしたような見た目の動物である。


 しかし、普通のアリとは違い、その口に付いた顎は、その辺に生えている木なら簡単に食いちぎれそうなほどに大きく、その上、身体の表面もかなり頑丈だったらしく……。冒険者風の者たちからの攻撃を無傷のまま跳ね返して、逆に彼らの命を刈り取ろうとその隙を狙っていたようだ。


キィィィィンッ!!


 剣を蟻に叩き付けたは良いものの、あまりの硬さに手が痺れたのか……。20歳くらいの女性が、苦々しげに口を開く。その瞬間、小枝は、眼を見開いた。


「ダメこれ!硬すぎ!」


 日本語。そう、日本語である。どうやらこの世界の知的生命体は、日本語を口にするようだ。


地の文が、誰かのしゃべり方にすごく似ておる……そんな気がしてならぬ、今日このごろなのじゃ。

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