19日目午後-16
「5人では割り切れませんから、テンソルさんは私と決闘ですね」
「え゛っ……」
「それと、聞いた話では、決闘は1対1というだけでなく、1対2や、あるいは2対2など、複数人での戦闘が認められているということなので、今日の決闘は2対2で行いましょう」
丘の上にいた者たちに対して、小枝はそう提案する。
ハイリゲナート王国では、貴族同士の決闘が認められているだけでなく、その決闘に助っ人の参加が認められていたのだ。文官系の貴族は逆立ちしても武官系の貴族には太刀打ち出来ないので、その救済策として認められた、というのが建前。まともに戦う事の出来ない貴族ばかりで、助っ人に頼って戦わなければまともな決闘にならないというのが実情だったりする。
「では、グループ分けはどうしましょう?」
「あの……コエダさm——」
「テンソルさんは、私と1対1の決闘ですので、グループ分けは関係ありません」
「 」
テンソルが言葉を失って固まっている中、最初に口を開いたのはグレーテルだった。
「じゃぁ、私はこの前みたいにアルちゃんと組むわね」
「えっと……すみません、巻き込んでしまって……」
「別に良いわよ。なんか、決闘っぽくないし、夜の腹ごなしって感じだしね」
グレーテルは、選べる相手がアルティシアかエカテリーナのどちらかしかいなかったので、共に戦った経験のあるアルティシアの方を選ぶことにしたらしい。
一方、ノーチェの方も、既に誰と組むかは決まっていて、異論は無かったようである。
「ノーチェはエカテリーナお姉ちゃんと組む!」
「ありがとう。ノーチェちゃんとなら負ける気がしませんわ?」
「…………」こくり
こうしてグループ分けはすぐに決まった。王城で一緒に大立ち回りをしたアルティシアとグレーテル。そして、獣人の姿のエカテリーナと——、
ボフンッ!
——元の姿に戻ったノーチェという組み合わせだ。
『……本気で戦う。もう負けられないから……』
「私も全力で戦いますけれど、いかんせん、実戦経験はあまりなくて自信がありませんの。どうにもならなくなったときは助けて下さいまし」
『…………』こくり
「さぁ、朝の失敗の分を取り返しますわよ!覚悟なさい!アル!」
「ま、負けないです!」
「(エカテリーナがどのくらいの強さなのか、まったく分からないのよね……。でも、ノーチェがよく分からない魔法を使えることは分かってるから……これ、意外と良い勝負になったりして?)」
グループ分けが終わり、お互いに意気込みを交わして、それぞれが身構える。
そんな4人に対し、小枝は簡単にルールを説明した。
「この決闘では、必要以上に相手を痛めつけるような事はしてはいけません。ただし、大怪我を負ってしまうかも知れない魔法や攻撃の使用は、私がギリギリで止めますので許可します。その場合は、攻撃を受けた側のチームの負けです。皆さん、スポーツマン精神に則って、正々堂々と全力を出し切って戦って下さい。勝った方は……そうですね。負けた方に何でも言うことを聞かせるとなると、あとで私が困る事になりそうなので、その代わりとして、私から何かをお送りするということにしましょう」
と、小枝が口にした瞬間、アルティシアとノーチェの目が光る。アルティシアにとっては負けても領主の館に帰らずに済み、そしてノーチェにとっては小枝のご褒美というものが魅力的に感じられていたのだ。
そして、丘の上に静けさが訪れる。聞こえるのは、草木の隙間を流れていく風の音だけ。心なしかひんやりとした空気が辺りを包み込み、周囲に広がる夜の闇をより深く感じさせていた。
見えない空気が風船のように張り詰めていき、今にも破裂しそうになった時——、
「では、試合開始!」
——と、小枝が宣言した。決闘——と言う名の、より実戦に近い模擬戦闘の開始を。




