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3日目-13

「検収は終わりましたか?」


 ギルドへと戻ってきた小枝に、表情は無かった。まるで能面のような表情だった、と表現できるかも知れない。


 それだけで、彼女が相当に怒っているのだと、冒険者ギルドの職員たちは感じ取ったようだ。何と言っても、その表情は、昨日自分たちに向けられていたものと同じだったのだから……。


 ゆえに、ダニエルは、小枝がこれからどういった行動をするのか予測できていたようである。推測するための材料は、すべて手元にあったからだ。


「……事情は分かりましたコエダ様。あなたは……この町の道具屋をすべて潰すおつもりなのですね?」


 しかし、小枝は彼のその言葉に首を振る。


「いえ、潰すのではありません。作り直すのです」


「作り直す……?」


「そうです。良いですか?ダニエルさん。10のお金を払って効果が10の薬を手に入れられるのと、1のお金を払って効果が100の薬を手に入れられるのとでは、どちらがこの町にとって良いことだと思いますか?」


「それはもちろん、後者の方でしょう。しかし、そんなこと……」


「……不可能だと仰るのですか?では、実際に見ていて下さい」


 小枝はそう口にすると、さきほど作ったばかりの装置を異相空間から取り出した。


 突然、虚空から現れた装置と、その構造、そして出来映えに、ダニエルたちは目が飛び出すかと思えるほどに驚くのだが、それは序の口に過ぎず……。次の光景を見たダニエルたちは、目ではなく、魂が飛び出すのではないかと思えるほどに驚嘆した。いや、むしろ、一周回って、理解出来なかった、と表現すべきか。


「ここに薬草を入れます。それで、このハンドルを回します」ギコギコ「はい、傷薬のできあがりです」


「「「……は?」」」


「実に不思議な効果ですが……この町の周辺にある薬草を、最大限の効果が出るように工夫して傷薬を作ると、手足が復元できるほどのすさまじい効果を持った回復薬が作れるようです。先ほど、満身創痍で死にそうになっていた冒険者の方がいたので、試しに振りかけたのですが……元通りに治ってしまいまして驚きましたよ」


「「「…………」」」


「まぁ、それはどうでもいいことです。次にこちらの薬草を同じ装置に入れてハンドルを回しますと」ギコギコ「はい、解毒薬のできあがりです」


「「「…………」」」


「これまた不思議な効果があって驚いているのですが、この辺の解毒草を使うと、毒なら何でも中和できる医学を無視した超解毒薬ができるようです。毒虫に噛まれたりですとか、毒草を触ったりですとか……あるいは二日酔いですらも、一瞬で治るみたいですよ?さきほど道ばたに転がっていた酔っ払いの方に飲ませたところ、たいそう喜んで仕事に向かったようですから」


「「「…………」」」


「そんな感じで、この装置を使えば、ただハンドルを回すだけで、素晴らしい効能を持ったお薬が出来るのです。私は、これらの薬を——冒険者ギルドで()()で配ってしまおうかと考えています。……商店や商業ギルドからの文句がある?知りませんね。力で押さえつけるなら撥ね除けるだけですので。資金で圧力を掛ける?なら、この町の金融を麻痺させて差し上げましょう。……そう、この万能薬(エリクシール)を使って」


「「「   」」」


「……あの、皆さん?私の話、聞いてますか?(装置はあと9種類ほど残っているのですが……)」


「「「   」」」ちーん


 完全にブレスベルゲンの商業を潰すつもりで装置の説明をしていた小枝の話を聞いている内に、ギルド職員たちからの反応はすっかりと無くなってしまった。どうやら小枝の説明があまりに異次元過ぎる話だったので、職員たちの頭が彼女の説明を理解することを拒否してしまったようである。あるいは、どこまでが本当で、どこからが盛った話なのか、見当が付けられず、混乱してしまった可能性も否定はできないが。


 そんな彼らに対して、小枝は更なる一撃をお見舞いする。


「タダで配ると赤字になるのではないかと思われますよね?しかも、先ほど、私はここで、現在の倍額の報奨金を払って薬草を集めると言いましたから、尚更だと思います。……しかし、そうではないのです。よく考えてみて下さい皆さん。今まで高いお金を出してお薬を買わなければならなかったのに、それがタダで手に入るのですよ?つまりはそれは、冒険者さんたちの生存確率が上がると言うことです。そうなると、ギルドに入ってくる手数料や依頼料は、これまでの比では無い額で増えるはず。それに比べて、薬草採取の報奨金は、二束三文が四束六文になったところで、ほぼ無いも同然です。試算では、今後10年間にギルドが得られる利益は、80倍程度にまで膨れ上がると予想されます。もちろん、薬草分の出費を含めた純利益が、です。このお薬はギルドの広告、そう広告なのです!」


 そう言いながらも、小枝は次々と薬を作り続け……。それを別の機械で作った薄い紙に包んで、ギルド職員たちに1人1人渡して回った。実際に手に取って確かめるか、あるいは口に含んで確認して欲しい……。彼女の行為には、そんな思いが込められていたようである。


小枝殿からコルの気配が……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 54/54 ・インフレの暴力がギルドに襲いかかるッ!! ・まともな人だと既存利益とか色々面倒な事を考える所が、殺意マシマシだとこうなるのですねw [気になる点] 謎のギコギコマシンは超…
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