18日目午後-08
食事シーンじゃが、閲覧注意なのじゃ。
じゅわわぁぁぁ……
焚き火の中に置かれた丸い鉄塊の上で、肉や野菜が熱に浮かされて踊る。この世界には、バーベキュー用の網など存在せず、また、皆の前で網を作るわけにもいかなかったので、小枝は異相空間から鉄の球体を取り出して、それを網の代わりにしてバーベキューをしようと考えたのだ。
どこからともなく現れた、重さ何トンになるかも分からない大きな鉄球を前にした2領主や兵士たちは、最早、喋る言葉どころか、思考すらも停止していたようである。それほどまでにブレスベルゲンの常識(?)は非常識極まりないものだったのだ。
……そう。皆が混乱して頭が真っ白になっている中、アルティシアたちは、ごく普通に——、
「美味しい!」
「美味しいですね」
[うまい!]
「悪くないわね(見られてるのがすっごく気になるけど……)」
——バーベキューを行っていたのである。ちなみに、小枝以外は普通に仮面を外して食事を摂っていたりする。
「アームストロング様と、メアハート様も如何ですか?コエダ様が作るソースは、とても美味しいのですよ?」
唖然として固まる2領主に対し、アルティシアはバーベキューへの参加を呼びかけた。そこに他意はない。行軍してここまでやってきたばかりのために、未だ昼食を摂っていないだろう2人の事を慮っての発言である。
しかし、対する2領主たちに、アルティシアのそんな考えが伝わるわけもなかった。理由は2つ。前述の通り、彼らの思考が大混乱状態にあったこと、そして、貴族ゆえにアルティシアの発言の副音声を考えてしまったことが原因だった。……圧倒的な力を見せつけることで、自分たちの戦力を削ごうとしているのではないか。いや、むしろ、ブレスベルゲンに逆らえば、次にその灼熱の鉄塊の上で踊る目に遭うのは自分たちだと暗に言っているのではないか……。そんなネガティブな考えばかりが、2領主の頭の中で次々に浮かび上がってくる。
ただ、現状、アルティシアからの申し入れを断ったり無視したりするというのは、悪手でしかないことは確かだったので、2領主たちはバーベキューへと参加することにしたようだ。そして、その旨を、アルティシアへと伝えようとした——そんな時のことである。
ドドドドド……!
魔物たちの群れの方から外れて、1体のGBBが走ってくる。仲間が焼かれて食べられている光景に気付いたのか、あるいは、単に"レール"を外れただけなのか……。
ダンプトラックよりも大きなGBBが、猛烈な速度で迫ってくる様子を前に、2領主だけでなく、兵士たちも皆、恐怖の色を顔に浮かべた。全力疾走で走っているGBBは、もはや質量兵器。その身体の硬さも相まって、GBBの討伐までに多数の死者が出るのは明らかだったのだ。
兵士たちがいた場所からでは、スタンピード(?)を起こした魔物たちの姿は直接見られなかったものの、魔物たちの嗅覚が反応する位置でGBBの肉を食べたことが、GBBを呼び寄せた原因だったのではないか……。そんな可能性に気付いた者たちが、恨めしそうな視線をブレスベルゲン一行に向けていると——、
「あ、私がやりますね?先ほどはノーチェちゃんに任せきりでしたので」
——アルティシアはそんな発言を口にして、食器を持ったまま、GBBに目を向けた。その瞬間——、
ブヒィッ——ズドォォォォン!!
——GBBは風船のように弾けた。いや、それでは説明不足なので、より詳しく説明すると、GBBは、まるで屠殺される瞬間の豚のような甲高い悲鳴を上げながら、周囲に肉塊を飛び散らせつつ、真っ赤な霧を作るかのように血液を霧散させて、体内からはじけ飛んでしまったのだ。それも、GBBがいた場所を中心にしておよそ20mほどのクレーターを地面に穿ちながら。
「あー、頭だけ飛ばして持ち帰ろうと思ったのに、ちょっと力が入り過ぎちゃったみたいです。まだまだ修練が足りませんね」
そう言って、再び食事に戻るアルティシア。その他、ノーチェや小枝も、特に変わった様子なく食事を続けていたわけだが……。流石に、2領主たちや兵士たちの方は、平然としていられるほど心に余裕はなかったようである。
彼らは声にならない悲鳴を上げると、武器や装備を放り出して、一目散にその場から走り去って行った。屠殺寸前の豚に、もしも逃げる機会があるなら、おそらく彼らと似たような声を上げながら、同じように逃げ出して行くに違いない。
「あれ?皆さん、急にどうして……」
その光景を前に、首を傾げるアルティシア。どうやら彼女は——いや、彼女とノーチェ、それに小枝には、2領主と兵士たちが逃げ出した理由を理解出来なかったようである。
ただ1人——、
「(そりゃそうでしょ……あ、この肉、美味しい)」
——グレーテルだけを除いて。
思いのほか、良く書けたと思うのじゃ。




