17日目午後-26
姉から厳しい内容の指摘を向けられた小枝は、実のところ、その指摘がいつかは飛んでくるだろうとを予想していたようである。小枝もまた、これまでに幾度となく、自分がどこまでこの世界の事柄に介入すべきなのか悩んでいたのだ。
ゆえに、小枝は悩むことなく回答を返す。
「ここ数日の間に、皆さんが立て続けに傷ついてしまったのは、とても悲しい事です。私としてもこのような展開になってしまうことは残念でなりません。ですが、今回のような事件に対し、別世界からの来訪者である私は、積極的に関与すべきではないと思うのです。もしもいつか私たちがいなくなったとき、皆さんは自力で生きていかなくてはならないからです」
「……皆が傷つくのは仕方がない、と?」
「生きている以上、避けられない事だと考えます。そこに私たちが手を差し伸べてしまえば、それこそいつか、皆さんの生きていこうとする強さを奪ってしまう事にもなりかねません。ですから、私が今できることは、皆さんが自力で事態に対処出来るギリギリまで傍観して、どうにもならなくなったときに手を差し伸べる事だけ……そう考えています。その考えが、例え無責任だとか、力の持ち腐れだとかと言われたとしても」
ガーディアンとしての力を行使して介入しすぎれば、皆が怪我をする可能性はかなり小さくなるはずである。しかしそれは、最早、"人間"という名のペットでしかないのではないか……。
だからといって、皆から距離を取るというのも小枝には出来ない事だった。既に、皆とは出会ってしまい、中には"友人"と呼べるような関係になってしまった者もいるのである。今さら、皆と距離を取るというのは、これまで友人というものを持てなかった小枝にとって、大きな苦痛を伴う選択肢だったのだ。
対するキラは、そんな意味合いを持つ小枝の発言を理解していたものの……。見過ごせない大きな急所にも気付いていたようだ。
「……国王にはブレスベルゲンの支援を取り付けてある。皆、才能があるから、私たちがいなくてもやっていける。心が痛むのは、皆も小枝も私も一瞬だけ。皆のことを考えるなら、私たちの方から皆と距離を取るというのが妥当」
皆は何もしなくとも生きていけるというのに、そこに無理矢理に理由付けして自分の居場所を作り、結果的に皆のことを傷付けているのは小枝なのではないか……。そんな副音声がキラの発言には含まれていた。
対する小枝も、その発言の意味をしっかりと理解していたらしく、その眉を顰める。
「つまり、私たちが人々の間で生活すれば、誰かが傷つくのは避けられない事だから、そうならないために皆と距離を取るべきだと仰るのですね?……私たちが、日本でも山奥に潜むように生活を送ってきたのもそのせいだと」
その歯に衣着せぬ小枝の物言いに、キラは単純にYesでもNoでもない返答を口にした。
「……カイネとアンジェラたちと一緒に生活するのは楽しい。私自身も、あの娘たちや、他の人たちと離れたくないと思っている。でも、状況はいま言ったとおり、人々の間に私たちが存在することを許してくれない。私たちがここにいるだけで、皆が傷つくのはこの数日の出来事から明らか。ならどうすればいい?どうすればみんな傷つかなくて済む?小枝にその答えを聞きたい」
キラには、皆から距離を取るべきだと主張を推進するつもりはなかったのである。彼女も小枝と同じく、皆と一緒にいたいと考えていたのだ。
しかしキラには、最適と言える答えを見つける事が出来なかった。ゆえに、彼女は、小枝と相談して、最適な答えとは何なのかを模索したかったのだ。
それでようやくキラの言いたいことが小枝にも伝わったのか……。小枝は険しい表情を一転させて、大きく溜息を吐いた。
「もう、姉様ったら、不器用すぎます」
「……分かっている」
自身の言葉を否定しないキラの反応を見て、小枝は安堵の表情を見せると、彼女はかねてから考えていた自分なりの考えを姉に対し打ち明けたのである。
ね、眠いのじゃ……もうダメかも知れぬ……。




