17日目午後-15
少し時間は遡って、アイテムボックスが破壊されるよりも少し前の時間に移る。場面は、繁華街を走る奴隷商の馬車の中。そこには、手持ちの現金だけで罰金を支払うことが出来ず、奴隷商に売り渡されてしまったクレアたちの姿があった。
彼女たちが乗った馬車には、他にも多くの人々が乗せられていたようである。中には本物の犯罪者もいたものの、大半はクレアたちと同じような境遇の者たちで……。一部には、クレアたちの近くを歩いていたという理由だけで捕まった者たちすらいたようである。
その中で、クレアは、ボロボロの布きれのような服を着せられ、兄のジャック、ミハイルに挟まれる形で、体育座りをしながら俯いていた。その首には簡単に取り外すことの出来なさそうな頑丈な見た目の首輪があって、誰の目から見ても奴隷だというのは明白だった。
そんな彼女たちの表情は、華々しい町の光景とは裏腹に、町の路地に出来る影のごとく一様に暗かった。とはいえ、彼女たちもまた、自分たちの身の安全を心配していたわけではない。
「……アルティシア様、怒るよね……」
「事情は汲んでくれると思うが……」
「問題はこれからどうなるかだよな……」
3人とも、もうしばらくすると、小枝がブレスベルゲンから自分たちの事を救出しに来るだろうと考えたのだが、そんな小枝——いや正確にはアルティシアが、自分たちの逮捕理由聞いたときにどんな反応を見せるのか、気が気でならなかったのだ。
「あんな憲兵隊なんて、1人残らず滅びちゃえば良いって思うけど……」
「本当に滅びるかも知れないって思うとなぁ……」
「洒落にならないのが怖いよな……。町の人たちに犠牲者が出なきゃ良いんだが……」
クレアたちも、アルティシアが王城で怒り狂って多くの人々を手に掛けた、という話を聞いていた。ゆえに、今回も彼女が怒り狂って、憲兵隊を全滅させるのではないかと考えていたのである。そう考える3人にとって、アルティシアがどんな人物に思えていたのかは、敢えて言うまでもないだろう。
そんなパーティー3人の会話は、それほど大きな声ではなかったものの——、
「おい!私語を止めろ!」
——御者席にいた見張りの男に聞かれてしまったらしく、クレアたちに向かって怒声が飛んでくる。
その上から目線の命令に対して、クレアとしては抗議の声を上げたかったようだが、彼女はグッと堪えることにしたようだ。というのも、今、彼女たちの身柄は奴隷商の手の中にあって、素行が悪ければどんな酷い扱いを受けるか分からなかったからである。せめて小枝たちが助けに来てくれるまでの辛抱……。クレアは悔しそうに溜息を吐いた。
「あーあ。コエダちゃん、助けに来てくれないかなー」
辛抱すると思いつつも、クレアが見張りの男にも聞こえるような声でそう口にした、そのときのことだった。
ズドォォォォン!!
馬車の外、より具体的には町のどこか遠くの方から、爆発音のような音が聞こえてくる。それとほぼ同時に——
バキバキッ!!
——突然、何かが折れるような音が、クレアの足下から聞こえたかと思うと——、
ガタンッ!!
——と馬車が傾き、終いには——、
ドガシャッ!!
——強烈な衝撃に襲われて、クレアたちが載っていた檻付きの馬車の荷台はバラバラに壊れてしまったのである。
その衝撃の中で、怪我人が出ないわけがなかった。死人こそいなかったものの、少なくない者たちが、壁や床などに身体を打ち付け、打撲を負ってしまう。
クレアたちも身体を強打しそうになるものの、彼女たちはDランクの冒険者。冒険者を始めたばかりの者たちとは異なり、中堅と言える経験を積んできたこともあって、馬車に衝撃が走るギリギリのところで身構えたおかげで、どうにか事なきを得ることに成功する。
「ちょっと何なのよ……」
「どう考えても事故だろ……」
「おい、今のうちに逃げ——」
ジャックが逃走を提案しようとしたときだった。壊れた馬車の隙間から、中へと手が差し入れられた。
その人物は、クレアたちが知っている顔だった。そう、彼女たちのことを——、
「助けに来ました。さぁ、早く逃げましょう」
——チームβの暗殺者たちが助けに来たのだ。




