17日目午後-06
「力……力ですか……。むしろ私は聞きたいです。今の私に必要な物は何なのか。力なのか、知識なのか、それとも、それ以外の何かなのか……」
アルティシアは、スミスの問いかけに、肩を落としながら返答した。そんな彼女としては、どんな力を得たとしても、小枝の隣に立っても良いと思える自信には繋がらないと考えていたらしい。
そう、彼女は内心で、ある程度、答えが出ていたのである。彼女が欲していたのは、"力"ではなく"自信"。小枝の隣に立っても恥ずかしくないと思えるような"自信"が今の自分には無いと分かっていたのだ。
ゆえに問題は、その自信をどうすれば獲得出来るのか。物理的な力を得ても、思考的な力を得ても、権力的な力を得ても、そのすべてを持っている小枝の前では無意味同然。ならどうやって"自信"を得れば良いというのか、それがアルティシアの悩みの根源だった。
対するスミスは、アルティシアの悩みなど取るに足らない、といった様子で、彼女に対してこう言った。
「では問おう。もしも力を欲するとして、其方はその力を何のために使いたいと思う?」
「当然、コエダ様のためです」
アルティシアは迷うことなく即答する。迷うことなど何一つなかったらしい。
するとスミスは、続けてこう問いかけた。
「では、なぜコエダちゃんのために、力を欲する?」
その瞬間、アルティシアが固まる。何か良くないものを飲み込んでしまったかのように口を閉ざした彼女は、顔を赤くしたり、恍惚な表情を浮かべたり、さらにはブンブンと首を振って表情を誤魔化したり……。ややしばらく悩んだ後、スミスの問いかけに返答した。ただし、真面目な表情で。
「コエダ様にはご恩があります。そしてコエダ様は、私にとって初めてお友達になってくれた方です。でも私が感じるこのご恩は、今の私では返すことが出来ません。むしろ、どうやって返せば良いのかすら分からないのです。それが、"力"を持つことで解決するのかどうかも含めて……」
そんな言葉を真っ直ぐに答えるアルティシアの視線を、スミスは逃げることなく真っ正面から受け止めると、更に質問を重ねた。
「ふむ。では質問の視点を変えよう。今のコエダちゃんに欠けておるものは何だと思う?」
「私へのあ——」
「……あ?」
「ゲホッ!ゲホッ!な、何でもありません!えっと……そうですね……。力は足りていると思います。今朝も、大きなドラゴンさんのことを片手で持ち上げていましたし……」
「ほうほう!」
「権力も問題無いでしょう。明日辺り、ハイリゲナート王国の冒険者ギルドは滅びているはずなので」
「さすがはコエダちゃんだな!」
「お金についても、たった1日で国家予算並みのお金を用意してしまうので、まったく困っていないはずです」
「まぁ、そうであろうな」
「そうなると……もう、私には分かりません。一体何が足りないというのでしょう?お料理も美味しくて、優れた仲間に囲まれて、好きな場所に好きなときに行ける……あぁ、そうでした。強いて言うなら、妹の方が見つからないくらいでしょうか。でも、ブレスベルゲンに来ていない以上、妹の方を探すというのは、私の力でどうにか出来るものでもありませんし……」
小枝の事を説明している内に、アルティシアは段々と悲しい気分になってきていた。考えれば考えるほど小枝が完璧すぎて、自分の居場所が小枝の隣に無いとしか思えなかったのだ。
一方、スミスは、この時点においても、不敵な笑みを浮かべていたようである。その表情を見たアルティシアは、スミスが何か答えを知っていると直感的に感じ取り、彼に向かって思わず問いかけた。
「スミスさん……まさか、何かコエダ様に足りないものがあることを見つけたのですか?!」
対するスミスの笑みは、いよいよ怪しげなものへと変わっていく。彼は、くっくっく、と人の悪そうな笑みを浮かべると、自身の考えをアルティシアに話し始めた。
爺「ふむ。では質問の視点を変えよう。今のコエダちゃんに欠けておるものは何だと思う?」
ア「私へのあ——アップルタルトが足りていません!」
エ「……?」むしゃむしゃ




