17日目午後-01
その後、移住の準備があるというテンソルたちと一旦別れた小枝たちは、周辺の山々に暮らすドラゴンたちを説得(?)しては紅玉を回収して回り、合計500kgもの紅玉の回収に成功する。ちなみに、紅玉1個辺りの市場価値は、およそ5億ゴールドと言われている。1個の重さが平均して2.5kg程度なので、小枝たちが持つ紅玉の合計金額は、単純計算でおよそ——、
「い、一千億ゴールド……」
[金貨100000……たくさん!]
「は、はは……」
——という小国の国家予算にも匹敵する額になっていた。
ちなみに、ドラゴンたちのことを説得(?)したのは、最初のテンソルたちを除いて、アルティシアとノーチェの2人である。小枝は、今回の紅玉集めに際し、2人に"力"の使い方を教えるつもりでいて、実際にそれを実践して学んで貰った、というわけだ。なお、グレーテルは、改良型の魔法の使い方には慣れているので、今回のレクチャーには参加していない。
小枝が教えた力の使い方の要点は3つだけ。力の行使を躊躇しないこと。気を抜かないこと。可能な限り相手を傷付けないこと。この3つだ。
自分の身を守りつつ、相手を殺害以外の方法で無力化するという、圧倒的な力の持ち主である小枝らしい考え方だったようだが、攻撃を躊躇しないで、なおかつ相手を傷付けないようにするというのは、アルティシアとノーチェには理解しづらいことだったらしく、彼女たちの教材になった一部のドラゴンたちは、理不尽な暴力の標的にされて痛い目に遭っていたようだ。まぁ、そこは最強種族。死者が出るほどではなかったようだが。
そんなこんなで、一千億ゴールド相当の紅玉が手に入ったので、小枝たちは作戦を次のステップに進めることにしたようだ。即ち換金、である。
そしてこのステップこそが、金策を進める上での最大の壁になると小枝は考えていたようである。太陽を真上に見ながら、ハイリゲナート王国の空を飛行しつつ、機動装甲の姿の小枝が口を開く。
『……ギルドの支部が保有する現金は、多かれ少なかれ10億ゴールド程度だと言われています。本部まで行けばまた事情は異なると思いますが、1つの町で売れる紅玉はおそらく1つから2つ。つまり、色々な場所を飛び回って、紅玉を売りさばかなくてはなりません。それも今日中に』
そんな小枝の発言にグレーテルが首を傾げた。
「どういうこと?そりゃ、1箇所のギルドだけで一千億ゴールドもの紅玉を換金するとなったら、色々と問題になりそうだけど、10億くらいだったら、現金が用意出来るまで何日か待って取りに行けば問題無いんじゃない?」
『いえ、それではダメなのです。理由は2つ。色々な場所のギルドで売りさばき、なおかつ、日数を跨いで買い取って貰うとなると、買い取り手続き中という情報が本部に飛んでいくはずです。そうなると、予想よりも早く市場価値が下がる可能性が出てくるというのが理由の1つ目。そして、冒険者ギルド本部から目を付けられる可能性が生じるというのが理由の2つ目です。警戒されると買い取って貰えなくなる可能性があります』
そう語る小枝に対し、グレーテルが相づちを打とうとすると、その前にアルティシアが口を挟んだ。
「コエダ様は……ブレスベルゲンのギルドを切り捨てて、真っ先に撤退を決めた冒険者ギルド本部に報復しようと考えられているのです」
「えっ?」
「冒険者ギルドから大量のゴールドを一度に引き出すことが出来れば、冒険者ギルドの中には動かせる資金が無くなります。もちろん、紅玉は手元にあるのでそれを売りさばけば痛みは無いかのように思われるかも知れませんが——」
「……冒険者ギルドだけでなく、商人ギルドやその他の商会なんかにも同時に売り込んで、さっきコエダちゃんが言ってた市場価値ってやつを下げる、ってこと?」
「そうです。それも、冒険者ギルドに売る金額だけ現状の市場価格通りで、商人ギルドや商会にはもっと安い金額で売る気ではないかと思います……」
「……滅びるわね……冒険者ギルド……」
買い取り時は"超"が付くほどの高額。数日後に転売するときにはタダ同然。その文言だけを切り取れば、まるで詐欺や犯罪のように見えるかも知れないが、それが市場原理というもの。小枝はハイリゲナート王国の冒険者ギルドから資金を蒸発させる事で、ギルドを合法的に潰そうとしていたのだ。
そんな小枝の計画を聞いたグレーテルは思った。これが——、
「力の使い方、なのね……」
——と。




