2日目-27
ブゥン……
「姉様!いま帰りました!」
小枝はクレアたちと別れた後、ブレスベルゲンの路地裏へと消えて……。そして現代日本へと戻ってきた。
彼女が転移を行うと、そこではキラが待ち構えていたようである。彼女は虚空から現れた小枝に気付くと、眠そうな目を少しだけ見開いて——、
「……ダウンロード開始」
——早速、小枝が見た景色の転送を始めて——、
「……小枝……」
——妹に向かって、哀れむような視線を向けた。
キラのその表情には、非難とも、哀れみとも、あるいは呆れとも言えるような複雑な色が浮かんでいたようである。それを感じ取った小枝は、思わず視線を泳がせながら、言い訳を口にした。
「い、いえ、ギルドと喧嘩になったのは、その……事故です!」
「……事故には見えない……」
「で、でも、大団円で終わったではないですか?!」
「……あれは大団円じゃなくて、相手が全滅しただけ」
「うぅ……」
「…………?!オートモザイク発動」
「あっ……料理を見られたのですね」
「…………」こくり
「その点については感謝して貰いたいです。お土産としてあの料理を持ってきた方がよかt」
「……しゃらっぷ」
「あ、はい……」
そう言いつつも、小枝は異相空間から、とある料理を取りだした。とはいえ、GTMN料理でも、BUG料理でもない。
「これなら食べられますよね?フルーツの盛り合わせです」
「……ぐっじょぶ」
ツタのような植物で編み込まれたバスケットの中には、現代世界では見たことのない様々な種類の果実が入っていた。イチゴくらいの大きさの黄色い果実。見た目はサクランボにしか見えない赤い果実。そしてプラムのような紫色の果実などなど……。それらはGTMN料理屋の|ヘルズキッチン《Hell's Kitchen》——もとい『Health Kitchen』で持ち帰りの品として購入したもので……。小枝がお土産を買いたいというと、リンカーンが気前よく代金を支払ったようである。
「いますぐに食べます?」
「……まずは分析する。構成する元素から、タンパク質、細胞のDNAの隅々まで……」
「姉様ならそう仰ると思っていました。ですが、早く食べた方が良いですよ?その黄色い果実は、時間が経つとすごく酸っぱくなって、赤い果実は辛くなって、紫色の果実は——」
「……爆発する?」
「よく分かりましたね?まぁ、お姉様なら、爆発程度、どうと言うことはないと思いますけどね。ですが……本当に不思議ですよね……」
見た目はただの果実だというのに、どれ一つとして普通の果実はなく……。バスケットに載ったすべての果実に、不思議な特徴があったのである。それらは現世界では見ることの出来ない異世界特有のものであり、小枝にしても、キラにしても、興味が尽きなかったようである。
「……やはりDNAの分析が必要。あの世界だけにある"魔法"という現象も気になる。次に行く時は、何か動物を捕まえてきてほしい」
「ただの動物でしたら魔法が使えるかどうか分かりませんよ?」
「……使えなくても、とりあえず可愛ければ何でも良い」
「……可愛い魔物なんていなかったように思いますけどね……」
そう言いつつ、姉は異世界についての研究がしたいのではないのか、と小枝はふと疑問に思ったようだが……。元々何を考えているのか分からない姉だったためか、小枝はすぐに悩むだけ無駄だと結論づけたようである。
「……あっ!」
「……何?」
「あのプテラノドンの名前を調べてくるのを忘れました」
「……もうワイバーンでいい」
「確かに名前などさして重要ではありませんけど、ワイバーンじゃなくて、スズメとか可愛い名前だったらどうします?」
「……ワイバーンみたいな強そうな動物を、その辺にいるようなスズメと一緒にしてはいけない」
「確かに……」
結果、小枝は、異世界で見たプテラノドンの仮称として"ワイバーン"と呼ぶことにしたようである。なお、小枝が見たプテラノドンはワイバーンではないのだが……。彼女がその事実を知るのは、まだしばらく先のことである。……そしてワイバーンがどんな魔物なのかも。
◇
こうして小枝は、異世界生活2日目を、無事に(?)こなして、自宅へと戻ってきたのである。しかし、彼女が自宅にいる時間は極めて短く……。すぐに再び異世界へと旅立つことになる。
今は日本時間で朝の5時頃。もう1時間もすれば、異世界では夜の0時頃だ。
昨日は、特に何も考えなく朝の7時に転移した小枝は、6時間あった時差を失念していて、深夜に到着することになったのである。そのため彼女は、次回の転移の際、異世界が朝方になるころに飛ぼう、と考えていたのだが……。この時点で彼女は、その考えを改めていたようである。
というのも、彼女には気になることがあったからだ。
「(あの女の子……今日も狙われるのでしょうか?)」
黒い服の3人組に襲われた白い髪の少女。小枝はなぜか、そんな彼女の事が、気になって仕方がなかったのだ。