2日目-25
「…………」ゴゴゴゴゴ……
小枝は憤っていた。それはもう、殺意の衝動を小枝の形したかのように憤っていた。
「(……騎士団に皆さんを運んでいたせいで、屋台から食べ物が無くなってしまいました……。姉様にお土産を持って帰ると言ったのに、このままでは手ぶらで帰ることになりそうです……)」ゴゴゴゴゴ……
そう、小枝は、姉のキラに土産を購入できない事を知って憤っていたのだ。今日1日働いて、手に入れたゴールドは、およそ20万ゴールド。Fランクとして1日に稼ぐ金額としては、異常としか言いようのない金額だったものの、それを使う先が無ければ、ただの持ち腐れ。文鎮と大差は無かったのだ。
「(宿に泊まるわけでもありませんし、お酒を飲むわけでもありません。それに武具にも、アクセサリーにも興味はありませし……。正直、お金を使う先が、税金を払うくらいしか無いんですよね……)」
その事実が、小枝の怒りを加速させていた。……自分は税金を払うために、金を稼いでいるのか。にも関わらず、その税金が投入されている冒険者ギルドでは、何故あんなにも粗末な扱いを受けなければならないのか……。
「…………」ビキビキ
「「「ひぃっ?!」」」
あまりの怒りが周囲に漏れ出したのか、小枝の周囲にいた者たちが必死に彼女から距離を取る。
その反応に気付いて、小枝もようやく我を取り戻したのか——、
「……はぁ……これからも、このままやっていけるのでしょうか……」
——まるで魂が抜けるような勢いで、深く溜息を吐くのであった。
と、そんな時。
「あっ!コエダちゃん、みっけ!」
小枝が発する異様な気配に引きつけられたのか、聞き覚えのある声が飛んでくる。
「コエダちゃん!いま時間、あるか?」
最初の女性の声とは別に、男の声も飛んできた。
さらには——、
「さっきの立ち振る舞い、すごかったぜ?」
「あまりの殺気に逃げ出しちまったぜ!」
——そんな声も聞こえてきた。
「あっ……アメリカの大統領さんと、ゾンビゲーのヒロインさん、それに撃墜王さんと、切り裂く人まで……」
「「「「えっ?」」」」
「あ、いえ、皆さんの名前を覚えるのに、記憶の関連付けをしておりまして……。それで、どうかされたのですか?皆さん」
小枝に声を掛けてきたのは、商人のリンカーンと、冒険者のクレア、ミハイル、ジャックの合計4人だった。小枝は4人の名前をかなり特殊な方法で覚えているようだが、まぁ、そのことについては個人の自由なので置いておくとしよう。
それはそうと、小枝が問いかけるとリンカーンが返答する。
「この前、コエダちゃんを食事に誘ったらフラれただろ?だから、コエダちゃんを説得するために、強力な助っ人を用意したんだ」
「あの……フッた覚えは無いですよ?私と歳の近い娘さんがいらっしゃると伺ったので、彼女の方を優先すべきだと答えただけです」
その言葉を聞いて、クレアが反応した。
「あれ?リンカーンさんって、私たちと同い年くらいのお子さんっていましたっけ?」
「「「ん?クレアと同い年?」」」
「えっ?コエダちゃんって、私と同じ18歳だよ?」
その瞬間、空気が凍り付く。
「「「え゛っ……」」」
リンカーン、ミハイル、そしてジャックの3人と、近くを歩いていた町の人々が、一斉にクレアの発言に反応して、唖然とした表情を浮かべたのだ。その表情は無言の内に語っていた。……小枝が18歳には見えない、と。
「……リンカーンさん?それにミハイルさんとジャックさんも〜。どうしてそのように驚いたような表情を浮かべられているのですか〜?」ニコォ
「「「?!」」」
目が笑っていない。殺意さえ感じる……。小枝が浮かべた柔らかな笑み(?)を前に、男たちは命の危険を感じた。……ここで返答を間違えれば、俺たちは死ぬだろう……。皆、自分たちの命が小枝の手の上にある事を本能的に理解した。
しかも、彼らは、冒険者ギルド前で、大量の騎士と冒険者たちを相手に立ち回った小枝の姿を見ていたのである。それを思い返す限り、彼らに"生きて帰る"という未来は想像できなかったようだ。3人とも、遺書の在処を思い出していたようである。
まぁ、それも、小枝が本当に殺る気だったら、の話だが。
「……もちろん、今日の食事は奢りですよね?」
「「「えっ……?」」」
「奢り、ですよね?」ゴゴゴゴゴ
「「「も、もちろんデス!」」」
「えぇ、そうですよねー。そうだと思っていました。ごちそうさまです!」にっこり
今度こそ正真正銘の笑みを見せる小枝。その瞬間、3人の男たちと、町の人々がホッと溜息を吐いたのは、何か首を絞められるような感覚から解放されたためか。
その後、小枝は、リンカーンおすすめの食事処へと招待されることになったのだが……。その道中、目をキラキラとさせたクレアが、男性の御し方について、小枝を質問攻めにしていたのは、誰か御したい人物がいたからか。……なお、同行者の中に2人ほど、死んだ魚のような目をしていた男性がいたようだが、その詳しい理由は不明である。




