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11日目午後-08

 夜通しでグレーテルたちの作業が続く。カイネとアンジェラは、キラから寝るように言われて既に自室に戻っており、風呂から上がってきたノーチェも、しばらくはグレーテルの作業を観察していたようだが、眠気に勝てなくなったのか、ソファーで船を漕ぎ始めていた。なので小枝がノーチェのことを部屋に運んでいき……。結果、その場に残ったのは、グレーテルとアルティシア、そして小枝の3人だけとなっていた。


「アルティシアちゃんも、お手紙の準備が終わったのなら、寝たほうが良いと思います」


「見ていたら……ダメですか?」


「ダメとは言いません。見ていても結構ですが……徹夜はお肌に響くかも知れませんよ?」


「コエダちゃん、私も——」


「グレーテルさんも寝ます?えぇ、別に構いませんが——」


「ごめん、冗談」


 と、短く答えた後で作業へと戻るグレーテル。そんな彼女が本当に眠たかったのかは定かでないが、その視線は真剣そのもので……。彼女は鍋に入った液体を、大きなヘラで丁寧にかき混ぜ続けていたようだ。


 そんなグレーテルがやっていたことは、魔女が作る秘薬づくり、と言えなくもない作業だった。いかにもといった様子の、側面が丸く膨らんだ鍋で、剥いた木の根やら、アルコール度数の高い酒やら、様々なものを入れて、それをかき混ぜていた。


 その様子を見て、小枝が満足げに呟く。


「やはり様になりますね……」


「えっ?なんで?」


「魔女らしさが(ほとばし)っています」


「魔女らしさ……?」


 リアル魔女のグレーテルが、"魔女らしさ"とは何かということに考えあぐねていると、アルティシアも口を開く。


「私もそう思います。特にその鍋が、良い感じの雰囲気を出しています」


「この鍋?コエダちゃんがくれたやつなんだけど……」


「なるほど、道理で……。ちなみにその鍔広の尖った帽子は?」


「髪の毛が入らないように必要だ、ってコエダちゃんがくれたやつよ?」


「では、もしかしてそのローブも……」


「あぁ、これは自宅から拾ってきたやつ。作業をするときはずっとこれを付けてたから、着けてないとしっくりこなくて……」


「……てっきりコエダ様がご用意したのかと思っていましたが、やっぱりグレーテル様は、正真正銘の魔女様なのですね……」


「えっ?」


「いえ、なんでもありません。すごく似合っています(えぇ、とても)」


 おとぎ話に出てくるような、絵に描いたような魔女らしい魔女のグレーテルに対して、生暖かい視線を向けるアルティシア。対するグレーテルは、おとぎ話についてあまり明るくなかったらしく、なぜアルティシアが嬉しそうなのか、理解出来なかったようだ。


 まぁ、それはさておき、グレーテルが何をしていたのかというと、もちろん料理を作っていたわけではない。魔女の森に自生するアカネの木(ルビアハイリゲニア:RH)の皮をアルコールに漬けて、マラリアの特効薬であるキニーネを抽出していたのだ。


 作業はそれほど難しいものではなく、RHの皮から薬効成分が抽出できたと思しき頃合いを見計らって、様々な成分が混じった抽出液に水酸化カリウム(小枝作)を混ぜて加熱し……。その内に白い結晶が出来上がるので、それだけを漉して取り出して、さらに加熱すると、200度弱の温度でキニーネだけが単離するのである。あとはそれを集めれば、マラリアの特効薬キニーネの完成だ。


 ……という作業を小枝、グレーテル、そして飛び入り参加のアルティシアが行っていたわけだが、作業はあまり芳しいものではなかった。


「抽出出来ないわけではないようですが、どうにも量が少ないようです。元々、キニーネがそれほど多く含まれていない種の木だったのでしょう」


 という小枝の言葉通り、ギルドが用意したアカネ科の木からは、キニーネをそれほど多くは抽出出来ず、ブルースワンプフィールドの人々全員を治せるほど、大量に確保するというのは困難だった。


 結果、険しい表情を浮かべていた小枝に対し、アルティシアが問いかける。


「どうされますか?ギルドに対して人海戦術で量産をお願いするというのが良いかと思うのですが……」


 すると小枝が険しい表情のまま返答する。


「最終的にはそうすべきだと思うのですが、今すぐに抽出作業をお願いすると、この地域からアカネ科の木が無くなってしまうような気がします。ほとんど抽出出来ないのですから、相応の人数分を確保しようとすると、大量の木が必要になるはずですので」


「確かに……」


「短時間の内に大量に伐採しないとか、畑を作ってアカネ科の木を育てるとか……。そういったルール作りが必要になるかと思います」


 小枝のその言葉に、アルティシアは頷くのだが……。彼女はブレスベルゲンの領主。ただ頷くだけでは終わらなかった。


「そうですね……分かりました。ではそういった法令を整備しようと思います」


「……そうでしたね。アルティシアちゃんなら、できるのでしたね」


「はい。逆に言えば、それしか出来ないとも言えますけれど」


 と言って苦笑するアルティシア。それから彼女は小枝と議論して、どういった方法でキニーネを量産して、どのようなルール作りが必要なのかを話し合ったようだ。


 その間、グレーテルは、話に首を挟まずに、ただひたすら鍋をかき混ぜて、1人キニーネをの抽出を進めていたようだが……。それでも彼女が嬉しそうだったのは、その血に刻まれた魔女としての本能(?)が影響していたから、なのかも知れない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 332/332 ・さすが魔女。 [気になる点] バックにすんごい人がついてる安心感よ。繊細で危険な事でも多少の無茶は効きそうですね。 [一言] ねるねるねるねる寝る寝る寝るね
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