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11日目午前-08

「……どうしてスミスさんが?」


 なし崩し的に朝食の参加者が増えていくことに忌避感があったのか、小枝はスミスを連れてきたグラウベルに対し、非難の色を込めてジト目を向けた。


 それに気付いたグラウベルが、申し訳なさそうに視線を泳がせていると——、


「グラウベルを責めないで欲しい。儂が頼み込んだのだ」


——スミス自身が事情を説明し始める。とは言っても、事情と言うほどには複雑では無く——、


「グラウベルの前で言うのもなんだが……騎士団の飯は不味い!」


——という端的なものだった。


「……申し訳ない」


「監督者たる者の立場を利用して、せめてコエダちゃんの半分くらいの飯の美味さにはならんのか?いや、半分の半分のそのまた半分でも良い。あれでは指揮が落ちても仕方ないぞ?アリスちゃんとかな」


「調理担当の連中には、努力するよう伝えているんですがね……。コエダちゃんの料理は、まるで秘密の魔法でも使っているかのように、まったく再現が出来ないんですよ。あと、アリスの場合は、凶暴なのが素です」


 というグラウベルの言葉に、今度は小枝が反応する。


「なるほど……つまりグラウベルさんは、私の料理のレシピを盗みに毎日いらっしゃっていると?」


「い、いや、そういうわけでは……」


「別に良いですよ?」


「そんな申し訳……えっ?」


「ですから、お料理の作り方をお教えしますよ?まぁ、知ったところで、真似られるかは分かりませんけれど……」


「本当か?!」


「ただし、騎士団の調理担当の方をここに直接連れてくるというのは無しです。グラウベルさんご自身が直接学んで持ち帰ってください」


「そ、そうか……そうだな……わかった」


「あぁ、それと、料理教室にはアルティシアちゃんもいますから、粗相の無いように」


「…………」


 その瞬間、グラウベルは黙り込んだ。領主に対して粗相の無いように料理を覚えることが、どれほどに高い難易度のタスクなのか想像したらしい。つまり——失敗は許されないのだろう、と。


「……見てるだけでも良いか?」


「えぇ、構いませんが……一緒に作って貰ってもまったく構いませんよ?」


「いや、粗相の無いように料理を作れる自信が無い……まったく無い」


 と言って、腹痛に耐えるかのような、暗い表情を浮かべるグラウベル。そんな彼の反応が面白かったのか——、


「くすっ……」


——当の領主は、小枝の横で終始笑みを浮かべていたようである。


  ◇


 そして朝食後。食事に参加した者たちの間で、グループが2つに分けられた。国王に対する報告書を作り上げるグループと、グレーテルの薬局開店に向けた準備を進めるグループである。具体的には、前者に小枝、アルティシア、グラウベル、スミス。あと残りすべてが後者である。


 結果——、


「な、なぜだ?!なぜこんなにもめんこい嬢ちゃんたちがいるというのに、何が悲しくてこんなむさい奴とグループを組んで行動せねばならん!」わなわな


——スミスは打ち震えた。……パタパタと黒い尻尾を振りながら愛想をまき散らす(?)ノーチェや、健気に朝食の片付けをするカイネやアンジェラたちが、すぐ目の前にいるというのに、なぜ自分はグラウベルと共に行動しなければならないのか、と。


「スミスさん、あんた容赦ないな……。そりゃこの歳になればおっさんと呼ばれても仕方ないと思うが、一応気にしてるんだから、出来ればオブラートに包んでもらえると助かるな……。それにあれだ。あんたも鏡を見てみると良い。鏡の中にいる男が可愛いお嬢さんたちと仲良くするんだぞ?犯罪の臭いがするとは思わないか?」


「……んあ?あぁ、すまんのう……最近、耳が遠くなって、よう聞こえんかったわい。何?鏡が必要?ほれ、水魔法で作った鏡だ。しかと見るが良い」ブゥン


「おいジジイ!表に出ろ!この際だ!白黒付けてやるぜ!」


「上等だ若造!嬢ちゃんたちを愛でる権利をお前ごときに奪われてたまるか!」


「あ、お2人とも?表に出たら2度と帰ってこなくて良いです」


「「……すみませんでした!」」ずさぁっ


 と、喧嘩を始めた2人を黙らせた後。小枝は早速、自分が属するグループの者たちに対し、話を切り出した。


「皆さん知っての通り、審問官さんについては解決の見通しが立ちました。よってこれから先は、失踪したというガイアスさんについて、どう報告するのかを検討しようと思います」


 小枝のその発言に、グラウベルが反応する。


「氏を探すのではないのか?」


「どんな顔をされているのかも分かりませんし、どこで失踪されたのかも分かりません。王都の方でも把握していないとすると、私たちが探したところでめぼしい情報は得られないのではないかと思うのです。なら、最初から無駄なことはせず、国王陛下が納得するような理由を考えた方が良いのではないでしょうか?もちろん、異論は認めますから、思った事があったら仰ってください」


 そう口にしながら、話し合いの参加者たちを一瞥する小枝だったが、特に反論が出ることも無く……。彼女の発言通り、ガイアスは最初からブレスベルゲンには来ておらず、情報は何も無いという方向で報告書を作成する流れになった。ただし、報告書に"情報は何も無い"などと適当な事は書けなかったので、ブレスベルゲンにガイアスが来ていないことを証明するために、それなりに多くの作業が必要になったようだが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 321/321 ・おいジジイなかなかやりますねw [気になる点] なるほど証拠捏造ですね。…絶対カオスの前触れですよコレw [一言] 自分の小説、実は海外でウケてた件。日本人の感性にに合…
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