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2日目-17

「依頼が終わったので、完了の手続きをしたいのですが……」


 農作物の収穫をするために、小枝が農家へと出発してから、およそ1時間後。彼女の姿は再びギルドの中にあった。


「「「?!」」」


「あの、誰か対応していただけませんか?」


 職員たちが皆、カウンターの奥に引っ込んでいたためか、小枝は怪訝そうな表情を浮かべる。


 この時、職員たちは、ギルドの奥の方で、"コエダ対策会議"なるものを開いていたのだが、まさか1時間たらずで話題の人物が帰ってくるとは思っていなかったのか、小枝に気付いた職員たちは、みな例外なく面食らっていたようだ。


 そんな彼女に対応したのは、小枝に対して2回目以降に対応した男性職員のダニエルだった。彼は驚きを隠せない様子で、小枝に対し確認する。


「も、もう終わったのですか?」


「はい。これが証拠です」


 そう言って、農園の依頼主のサインが書かれた依頼書をダニエルへと提出する小枝。そこには追記で、"今季の分すべての収穫が完了したので、追加5万ゴールドを払われたし”、などと書かれていた。どうやら小枝は農園で、人間アピールをするのを忘れていたようである。


「こ、これは確かに依頼者のサインです……ですが……しかし……このような理由で追加の報酬を支払うとなると、事実確認が必要となりまして……」


 受付のダニエルには、その場で首を縦に振れなかった。目的地である農家は、町から近いとは言え、移動だけでも数十分かかるのである。往復の時間を考えれば、実際に作業できる時間はおそらく数分ほど。その間に、追加の報酬を貰えるほどの活動が出来たとは思えなかったのだ。それも、今季の分——つまり農園の畑すべての収穫を終えるほどに……。


 ダニエルが考える限り、そんな無茶苦茶な速度で依頼を達成できるなど、依頼を出した農家のことを小枝が力で脅して無理矢理サインを書かせたくらいしか考えられなかった。先の依頼で小枝が大量に担いで持ってきた薬草の山についても同様である。30kgもの量を、たったの数時間で確保できるなど、本来物理的にも魔法的にもあり得ない事だったのだ。


 ゆえにダニエルは考える。


「(もしや、他の冒険者たちを無理矢理に力でねじ伏せて……薬草を回収させた?!)」


 そう考えた瞬間、彼の中にあった疑問の殆どが一気に解決した。小枝に力がある事は確実なので、それを使って非道なことをすれば、どんなことも短時間で出来るのでは無いか、と彼は思い至ったのだ。


 しかし、彼は、同時にこうも思う。


「(いやいやいや、カトリーヌの件もある。すぐに決めつけるのは拙いだろう……)」


 確率としては限りなくゼロに等しいが、小枝が自力でやったという可能性も否定はできないのではないか……。


 先のカトリーヌと同じ轍を踏むわけにはいかなかったダニエルは、結果としてこんな判断をすることにした。


「……依頼主の農家の方に事実確認をしてから、報酬をお支払いさせて頂きます。その際、合わせて、薬草の依頼についても報酬をお支払いいたします」


 もしも自分の考えが正しければ、事実確認中に小枝からの妨害が入るかも知れない……。ダニエルはこの時、最悪の事態を覚悟したようである。


 一方の小枝は、ダニエルが何を考えているのかなど、まったく気にしていなかったようだ。


「えぇ、すこしやり過ぎた感が否めないので、信じられないというのは理解しているつもりです。どうぞ、確認してみてください」


 そして小枝はニッコリと笑みを浮かべた。


 その表情を見て、ダニエルは思う。


「(自信がある?それとも本当に実力なのか?いやいや、まさかコレは脅しか?!)」


 (やま)しい様子が一切無い小枝を前に、ダニエルは内心で混乱した。小枝の一挙手一投足に何かメッセージが込められているのではないかと疑心暗鬼になっていたようである。


 彼がそんなことを考えていると、逆に小枝が質問した。


「その確認って、どのくらい時間が掛かるものなのですか?」


「えっ?あ、あぁ……1時間くらい掛かるはずです」


「そうですか。では……」


 そう口にした小枝は、後ろにあったFランクの掲示板まで歩いて行くと、そこにあった書類を持って、再びカウンターまで戻ってくる。そして彼女は手にした書類をダニエルへと渡し——、


「この依頼をこなしてきても良いですか?」


——と、そのまま受注を申し出た。



 そして小枝が去って行った後、"コエダ対策会議"が再開する。ただ、直前のものとは少し色が異なっていたようだ。


「……私が農家に行って状況の確認をしてくる」


 小枝が完了を報告した農家からの依頼について、ダニエル自身が行って確認してくることになったのだ。


「いいか?今から2時間。もしも私が戻ってこなかったら……そのときは後を頼む」


 農家に行ったが最後、自分は小枝によって妨害を受け、死んでしまうかも知れない……。彼は最悪の事態を考え、同僚たちにそう話す。


 そして同時に、彼はこうも言った。


「それとだ。私が戻ってくるギリギリまで待っていてくれ。その間、もしもあのコエダという者が来ても、どうにか時間を稼いで欲しいんだ。酷なことは分かっているが……そうだな。私が来るまで待っていろと伝えて貰えないか?そうすれば、あとは私が対応する」


 ダニエルのその言葉に対し、他の職員たちから返答は無かった。ただ他の者たちは、皆、怯えたような表情を浮かべていて……。早くダニエルに戻ってきて欲しい、とその目で語っていたようである。


 結果、ダニエルは急ぐことにした。彼はギルド職員になる前、A級の冒険者だったのである。ゆえに彼は、ギルドから出ると、常人では考えられないような速度で農家へと向かった。


 その際、彼は、決して小さくない胸騒ぎを感じていたようだが……。その出所がどこなのか、ギルドの同僚たちを大切に考えていた彼には理解出来なかったようだ。


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