10日目午前-01
ガイアス氏の一件について話を聞いた次の日の朝。
「ホント、お願い。コエダ様だけでもランクアップして?毎日獲得するポイントだけでも半端ないっていうのに、ずっとEランクはおかしい、って連絡が王都の本部から届いたのよ。……でも……多分断られるんでしょうね……」
「まぁ、Dなら」
「えっ……B?」
「…………」にこぉ
「じょ、冗談よ?冗談……」
今日も冒険者スマイル(?)を浮かべる小枝の姿が冒険者ギルドにあった。彼女は今日もカトリーヌからランクアップの催促を受けていたようだが、ようやくDランクに上がる決心をしたらしい。
「一応確認しますが、パーティーβの方々の方も、今はDランクなのですよね?」
「えぇ、ギルド最速記録よ?もうすこしでCランクになれそうな勢い」
「なら結構です。私が目立つようなことにならないのでしたら、特に問題はありません」
「……なるほど。βの人たちを代役に立てたのは、そういう理由もあったからなのね……。コエダ様らしいわ(まぁ、ポイントの上げ幅はダントツ1位だから、すでにもう目を付けられてるんだけど……)」
と、ここ1週間、小枝と接してきていたためか、段々と彼女の性格を理解していた様子のカトリーヌ。彼女には何か言いたいことがあったようだが、藪蛇を警戒してか、黙っておくことにしたようである。
それから小枝はカトリーヌに対し、冒険者ギルドの登録証を渡して、そのまますぐにDランクとなった。おそらく明日か明後日辺りからは、Cランクへの催促が始まるに違いない。
そんな儀式(?)が終わった後。小枝は、掲示板から外してきた今日の依頼書を提出する。それを受け取ったカトリーヌは――、
「隣町まで荷物の配達、か……この手の依頼、初めてね?」
――意外そうな表情を浮かべた。
一方、意外に思っていたのは小枝も同じだったようである。
「ですが、この依頼は本来、商人の方や配送業の方のお仕事なのではないですか?」
「はいそうぎょう……?よく分かんないけど、本当は定期的に隣町まで商人が行き来してるんだけど、次に行くのは5日後なのよ。でもこの依頼は急ぎでさ?商人の場合、少量の荷物を運ぶって割に合わないから動いてくれないのよ。だから、こういった急ぎの依頼は冒険者向きの仕事ってわけ」
「(配送業って無いのですね)そうなのですか」
「そうなのよ。でもちょっと待ってよ?今日と明日辺りは、コエダ様の料理はお預けになるってことよね…………本当にやるの?」わなわな
カトリーヌは問いかけた。すごく嫌そうな表情を浮かべながら問いかけた。彼女がなぜ嫌そうな表情を浮かべていたのかは言うまでもないだろう。
「えぇ、やるつもりです。パーティーαのメンバーにも、せっかくですので冒険者としての経験を積んでもらいたいのです(私自身も色々歩き回りたいですし……)。ちなみ距離はどのくらいですか?」
「歩いて丸1日。往復で2日。今から出たんじゃ、着くのは深夜になりそうだから、帰りは順調に行って明明後日ってところかしら?」
「では、30から40kmくらいということですね」
「測ったことは無いけど、多分、そのくらいだと思うわ?」
「では午前中……いえ、今日の内に片付けてきます」
「えぇ、分かったわ…………えっ?」
と、小枝の発言に耳を疑うカトリーヌ。しかし、彼女の視線の先にいた小枝はニッコリといつも通りの笑みを浮かべていて……。それ以上、事情を問いかけられるような雰囲気が出ていなかったためか、カトリーヌはため息交じりに、依頼書にギルドの承認印を押下したようだ。
◇
というわけで。
「じゃぁ、パパッと行って、パパッと帰ってきましょう。ガイアスさんがいつ来るとも限りませんから」
いつもの4人組は、ブレスベルゲンの町の外までやってきていた。そこでアルティシアは気合いを入れる。
「目的地はブルースワンプフィールドでしたね。えっと……頑張って歩きます!」
ここ数日、冒険者として活動してきた彼女の足腰は、それなりに鍛えられてきたわけだが、未だ非力なことに変わりは無く……。正直なところ、走破する自信は無かったようである。それでも弱音を吐かなかったのは、小枝たちに迷惑が掛かると思っていたからだろう。
そんなアルティシアの内心を察してか、小枝は首を横に振る。
「いえ、歩いては行きません」
それを聞いた途端、アルティシアと同時に、グレーテルも反応する。
「転移魔法を使っていくの?でも、ブルースワンプフィールドなんて行ったことないから分からないわよ?」
そう口にするグレーテルに対しても――、
「いえ、転移魔法も使いません」
――小枝は首を振った。
するとノーチェが――、
[ ぱらせーりんぐ? ]
――と黒板に書くのだが……。小枝はそれも否定した。
「いえ。今日はこれまで学んできた知識を生かして、乗り物を作って向かおうと思います。ただし作るのは私ではありません。皆さんです!」
その言葉を聞いたアルティシアたちは、3人ともが面食らったように眼を点にして唖然とした。乗り物など、そんな突貫で作れるようなものだっただろうか、と3人共が同じ事を考えたのだ。
しかし小枝が冗談を言っているわけではないことを察して、すぐに頭を切り替える。
「……これも授業の一環、ってことね?」
グレーテルが問いかけると小枝は首肯した。
「その通りです。所謂、課外授業ですね。まぁ、最悪、飛んでいけば数分で着く距離なので、失敗しても構わないと考えていますが……成功したら、今日の晩ご飯は奮発しますよ?」
と、小枝が口にした瞬間、明らかにその場の空気が変わる。
[ やる! ]
「ご飯を奮発……」ごくり
「しゃぁないわね……」わきわき
「材料は木で良いでしょう。強度が必要な部分がありましたら、私が金属で作成します。欲しい工具があったら用意するので言ってください」
「…………」こくこく
「分かりました先生!」
「ってことは、まず木の生えている場所に移動しなきゃね?転移するわよ?」
ブゥン……
そしてその場から姿を消す、4人組。こうして、アルティシアたちの唐突な課外授業が始まった。




