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9日目午後-04

 エカテリーナが一人、領主の館で絶望(?)に打ちひしがれていた頃。夕暮れの町に、1人の老人がやってきていた。


 高くそびえたつ町の外壁に、彼は鋭い視線を向けて、誰に向けるでもなく一人毒づく。


「さて……蛇が出るか、大蛇が出るか、それともドラゴンか、ただの蜥蜴か……」


 青いローブを羽織った老人がそう口にした直後、その場に強めの風が吹き荒れる。瞬間的に地面に埃や枯れ葉などが舞い、町の入り口に並んでいた冒険者や商人、あるいは門番たちは、思わずその目を瞑ってしまった。


 そして、その突風が収まった後。皆、何事が起こったのかと目を見開き周囲を見渡すのだが……。特に変わった事はないと判断したのか、皆、何事も無かったかのように検問の手続きに戻っていったようだ。……そこから1人の老人の姿が忽然と消え去っていることに気付くこと無く……。


  ◇


「おっと、いけません。私としたことが、重要なものを買うのを忘れてしまったようです。というわけで姉様」


 同時刻。シチューパーティーから差し入れられたキジ肉を鍋の中に入れていた小枝が、ふとそんな声をあげた。


「……小枝。嘘はいけない」


「私としたことが重要なものを買うのを忘れていました」しれっ


「…………」


 どうやら小枝には、材料を忘れていたという発言を取り消すつもりは無いらしい。あるいは、その場にいた者たちに料理を作る姿を観察されていたので、これ見よがしに人間アピールをすることにしたのかもしれない。


「……何?」


「鳥肉を煮込むのに月桂樹(ローレル)っぽい葉っぱが必要だと思うのですが、ストックが切れている事をすっかりと忘れていたのです。今ならまだ市場が開いていると思うので、買ってきていただけませんか?姉様」


「……仕方ない」


 キラは諦めたようにそう口にすると、外に向かって歩いて行こうとした。そんな彼女の服を——、


   くいっ……


——誰かが掴む。黒い髪と黒い尻尾、そして黒い獣耳をもった少女。ノーチェだった。


[ ノーチェもいく! ]キラキラ


「…………」すっ


 無言のまま、ノーチェに手を差し出すキラ。するとノーチェはその手を嬉しそうに取って……。2人は仲良く近所のフェアアベニューまで、ローレルの葉に似た薬草を買いに出かけたのである。


  ◇


 黄昏の空の下を、似たような黒い髪色の女性と少女が歩く。その様子を遠くから見ると、母子か姉妹か、どちらとも言える雰囲気に包まれていたようだが、近くで見るとその違いは明らか。少女の方——ノーチェの頭と腰からは、それぞれ獣耳と尻尾が見え隠れしていて、まったく隠していなかったのだ。小枝やアルティシア、あるいはグレーテルの正体を知った今では、獣耳や尻尾を誰かに見られることなど、些細な事でしかなくなっていたらしい。あるいは、彼女が獣耳と尻尾を揺らしている姿を知人の多くが見ていて、それでもなお彼ら、彼女らが、ノーチェのことを受け入れていたことも影響していたのかも知れない。


 そんな彼女の様子を、今日もゾンビ化して木下家の周囲を徘徊していた町の者たちが目撃する。その結果、皆、驚いたような表情を浮かべていたようだが、反応はそれだけ。再び彼らは、三大欲求の内の1つに耐えきれなくなったのか、木下家の周囲を徘徊し始めたようだ。その際、少なくない者たちの手の中に、何も味の付いていないパンが握りしめられていたのは、匂いをおかずにパンを食べようとしていたから……。


 その直後——、


   ゴォォッ!


——町の中を突風が吹き抜けて——、


   ふわりっ……


——風でノーチェの髪の毛と尻尾が舞い上がる。するとノーチェは反射的に、両手で頭を押さえながら、尻尾でスカートの裾を押さえるというテクニックを披露する。


 一方、キラは、吹き抜ける風の中でも何のその。いつも通りに眠そうな表情を浮かべながら、突然の風に四苦八苦している様子のノーチェに気を配る。


「……大丈夫?」


「…………」こくこく


「……そう」


 ノーチェに何も無いことを確認してから、再び歩き始めるキラ。すると、直前まで吹き抜けていた風は突然、何事も無かったかのように収まり……。普段通りの夕暮れの町が、その場に戻ってきた。


 ただ違うことがあるとすれば——、


   ごとんっ!


「えっ?」


「    」ちーん


「ひぃっ?!」


——小枝家の近くで、領主のアルティシアの護衛、という名目で、今日も晩ご飯を食べるために木下家に突入するタイミングを伺っていたアリスの横。そこにあった樽の中に、いつの間にか老人が逆さの状態で突き刺さっていたことくらいである。


 しかし、ノーチェがそれに気付いた様子はない。キラは一瞬だけアリスに目配せして、不器用な様子でウインクを飛ばしていたようだが、薄暗い町の中で彼女の行動に気付いた者は誰一人としておらず……。結果、キラはどこか残念そうに肩を竦めると、嬉しそうなノーチェと共に、市場のあるフェアアベニューへと足を向けたのであった。


……名乗り?

文章の無駄ゆえショートカットするのじゃ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 281/281 ・まさかの着地失敗!? [気になる点] 風でフッと消え去る演出はカッコいいです。 [一言] ノーチェの変化、なるほどこういう表現もあるんですか
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