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2日目-14

「「「ああっ!」」」


 ギルドの中に入ってきた男たちが、一斉に小枝の存在に反応する。その視線は、まるで化け物を見るかのようで……。3人とも揃って、小枝の事を、人間だとは思っていなかったようである。


「化け物め!」

「アンデッドの魔物め!」

「こんなところにいやがったのか!」


 3人に暴言を浴びせかけられていた小枝は、しかし一切の反応を見せなかったようである。怒りも無ければ、悲しみも無く、ただただ無反応、無関心。その様子は、ギルド職員たち、あるいは事情を知っていた他の冒険者たちにとっては、あまりに恐ろしい光景で……。今にも暴発しそうな爆弾のように見えていたようだ。


「あ、あいつらを放り出せ!」

「手段は選ばん!黙らせろ!」

「構うなヤれっ!」


「「「えっ?ちょっ……」」」


バキッ、ドゴッ……


 その途端、3人は冒険者たちに襲われた。3人とも抗議の声を上げる暇も無くロープでグルグル巻きにされ……。そしてギルドの外へと放り出されてしまう。ギルドにやってきて約1分。空気が読めない彼らに為す術は無かったようだ。その際の、男たちの表情を説明するのは極めて困難だが、強いて言うなら——理不尽に襲われた小動物のような顔をしていた、と言えば分かって貰えるだろうか。


 そして、ギルドの中が静かになった後。


「……おっほん。しゅ、集計をするのを手伝っていただけますか?」


 小枝に対応していた男性職員が、何事も無かったかのように、小枝に対して問いかけた。


「えぇ。では、10本ずつ分けますね」


 小枝自身はやはり男たちの言動に無関心だったのか、男性職員に向かってそう答えると——、


ザザザザザッ……


——まるで札束を数える機械のように、目にも留まらぬ早さで、薬草を10本ごとに分け始めた。


「「「?!」」」びくぅ


 まだ、最初の10本も数えていないというのに、机の上が10本束の薬草でいっぱいになってしまう。小枝が仕分ける作業よりも、ギルド職員の確認作業の方が圧倒的に遅かったので、簡単に詰まってしまったのだ。


 その結果、男性職員の表情は、真っ青に染まっていった。今の現状では、早くしろ、と小枝から急がされてもおかしくない状況だったからだ。


 しかし、小枝にそのつもりは無かったらしい。彼女も男性職員がなぜ顔を青くしたのか理解していたようだ。


「急ぐ必要はありません。ゆっくりで良いですよ?その間、次の依頼でも見させて貰いますから」


「す、すみません……」


 小枝がカウンターから去って行った結果、男性職員の作業速度が幾ばくかは上がるものの……。手が震えていたためか、確認作業が終わるまでには、もうしばらく時間が掛かりそうであった。


 そんな作業を横目に見ながら……。小枝は仮設の掲示板へと向かった。もちろん、彼女が向かった先は、最低ランクの掲示板である。


「さて、次の依頼はどれにしましょうか……」


 そこには、薬草の採取の他、畑仕事の手伝い、山菜採取、害虫退治など、子どもでも安全にこなせるような内容の依頼が並んでいた。ゴブリンやスライムなどの魔物を討伐するという戦闘に関連する依頼は存在しない。魔物の討伐が依頼として出てくるのは、一つ上のEランクからである。


 そんな依頼の中で、小枝の目が留まったのは——、


「(畑仕事ですか……)」


——町の外に広がる農園での手伝いだった。この季節はブレスイモという芋が取れるらしく、その収穫を手伝うというのが依頼らしい。


「(じゃぁ、次は、これにしましょっと!)」ビリビリッ


 掲示板から芋掘りの依頼を破ると、小枝はそれを手にしながらカウンターへと戻った。するとそこでは、未だ、ブレスヨモギの確認作業が続いていたようである。まぁ、それも当然のことだろう。小枝がカウンターから去ってから、まだ10秒程度しか経っていないのだから……。


 ちなみに、ブレスヨモギの1本の重さはおよそ10g。10本1束で100g。それが300束で30kgである。重さだけが評価の基準なら、天秤に掛ければ一瞬で計量が終わるはずだったが、小枝が受けた依頼は計量で報酬が決まるものではなく……。状態の良さ、大きさ、鮮度、本数など、およそ10点ほどの評価基準を元に、報酬が決められるという依頼だった。あるいは本当にブレスヨモギだけが含まれているのかを確認する必要もあるだろう。


 そのせいで、遅々として、評価が進まなかったのだ。これが、普通の冒険者や子どもが持ち込む程度の少量なら、数分から数十分程度で終わっていたはずである。しかし、小枝が持ち込んだ薬草の量は、通常の10倍以上。評価には最低でも1時間は掛かる様子だった。


 ゆえに、その様子を見た小枝は遠慮することなく、男性職員に向かってこう口にする。


「まだ時間が掛かりそうなので、あとでまた来ても良いですか?それでも良ければ、待っている間にこの依頼を受けたいのですが……」


 小枝のその問いかけに対し、男性職員は首肯を返した。そこにどんな意図があったのかは定かでないが、依頼に出かけると言った小枝の言葉を聞いて、男性職員はホッとしたような表情を浮かべていたようだ。


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