7日目-05
小枝たちは黒髪の獣人の少女ノーチェを家に連れ帰ってきて、彼女のために食事を準備した。その食事は新しく作ったモノではなく、夕飯の残りと、作りすぎたシチューである。
「はい、どうぞ」
「…………」ぽー
「食べて良いですよ?」
「!」
パクッ
「…………」ぶわっ
「……小枝」
「いえ、姉様。泣かせてようとして泣かせているわけではありません。皆さんなぜか私の料理を食べると泣き始めるのです。おかしなものは入っていないはずなのですが……。今度試しに姉様がお料理を作ってみて下さい」
「……グレーテルは泣かせたことがある」
「あぁ、そうでしたか……。彼女を看病した時の話ですね」
「…………」ぽろぽろ
小枝から出された食事を、ノーチェは泣きながら食べていた。泣くほどに美味しかったのか、あるいは泣くほどに空腹だったのか……。いずれにしても、彼女の表情は、食事が進んでいくに連れて、幸せな色に染まっていった。
そしてデザートのシャーベットを食べ始めて、彼女の幸せ度合いが最高潮に達した頃。小枝とキラは自己紹介を始める。
「ノーチェちゃん。食べながらで良いので聞いて下さい。私は小枝。冒険者をしています」
「……私はキラ。小枝と同じく冒険者をしている」
「(コエダお姉ちゃんと、キラお姉ちゃん?)」
「そうです」「……そう」
ノーチェが動かした口の動きに対し、小枝とキラは、揃って肯定の言葉を返した。
するとそれを見たノーチェが、なぜか驚いたような表情を見せる。
「(もしかして……キラお姉ちゃんも、私の言葉分かるの?!)」
「……分かる」
「(ほんと?!)」ぶわっ
「ああー、姉様〜」
「……不可抗力」
と、小枝から向けられた非難の言葉を、いつもの眠そうな表情で、さらりと退けるキラ。
一方、小枝は、目の前にノーチェがいたので、とりあえず姉に対する責任追及は棚上げにして……。ノーチェへの質問を優先することにしたようだ。
「えっと、それじゃ改めて聞きますね?ノーチェちゃんは、どこから来たのですか?」
「(……分かんない。小さな村で生活してたけど、なんていう名前の村かは分かんない……)」
「そうですか……。この町の名前は分かりますか?」
「(……大きな町?)」
「まぁ、確かに大きな町かも知れませんが、それは名前じゃないですね」
「(ごめんなさい……)」
「いえいえ、気にする必要はありません」
そう言って努めて笑みを浮かべた後で……。小枝は質問を次に進めた。
「では、次です。ノーチェちゃんはどうやってこの町にやってきたのですか?」
と、誘拐されたのか、とは直接聞かずに、オブラートに包んで問いかける小枝。それは様々な理由があっての事だったが、一番はやはりノーチェが誘拐されてきたという可能性を考えて、彼女に与える心的な負荷を極力減らしたかったからだろう。
対するノーチェは、小枝が想定していたとおり、見るからに悲しそうな表情を浮かべると、ゆっくりと口を動かし始めた。
「(森で木の実を取ってたら、急に知らない人に捕まって……それで馬車に乗せられて、耳と尻尾を誰かに見られると痛い目に遭わせるぞ、って言われて……袋に入れられて……あとは分かんない……)」
「……なるほど。そういうことですか……」
やはり思った通りの誘拐事案だったためか、眉を小さく顰める小枝。そんな彼女は内心で、今日のスケジュールを決めたようである。
それから彼女が異相空間にいる簀巻き3人組をどうするかについて頭を悩ませていると、ノーチェの目が、見るからにうつらうつらとしてくる。どうやら、お腹いっぱいに食事を食べたせいで、眠くなってきたようだ。
彼女が本格的に眠り始めてしまう前に、小枝はノーチェに対して、追加の言葉を口にした。
「ベッドを用意しますから、今日はそこで眠ってください。でも、その前に……お風呂に入った方が良さそうですね」
ノーチェはお世辞にもきれいな格好をしているとは言えなかった。元々の格好なのか、あるいは移動の途中で着せられたのかは定かでないが、彼女は所々にシミの付いた麻布で出来た簡単なワンピースを纏っていたのである。おそらくは、髪や肌にもそれなりの埃が付着しているはずなので、眠る前にきれいにした方が良いと小枝は考えたのだ。
ただまぁ、ノーチェはOFULOという単語が理解できなかったようだが。
「(お、おふろ?)」
「えぇ、お風呂です。温かいお湯に入るのですよ」
「(温かい……お湯……)」
ノーチェが何を考えたのかは定かでないが、彼女は小枝のその発言を聞いて眉を顰めた。
その反応を見た小枝は苦笑を浮かべながら、ノーチェが何を考えているかを想像しつつ、説明を追加する。
「触れないくらい熱いお湯ではなくて、触ると心地よくなるぬるま湯です」
「(ぬるま湯?)」
「えぇ、そうです。……姉様?ノーチェちゃんをお風呂に連れて行ってくれませんか?私はノーチェちゃん用の服やベッドと……あと所用を片付けておきます」
「……分かった。ノーチェ?私に付いてきて」
「(うん……?)」
勝手に進んでいく2人の話について行けなかったのか、事情が飲み込めていなさそうな表情を浮かべながら首肯しつつも、首をかしげるという器用な行動を見せるノーチェ。キラはそんな彼女の手を握ると、自宅地下にある岩風呂へと向かったのである。
ノーチェ嬢の絵柄が思い浮かばぬのじゃ……。




