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2日目-04

 鐘が放物線を描きながら大空へと飛んでいっても、衛兵たちが起きる気配はまったく無かった。一瞬で鐘を吹き飛ばしてしまったせいか、気付いて貰えなかったようである。


「(この町……普段から平和なのでしょうね……)」


 小枝は無理に衛兵を起こすのをやめた。それと同時に細かく考えることもやめる。これ以上、何か余計な事をすると、また面倒なことになりそう……。そんな気がしたらしい。


「(私、思いのほか、不器用だったのですね……)」


 妹と生活をしている中で、不器用の領分は妹にある、と小枝は考えていた。だが、こうして故郷の森から離れて行動してみると、不器用なのは妹ではなく、自分だと言うことに気付いてしまったようだ。まぁ、小枝基準の判断なので、人間を基準とした時に、果たして不器用といえるのかどうかは微妙なところなのだが。


「(またやることが無くなってしまいました……)」


正門の様子を見に来たら、面白そうなものは無く、ただのザル警備だった……。高級住宅街から正門に来て鐘を吹き飛ばすまで、およそ15分。町の空が白くなってくる気配は未だ見られない。


 仕方がないので、小枝は、町の外に出て、この世界の空を飛び回ってみようかと考えたようである。この町を中心にぐるりと飛び回れば、もしかすると妹のワルツの気配の痕跡くらいは見つかるのではないか、と考えたのだ。


「(正門がガッチリと閉じられていて、警備が厳しかったらどうしようかと思いましたけど、これなら問題は無さそうですね)」


 小枝はそう判断すると、町の外に向かって歩き出そうとして——、


「…………?」


——何かを見つけたのか、不意に立ち止まった。


 彼女の視線に映ったのは、門では無い場所——具体的には町を取り囲む石の塀を登って、その上から町へと入ってくる者たちの姿だった。数は3。皆、闇で衣を染めたような黒装束を着ていて、普通の人間の目には映らないのではないかと思えるほどに、巧みに夜闇を操っていたようである。


 しかし、小枝の基準は、人間から大きく外れているらしい。


「(侵入者でしょうか?隠れるならもっと、やりかたというものがあると思うのですが……)」


 赤外線からX線まで知覚できる彼女の目を使えば、闇夜に紛れていようと、壁の向こう側にいようと、水中に沈んでいようと、隠れることは不可能。それこそ、現代世界で開発された最新鋭の光学迷彩でも使わなければ、話にならないのではないだろうか。


「(……時間もありますし、彼らの後を付けてみましょう)」


 そう考えると同時に、小枝の身体を動かした。町の中を静かに駆けていく黒服の集団を、建物を挟んだ別の道から透視しつつ、彼女もまた音を立てることなく静かに移動を始めたのだ。


 彼女の追跡は、町の外周に広がっていた繁華街から、内周の高級住宅街へと差し掛かる。すると黒服の集団は、一斉に3方向へと分かれた。1人は時計回りに、1人は反時計回りに、そしてもう一人は——、


「(下水ですか……。よくやりますね……)」


——町の中にあったマンホールを開けて、その中へと姿を消した。


 3人の後を付けていた小枝としては、下水に潜ってまで彼らを追いたくはなかったようである。彼女が黒服の集団を追っているのは、単なる好奇心。汚物まみれになってまで、チェイスを続けるつもりはなかったのだ。


 ゆえに彼女は地上を行く人物の後を追いかけることにする。


「(右に行きましょう)」


 先ほどと同じように反時計周りに進む事を決めた小枝は、周囲に人がいないことを確認してから、ふわりと宙に浮かんだ。そして住宅の屋根にそっと着地して、黒服の人物の行動を視線で追いかける。


 小枝が観察していた人物は、他の者たちに見られないよう、慎重に町の中を進んでいった。時には物陰に隠れ、時には敢えて音を出して衛兵や門番たちを誘導しつつ、前へ前へと進んでいく。


 しばらく進んで黒服の人物がやってきたのは、領主の館の正門前。そこには時計回りに回ってきた人物の姿もあって……。どうやら2人とも、領主の館に用事があったようだ。なお、下水を進んで行った者の行方は不明である。


「(きな臭いですね……)」


 黒服たちのことを観察していた小枝は、これから取るべき行動について考えていた。ただ、彼女はこの時、人間のいざこざに首を挟もうとは思っていなかったようである。


 ……自分は別の世界の存在。ゆえに、人の生き死に首を突っ込むなど、あってはならないこと。それなら最初から人に興味を持たなければ、怒りを覚えることも無いし、悲しいと覚えることも無い……。彼女はそう考えていたのだ。


 ゆえに彼女は、黒服の集団の行動を妨害せず、ただの野次馬を決め込むことにしたようである。領主が殺されようとも、黒服たちが返り討ちにされようとも、ただ出来事を見守るだけ……。


 彼女はそのつもりで、領主の館に侵入する黒服たちの背中を追いかけていったのである。


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