7日目-03
現代世界での諸用を済ませた後、小枝とキラは再び異世界へと戻ってきた。そんな2人は、アルティシアとグレーテルが自室でぐっすりと寝ていることを確認してから、町の中へと繰り出していく。
「どうやってワルツを探しましょう?」
「……呼びかけても応答が無い」
「そうなのです。無線通信システムが故障したのか、はたまた遠く離れた場所にいるのか……」
「……機動装甲のスペックを考えるなら、遠く離れた場所にいる可能性が高い」
行くあては特になく、夜の帳に包まれた町の中を歩きながら、2人は失踪した妹のワルツについて相談を交わしていた。彼女がどうなったのか、どこにいるのか、どうやって探せば良いのか……。現状、ワルツの居場所についてまったく見当が付けられていなかった2人は、あれやこれやと考えるものの、良い答えは見つけられず……。円形に広がる町の中で、思考の堂々巡りを繰り返していたようである。
結局、当初この世界に来た当時に小枝がたどり着いた結論と同じく、冒険者として活動しながら、ワルツを探すネットワークを形成する、という答えに落ち着いた2人は、しかし足を止めることなく、黙々と町の中を歩くことになった。そんな2人の目的は特に無く、強いて言えば、早朝に冒険者ギルドが開くまでの間、町の中を散歩しながら時間を潰そうとしていた、といったところだろう。
そして町の中をぐるりと回るフェアアベニューを反時計回りに歩くこと3周目。昨日のスライム騒ぎとは打って変わって静まりかえっていた下水処理施設の前を通過し、ピンク色の光が窓の所々から漏れる怪しげな店が建ち並ぶフェアアベニュー4丁目に入った――そんな時のことである。黒い服を着た3人ほどの者たちが、路地から路地へと移動していく姿が小枝たちの目(赤外)に映ったのだ。
それ自体は特に問題のあることではなかった。黒い服を着て、一目を憚りながら町の路地を歩いているからと言って、全員が全員怪しい者たちというわけではないからだ。町に昼間の姿があるとするなら、当然夜の姿もあるのである。彼らはそんな町の夜側で生きる者たちなのだ。
ただ問題は、彼らの背に負われていた袋の中身だった。それを見た途端、小枝が何も言わずに動く。
フサァ……
異相空間に溶けて、音もなく近付き、BBSウールのハンカチで顔を一撫で……。その瞬間、路地裏を歩いていた男は——、
ズサッ……zzz……
——まるで糸が切れたマリオネットのように、地面に崩れて眠ってしまった。
彼と一緒にいた他の者たちもほぼ同様である。他の者たちは、小枝ではなく、キラのBBSウール攻撃(?)を受けて、意識を失ったようだ。
そして全員が眠った後で、2人は異相空間から姿を見せる。
「すごい効果ですね……このハンカチ」
「……そんなことはどうでもいい。何か見つけた?」
「えぇ、この人が背負っているこれって……」
前後を挟まれる形で2番目を歩いていた男が背負っていた黒い袋。小枝はその袋の紐を軽々と引き千切って、袋の中身を覗き込んだ。
その瞬間である。
「ひぃっ?!」
袋の中から、なにやら恐怖の色を含む声が聞こえてきたのだ。
袋の中にいたのはボロボロの服を着た人間。それも6歳くらいの女の子だった。黒い服を着た男たちは、どこからともなく子供攫ってきて、そしてどこかへと運んでいこうとしていたようである。
「……小枝」
「いや、さすがに無視は出来できませんって」
「……違う。小枝は優しい」
「えっ?」
「……男たちを殺してない」
「それはまぁ、この町や国の文化が分からないのですから、事実を確認せずに殺害するというのは、よろしくありませんからね。それに、もしも"真っ黒なこと"をしていたとしても、背後関係を洗って全滅させないと、ゴキブリと同じく、いつまでもどこからともなく湧き続けますし……」
と、穏やかな表情で、穏やかではない発言を口にする小枝。どうやら彼女としては、もしも男たちが子供の誘拐に手を染めていたのだと確定した場合、文化がどうこうなど関係無しに、関係者を根絶やしにするつもりでいるらしい。まぁ、実際にやるかどうか不明だが、少なくとも彼女は相当怒っているようだ。
しかし、それを表に出すことなく(?)、小枝は努めて優しげな笑みを浮かべながら、袋の中にいた少女に向かって質問を投げかけた。
「もう大丈夫です。安心してください。貴女のことを運んでいた人たちは、そこで眠っています」
「…………」ぷるぷる
小枝が優しく話しかけても、袋の中の少女は両手で頭を押さえたままで、身を小さくしていた。どうやら怯えているらしい。
「貴女のお名前は?」
「…………」ぷるぷる
「……急な展開なので怖いのですね」
小枝はそう言った後、異相空間からあるものを取り出した。小さな袋に入ったスノーボール。昨晩の夕食後のデザートとして余計に作っておいた、ココアパウダーたっぷりのクッキーである。
彼女はその袋を開けて、少女へと差し出す。
「これを食べれば落ち着くはずです」
小枝が差し出した甘い香りのする菓子は、少女が抱いていた恐怖を押さえ込み、好奇心を引き出したようである。
結果、少女は、警戒するような視線のまま、小枝と菓子を交互に見つめてから——、
「…………?」
——小さく首を傾げた。食べても良いのか、と質問しているかのようである。
「えぇ、是非食べてください」
「…………」
少女はもう一度だけ小枝のことを見上げると、頭を押さえていた両手の内、1つを解放して、小枝が持っていた袋へとその手を伸ばした。
夜の町の薄暗い路地。その中で黒い髪の少女の姿をじっくりと観察するのは、常人には難しい事だといえるだろう。だからこそ、少女は、その手を頭から放したに違いない。手を放しても、頭の上にあるものを見られることは無い……。そう判断したからだ。
しかし、そこにいたのは、現代世界でも超兵器に分類されるガーディアンである小枝とキラ。彼女たちにとって"暗さ"とは辞書に書いてある単なる文言にしか過ぎず、暗い路地の中でも昼間と同じように少女の姿をハッキリと見ることが出来たようだ。
だからこそ——、
「…………!」ぱぁっ
——と、花が咲いたように満面の笑みを浮かべる少女の頭と腰に、本来、人にあるはずの無いものが揺れている姿も容易に見ることが出来たようである。
No Fox, No Life!




