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7日目-02

昨日、サボりたいと言っておったじゃろ?

あれは本気のことなのじゃが、身体がサボることを拒否するのじゃ……。

もう、意味が分からぬ……。

 2人とも初めて温泉に入るということもあって、入浴前に小枝による温泉マナーの講義を受けることになった。曰く、風呂に入る前には身体と頭を洗って清める。曰く、風呂に浸かる際には髪の毛が温泉の水に濡れぬようバンド等で縛る。曰く、タオルを湯船に入れない。曰く——、


「湯船の中で寝たら窒息するので寝ないでくださいね?」


——寝たら死ぬ。そんなレクチャーを受けた後、アルティシアとグレーテルは神妙な面持ちで浴室へと入った。


 そして2人揃って、壁から生えていたシャワーの使い方と便利さに驚嘆し、備え付けられていたシャンプーとコンディショナー、ボディーソープ等の異次元さに愕然とした後。


  ザバァァァァン……


 39度程度の温度に調整されていた温泉へと、身体を沈めた。


「「あ゛ぁ゛〜……」」


 年頃の女子から出るとは思えない声を上げながら、身体を包み込む湯の加減に満足げな表情を見せる2人。その際、彼女たちはこう思ったようである。……このまま眠って昇天するというのもアリなのではないか、と。


「これが天国というものなのですね……」


「えぇ……もう最高……」


 そして言葉を失った様子で、2人は湯に身体を委ねた。彼女たちの間を、心地の良い時間が流れていく。


 2人は何も喋らずとも、空気の悪さを感じることは無かったようだ。元々、相性が良かったらしく、良好な関係を築けていたのだ。まぁ、出会ってからまだ1日も経っていないのだが。


 そんな雰囲気の中で最初に口を開いたのは、アルティシアの方だった。彼女は岩風呂の天井を見上げながら、ポツリとこう呟いた。


「……コエダ様って、どこで何をされていた方なのでしょう?」


 その言葉に、グレーテルも頷く。


「そうね……。只者じゃないことは確かね。家を一瞬で作ったり、こんなお風呂まで作ったり、ご飯も美味しいし、石けんだって……なんか、おかしいし……。だけど、悪い人間じゃないっていうのも確かなはずよ?」


「そうですね……。色々な事が出来るということもそうですが……すごくお強いみたいですし……」


 そう口にしながら宙を見上げるアルティシア。彼女の頬は、のぼせているのか、あるいは別の理由があるのか、少しだけ紅を差していたようだ。


 そんな彼女に対し、グレーテルは、こんな疑問を投げかける。


「まぁ、私としては、コエダちゃんたちのこともそうだけど、アルちゃんが何者かっていう点も気になるけどね?昼間見せたあの魔力……。魔法使いでもあれほどの魔力を持ってる人間なんてそうそういないと思うんだけど?」


 それに対し、アルティシアはフッと小さく笑みを零した後で、彼女の方もまた、グレーテルに対する疑問を口にした。


「それを言うなら、私も、グレーテルさんが何者なのか興味があります。森の中で教えてくださった様々な知識……。あれらは、本の中でも見かけたことがありません」


 双方、そう口にした後で、再び無言の時間が訪れた。


「「ふふっ……」」


「まぁ、お互い、正体を隠していると言っても、コエダ様やキラお姉様ほどではないでしょう」


「それは同感ね。ホント、あの2人、何者なのかしら?」


 と、自分たちの事を棚に上げて、小枝とキラの正体を想像するブレスベルゲンの領主と、魔女の森の支配者。そんな2人の会話を小枝が聞いていたなら、おそらく彼女も笑っていた事だろう。


「……っと、そろそろ上がらないとのぼせそうです」


「そうね。良いお湯だったわ?」


「ところで……このお風呂、もしかして、毎日入れるのでしょうか?」


「……まぁそうなるでしょうね。やっぱりここ、天国じゃないかしら?」


「……同感です」


 美味しい食事と、最高の風呂、そして意識を奪われるほどに気持ちの良い寝具。果たしてこれ以上の環境が整っている家が、この世に存在するのか……。アルティシアとグレーテルは確信していた。小枝がいるこの家しかない、と。


  ◇


 その後、風呂から上がったアルティシアとグレーテルが、BBSウールの布団にダイブして、そのまま昇天した後。


 小枝とキラは、事前に申し合わせていた通り、現代世界へと戻ってきた。小枝の場合は、長時間家を空ける前に、自宅の冷蔵庫の中身を空にしておかなければならないというタスクがあり……。そしてキラの方は、弟のジョンに、無理難題を押しつけるという日課(?)があったからだ。


 とはいえ、2人ともそのタスクに時間が掛かるわけではなく、一瞬で終わったようである。小枝の場合は冷蔵庫の中身を異相空間に押し込むだけ。そしてキラの方も——、


『……ジョン』


『……なんだよ、キラ姉』


『……世界の命運はジョンの肩に掛かってる』


『いや、意味がわかn——』ブツンッ


——といったように一方的に通信して、意味不明な役割(?)を押しつけるだけで終わるからだ。


 そして、彼女たちの異世界生活7日目が本格的にスタートした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 178/178 ・あ“ぁ”〜、39度っていいですね〜。温泉の記憶がよみがえる〜 ・髪を留めるの大事ですよね。知らんけど [気になる点] BBSジワる。このなんていうか得体の知れないパワ…
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