6日目午後-13
市場でまともな肉を見つけられなかった小枝は、料理に肉を使う事を諦めた。しかし、だからといって小枝には、夕食を作らないという選択肢も取れなかった。もしも食事が作れない、となった場合、"ではどこで夕食を摂るのか"という話に発展して、最終的にヘルズキッチンで食事を摂らなければならなくなる未来が容易に想像出来たからだ。
その結果、小枝はプランBを実行することに決める。ただし、自ら動いて、森で魔物たちを乱獲してくるというわけではない。肉ではない素材を使って、料理を作ることにしたのだ。
そのためには、肉以外の材料を集める必要があった。野菜、穀物、調味料、酒などなど……。クレアに案内されつつ、食料を買い買い集めていく。
その間中、小枝は終始嬉しそうな様子だった。彼女自身、料理が好きだったので、市場に並ぶ食料に興味が尽きなかったのだ。……ただし、GTMN材料だけは除くが。
そして買い物が終わってから、小枝はそのまま直帰することになった。一方、クレアは、"Health Kitchen"で待つ兄たちやリンカーンのことを呼びに行くため、市場の人混みの向こう側に消えていったようである。彼女たちは後ほど、小枝の自宅にやって来る予定だ。
小枝が自宅に戻ってきた来た時、キラは未だ1人で機織りを続けていたようである。小枝が不在だった間、キラは自動機織り機を改良して、今では布ではなく毛布を作っていたようだ。布だと表面がチクチクとして、あまり肌触りが良いとは言えないので、いっそのこと毛皮のようにしてしまえばフカフカになって肌触りも良くなると考えたのだ。
そのおかげで、部屋の中の様子は、1時間ほど前とは見違えるほどに変化していたようである。柔らかそうな絨毯。ふっくらとしたソファー。椅子の上に置かれた座布団などなど……。贅沢にウールを使って、家財道具が飾り付けられていたのだ。
小枝から見る限り、家の中は、十分と言えるほどに飾り付けられていたようである。……にもかかわらず、なぜキラは機織りを続けていたのだ。小枝はその理由が分からず姉に向かって質問した。
「姉様……もしかして売る気ですか?」
「……たくさん取り過ぎた。まだ余ってる」
「否定はしないのですね?」
「……売るかどうかはまだ決めていない。この町の市場調査をした後で決める」
「なるほど。確かにニーズが無いのに売っても仕方ありませんからね」
と、姉の言葉に相づちを打ってから。小枝は思いだしたかのように、姉に向かってこう言った。
「そうでした。後でこの家に、例の4人組がやってきます」
「……例の4人?……シチューの兄妹と、アメリカの大統領みたいな名前の人……」
「そうです。姉様も顔はご存じですよね?いつも映像を見せていますし……」
「……分かる。GTMN料理が大好き」
「なんか、話を聞く限りでは、色々と複雑な背景があるらしいですけれどね。それでなのですが、せっかくですので、姉様が作った布製品を、4人に評価して貰うというのはいかがでしょうか?ほら、リンカーンさんは商人ですし、この町だけではなくて、この国全体のニーズについてもご存じかも知れませんよ?」
「……なるほど」
そう端的に答えた後で、再び無言になり、機織り機で布を作り上げていくキラ。その反応はキラにとっての肯定。どうやら彼女は、布の評価について、小枝に一任することにしたようだ。
姉のその様子を見た小枝は、副音声(?)を感じ取ると、クレアたちのことを持てなすために、夕食の準備を始めることにしたようである。作ったばかりのキッチンに、買ってきた食材をずらりと並べ、料理を作る順番について考え始めた。
「(時間の掛かる根菜は、先に火を通しておきましょう。その間に調味料の味を確認して、ダメそうだったら……一旦、元の世界に戻って調味料を取ってくるというのも手かも知れません)」
クレアたちがやって来るまでの短時間で、どこまで出来るのか……。一抹の不安を覚えながら、小枝は寸胴の鍋に地下水をくみ上げて、その中に根菜を入れて煮込み始めた。
小枝の"力"によって、まるで魔法のように一瞬で沸騰して、そしてグツグツと音を立てている寸胴鍋。その様子を横目に見ながら、小枝は調味料の確認を始めた。
「塩は……まぁ、塩ですね。ハーブも……まぁ、ハーブです。鷹の爪っぽいコレは……ほうほう?中々に辛いですね。ニンニクっぽいコレは……えぇ、ニンニクそのものです」
香辛料を少しだけ指先に乗せて、味見をしていく小枝。その結果、良好。調味料の味は、現代世界のモノと大差無かったようだ。
ただ……。何も問題は無い、というわけではなかった。
「(……やはり問題は旨み成分ですね。タマネギのような野菜は買ってはきましたが、タマネギやニンニクを煮込んだだけでは、出汁としてパンチが足りないはずです。鶏ガラや豚骨、あるいは魚のような物があれば、また話は別だったのですが……)」
そう、出汁を取れそうな食材が無かったのである。
この時、小枝は、現代世界に戻って、出汁を取ることのできるものを回収しに戻ろうかとも考えたようだが、考えた末、思いとどまることにしたようだ。せっかく異世界にいるのだから、この世界の材料——それも今目の前にあるものだけを使って、出汁を取ることにしたのだ。
こうして小枝の異世界料理が始まる。この国では誰もやっていない、"科学"を使った調理だ。
……朗読を聞いたせいで、文の書き方に影響が出てしまったのじゃ……。
もうダメかも知れぬ……。




