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2日目-01

 その日、小枝は自宅に帰った。彼女としてはすぐにでも異世界に飛びたかったようだが、家の中は妹のワルツがいなくなった時のままで……。これから異世界で活動するためには、部屋の中を整理する必要があったのだ。異世界で、食事が確保できないような事態が生じた時に備えて、保存食を用意する必要もあったようだ。


 自宅の食卓には、ワルツが使っていたマグカップが置かれたままだった。小枝はそれを手に取りながら、昨日まで食卓に座っていたワルツの事を思い出していたようである。彼女の仕草、好み、口癖。そして自分と妹の最後のやり取りを……。


 そのうちに、小枝の脳裏を、不穏な予感がかすめ始める。


「ワルツ……無事、ですよね?」


 1日掛けて、妹の気配(ビーコン)を探したというのに、痕跡すら見つけられなかったのである。もしや妹は絶望的な状態にあるのではないか……。妹のマグカップを手にした小枝は、思わず俯いてしまう。


 しかし、すぐに小枝は顔を上げた。


「……っ!いけない、いけない!私がしっかりしないと!」


 彼女は頭を振って、暗い考えを頭からはじき出した。その代わりに、これからのことについて考え始める。


「まずは情報収集ですね。冒険者として情報を集めながら、ワルツの行方を捜すとして……」


 ただワルツの情報収集をするだけでなく、どうすれば効率よく集めることができるのか……。逆に言えば、どうすればワルツに関する情報がより多く入ってくるのか……。


 考えた末、小枝の脳裏には、一つの答えが見えてくる。


「……どこまで出来るかは分かりませんが、情報を収集するための集まりを作りましょう。そのためにはお金……いえ、力が必要ですね」


 既に力を持っているというのに、小枝は今以上の力を欲した。それは物理的な力ではない。人を動かす力——権力である。


 そのために、彼女は、当面の間、冒険者になってランクを上げることにした。それだけで人々に名前を売ることが出来る上、情報収集に特化したパーティーを作れば一石二鳥になる——そう考えたらしい。まぁ、活動資金を得るという意味を考えるなら、一石三鳥と言えなくもないだろう。


「幸い、私はガーディアンです。ランクを上げてお金を稼ぐくらい、簡単に出来るでしょう。……出来ると良いのですが……。ところで、人付き合いってどうやるんでしょう……」ズゥゥゥゥン


 まるで音が聞こえてくるかのように、沈み込んでいく小枝の表情。これまで姉妹たちとしかコミュニケーションを取ってこなかった彼女にとって、人との付き合いというのは前途多難以外の何者でもなく……。色々な人々と一緒になって何かを成し遂げる自分の姿は、今の彼女の脳裏に浮かび上がってこなかったようだ。


 まぁ、それでも、妹のためなら、何だって出来る……。そんな気がしていたようだが。



「……行くの?」


 次の日の朝、7時ころ。小枝はキラの元を再び訪れていた。


「はい。行ってきます」


「……そう。じゃぁ、こっち」


 家の前で小枝を出迎えたキラは、昨日作ったばかりの検疫室へと足を向けた。その後ろを小枝も付いていく。


「……この部屋の中から転移して欲しい」


「転移?」


「……異世界だから」


 そう言って顔を赤らめるキラ。どうやら、"異世界"という単語を発言するのが恥ずかしかったらしい。


「まぁ、姉様がそう仰るのなら、否やはありません。今後は転移と呼ぶことにします」


「…………っ!」かぁっ


「それほど恥ずかしがるような事ではないと思うのですが……」


 そんな取り留めの無いやり取りをしながら、小枝とキラは、大きなコンテナのような見た目の検疫室へと足を踏み入れた。


 部屋の中は負圧になっているらしく、2人が扉を開けた途端、彼女たちの後ろから強い風が吹き込んできた。内部から外にウイルスや細菌を出さないよう工夫されているらしい。


 入り口には、強い風が吹き出る送風口が20個ほど付けられていた。さらには、消毒液が噴き出すノズルや、強力な紫外線を発する投光器まで備え付けられていたようである。


「……姉様?これ、私たちだから問題はありませんが、人間の方々は出入りできませんよね?多分、すごく目と鼻が痛くなると思うのです。あと、アルコールで酔っ払うかも知れません」


「……大丈夫。私たち以外に使わない。この世界に疫病を蔓延させる訳いかないから、このままで良い」


「……確かにそうですね。分かりました」


 少しやり過ぎ感を否めない小枝だったが、キラはキラでこの世界のことを心配しているようだったので、大人しく納得することにしたようである。


「では行ってきます」


「……1日?」


「はい、1日です。しばらくは24時間ずつ行ってこようと思います。それより長くなる場合は、いったん帰ってから、もう一度行くことにするつもりです。姉様も、景色を見たいですよね?」


「…………」こくこく


「そう仰ると思っていました」


 と、何度も首肯する姉に対し、笑みを向ける小枝。


 それから彼女は空間制御システムを起動して——、


「では、行ってきます」


ブゥン……


——妹がいるだろう異世界へと、再び旅立ったのである。


間違えて別の話にアップロードしそうで怖いのじゃ……。

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