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6日目-33

グゴゴゴゴ……!!


「い、今のは私じゃありませんよ?!」

「……私よ」かぁっ


 アルティシアの後で、グレーテルの腹部からも、盛大に腹の虫の音が鳴り響いた。どうやら、アルティシアもグレーテルも、昼食を楽しみにしていたようである。


「すみません。本当はこの自宅を作り直す前にご用意できれば良かったのですけれど……」


「……私の記憶が正しければ、コエダちゃんは、私が普段昼食を作るよりも早く家を建ててたような気がするんだけど……」

「すごいですよね。コエダ様」


「まぁ、食事なんて、適当に鍋に具材を入れて火に掛けておけば、勝手に出来るのですけれどね」


「「……えっ?」」


 唖然とするアルティシアたちを余所に、小枝は新築のリビングにあった机の上に、異相空間から取り出した弁当箱を広げていく。今日の昼食は、自分で組み合わせるタイプのサンドイッチと、大量に作ったシチュー。弁当箱を上げた途端、その場に広がる香しい匂いに——、


「…………」ぶわっ

「あぁ……良い匂い……」うっとり


——アルティシアは涙を零し、グレーテルは恍惚とした表情を浮かべたようだ。


 グレーテルもまた、ブレスベルゲン一帯——もとい、ハイリゲナート王国一帯に広がるGTMN料理の被害者(?)で、小枝の料理を楽しみにしていた1人だった。大怪我を負って、キラに面倒を見て貰っていた際、彼女はキラに料理を作ってもらっており……。キラと小枝の作る料理が文字通り異次元レベルの料理である事を知っていたのだ。


 その結果、待ちに待ちきれない様子で、弁当箱の中身を凝視していた2人に対し、小枝は——、


「……さぁ、どうぞ?準備が出来たので、()()()()()()()食べて下さいね?」


——と、口にするのだが……。その言葉を聞いたアルティシアとグレーテルが、揃って顔を赤らめた理由は不明である。



そして昼食後。アルティシアは異相空間に消えていく弁当箱の姿を、じーっと眺めていたようだ。ただしそれは、料理が少なくて、もっと食べたかったから、というわけでは——多分、ない。


「……コエダ様」


 彼女はどこか思い詰めた様子で、小枝に向かってこんなことを口にする。


「私も何かをしたいと思うのです」


「何かをしたい?何です?」


「グレーテル様は、このお家でお薬屋さんを営むつもりだと伺っています。ですが、私は今のところ、グレーテル様のようにお仕事が決まっているわけではありません。私はコエダ様方のお役に立てるようなことをしたいのです。そうでなければ私は……ただのダメな人間になってしまいます」


 自分から誘拐して欲しいと申し出ておいて、誘拐された後は食べて寝るだけ……。アルティシアはそんな怠け者にはなりたくなかったのだ。


 それを聞いた小枝は、んー、と少し考えた後で……。アルティシアに向かって問いかけた。


「その様子だと……何か考えているのですね?」


 するとアルティシアは目を輝かせて首を縦に振る。


「はい。そのために、私は冒険者になる手続きをしてきたのです。出来れば……コエダ様と一緒に、冒険をしたいと思って……」


 アルティシアはそう言って、両手を前に出した。手でお椀を作るような格好である。


 その直後、彼女の手の中に——


ボッ……


——と直径30cmほどの真っ赤な火球が現れた。火魔法の中でも、ファイヤーボールと呼ばれる類いの魔法である。


 その様子を見て、その場にいた全員が驚いたように目を見開いたのだが……。中でも驚いていたのは、グレーテルだったようだ。


「へー……。中々の魔力量じゃない。私なんか全然比べものにならないわ?」


「はい。小さな頃から、魔力だけには自信があったのですよ」


「ふーん。私もそのくらいの魔力があれば、色々な事が出来るのに……」


 と言いつつ、自身も片手を前に出して、その上に青い炎を2つ作り出し……。それをブンブンと回すグレーテル。その際、彼女がドヤッと言いそうな表情を浮かべていたのは、アルティシアに対する対抗心があったからか。


 そんな2人に対して、小枝は肩を落としながらこう言った。


「……ここ、木造建築なので、火の扱いには注意してくださいね?」


「「あっ……はい……」」しゅん


「アルティシアちゃんの気持ちはよく分かりました。そうですね……では、早速、午後からは冒険者として一緒に活動してみましょうか?」


「えっ?!本当に良いのですか?!」


「えぇ、館から抜け出したら、世界を見せても良い、って言いましたからね。まぁ、思っていたよりも、ちょっと強引な方法でしたけれど……」


 そう言って苦笑を浮かべる小枝。そんな彼女の視線の先で、アルティシアが心底嬉しそうな表情を浮かべながら、グレーテルに対してハイタッチをしていたのは、彼女と事前に相談していたから、なのかも知れない。


 そして午後から、アルティシアの新しい人生の一幕が始まったのである。……なお、裏庭の箱(?)に詰められている男たちの存在については、全員が忘れている模様。


章が長くなったゆえ、一旦ここで切るのじゃ。

次回は6日目午後編なのじゃ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 148/148 ・『ぶわっ』『うっとり』……これいいですね。 [気になる点] いつも思うんですが、火魔法は危ない! まともな人なら水と土が比較的安全で使いやすいと思ってるんですよw […
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