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2.9-84 国84

タイトルのナンバリングを修正したのじゃ。

 小枝が首を傾げ、アルティシアが絶望(?)しているその背後では、大勢の魔族たちがある行動を進めていた。ただし、彼女たちの背後で反撃を企てていたわけではない。むしろ、その逆である。


 魔族たちは皆、小枝とアルティシアに跪いていたのだ。老若男女を問わず、筋骨隆々の魔王から、幼い魔族の少女に至るまで、膝をつき、腰を折り、頭を垂れている。その様子は、まるで2人に忠誠を誓うかのようだった。いや、実際に彼らは、2人に忠誠を誓っているのだろう。彼らからは、敵意も侮蔑も感じられず、雑談の影も見当たらない。


 小枝とアルティシアは、やや遅れて魔族たちの行動に気付いた。その時点で、大半の魔族たちが2人に跪いており、場は異様な雰囲気に包まれていた。


 そんな魔族たちのリーダーである魔王に対し、アルティシアは問いかけた。


「あの……いったい何を……?」


 すると魔王は、なおさら深く頭を下げながら言った。


「もちろん、あなた様に忠誠を示す儀式にございます。どうぞ我らを、あなた様の配下に加えて下され……」


「なるほど……?」


 アルティシアは驚きの色を見せなかった。すでに彼女は、魔族たちの行動について、ある程度の説明を受けていたからだ。彼女を誘拐した魔族の男からは、"魔族とは、最も強い者を主とする脳筋集団だ"と聞かされており、さらに魔王からもつい先ほど"使い潰して欲しい"と言われたばかりだった。彼らの気持ちに裏がないことも、また自分を主として認めていることも、アルティシアは理解していた。


 そう、アルティシアは、自らの力を認識できない朴念仁ではない。彼女の周囲にいる者たちの水準が異常であるため、多少認識がズレていることは否めないものの、魔族たちが自分を最強の存在だと見ていることを率直に受け止めていたのである。


 まぁ、解せないこともあったようだが。


「(私……魔族じゃないんですけどね……)」


 アルティシアの両親も、もちろん魔族ではない。白髪で白い肌をしているのは、病弱ゆえにベッドの上で過ごす時間が長かったため。健康的な身体を得た後も、基本的に建物から出ることがなかったためである。


 ゆえに、アルティシアとしては、魔族たちから"主"呼ばわりされるのは不本意なことだった。彼女は人間であり、魔族ではないのだから、当然の思考だと言えよう。


 だからといって、"違う"と否定することもできなかった。アルティシアは魔族ではなく、人間。本当の意味で魔王になれるわけがないからだ。


 しかし、彼女は言ってしまったのだ。すでに発してしまったのだ――自分の命令に従え、と。


 アルティシアには、もはやその言葉を覆すことはできなかった。彼女は平民ではなく、貴族。ブレスベルゲンの主なのである。執政者が言葉を撤回するなど、戦で敗北を認めることと同義。


 ゆえに、彼女に残された選択肢は、一つしかあり得なかった。


「……良いでしょう。あなた方を我が配下と認めます」


「「「おぉ!」」」


 魔族たちから喜びに満ちた歓声が上がる。中には、アルティシアが人間であることを知っている者もいたが、彼らも歓声を上げていた。アルティシアが自分たちを敵と見なして戦争を続けるのではないかという不安が解消されたからだ。


 だが、ここで新たな問題が浮上する。魔族たちをどこで生活させるのかという課題だ。今いる場所にあった魔族たちの町は、もはや全壊状態。町を包み込む迷宮も甚大な損害を受けていて、いつ倒壊するとも分からない。この地は、すでに安全に暮らせる環境とは言えなかった。


 だからといって、彼らをブレスベルゲンに住まわせることもできない。彼らは長時間、迷宮の外では活動できないのだ。どうにかして、彼らが迷宮外でも生活できる方法を考えなければならなかった。


 さらに、アルティシア自身にも問題がある。彼女はブレスベルゲンの主であり、町を離れるわけにはいかないのだ。当然、どこにあるのかも分からない迷宮の中で暮らすことも不可能。もしそんなことをすれば、ブレスベルゲンを放置するのと同義になってしまうからだ。


 ただ……。アルティシアには策があった。彼女自身が迷宮の中に住む必要がなく、かつ魔族たちを目の届く場所に置く方法だ。それは――、


「あなた方には、ブレスベルゲンに来てもらいます。そして、そこにある迷宮へ移り住んでいただきます」


――魔族たちをブレスベルゲン近郊にある迷宮の中に住まわせるという策。ブレスベルゲンの近くにそびえ立つ"塔"の中に移住させるというプランである。


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