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2.9-48 国48

 魔族たちからすれば、悪夢でしかなかった。いきなり敵が現れて交戦状態に入ったことまでは、まだ理解出来ていたが——、


「い、いったん、物陰に——」

「ダメだ!後ろにもいるぞ!完全に囲まれてる!」

「いつの間——ぐあっ!」

「くそっ?!あいつら地の利を熟知してやがる!」


——いきなり全方位から攻撃を受けるとは思ってもいなかったのだ。


 後退して立て直そうにも、"後ろ"と言える方向からも敵が来ていて二進(にっち)三進(さっち)も行かず……。隠れても、なぜか的確に攻撃を受け……。敵を見つけて力で押しつぶそうにも、次の瞬間には背中から刺されて地に伏せる……。酷い有様だ。一方的な蹂躙である。魔族たちが城を奪い取った時も、防衛側は一方的にやられるだけだったが、その時の攻守をひっくり返したとしても、遙かに酷いと言えた。


 ……というのはハイリゲナート王国の王城()()での話。レゼント王国側の王城では、まったく異なる展開が繰り広げられていた。


「人間どもは、自国の城が乗っ取られたことに気付いていないのか?」

「それだけ愚かって事だろ?」

「所詮は劣等種族。畜生以下のゴミ屑ってことだ」


 王城の窓から外を眺めて、呑気に雑談に興じている魔族たちの会話通り、戦闘はまったく起こっていなかったのである。そう、レゼント王国では、いきなり戦闘は行わない作戦方針だったのだ。


 では、レゼント王国に向かった者たちは、何をしていたのか。大部分の人々は、指定された配置まで移動して、そこで息を潜めていたようだ。そして合図を待っていたようである。


 何の合図か。それは——、


「……(きん)の気配がする。こっち」


「どんな気配よ……」


——ノーチェとグレーテルによる作戦の成否である。


 彼女たちの作戦目標は、城に保管されている金銀財宝の類いを回収すること——ではない。城の中にいる魔族たちから情報を収集することが目的だ。その途中で、財宝が見つかれば、後の大規模な戦闘の際に失われると勿体ないので回収することになっている。決して、戦争のドサクサに紛れて、財宝を強奪するわけではない。倫理に反することなのだから当然のことだ。


 結果、いまいち倫理というものを理解していなさそうなノーチェと、倫理という概念があるかどうかすら疑わしいグレーテルは、レゼント王国の王城の中を彷徨い歩いていた、というわけだ。なお、彼女たちが当初の目標を覚えているかは定かでない。


「いつも思う。グレーテルお姉ちゃんの不可視の魔法、すごい」


「多分、ノーチェも使おうと思えば、使えるはずよ?」


「!」ふさぁ


「魔法ってのは、いくらでも自由に作れるものなんだから。試しにノーチェも魔女になってみる?」


「魔女になって金が集められるなら、なる!いつでも透明になれれば、金が集め放題!」


「そう?なら——」


 と、魔女になるための手続きについてグレーテルは口にしようとするが、彼女はその先の言葉を口にしなかった。ふと考えてしまったらしい。


「(ノーチェが今よりも金に()()()()なったら、それって洒落にならないんじゃないかしら?下手したら、コエダちゃんたちの逆鱗に触れるとも限らないわよね……主に私が)」


 ノーチェの習性(?)として、金という金を根こそぎ集めようとする傾向があるわけだが、彼女が魔女になった場合、より強力になった魔法を使って、世界中から金を集めようとする可能性が否定できなかった。むしろ、本人が公言しているのだから間違いないだろう。ただでさえノーチェは、ハイリゲナート王国の経済を傾かせるほどに、国中から金を集めているのだ。彼女の力がより強まれば、世界経済にまで影響を与えないと誰が言い切れよう。


「(いや、まさかね……。でも、無いとも言えないし…………うぅ、悪寒が……)」


 グレーテルは悩んだ挙げ句、今回の魔女勧誘を見送る事にしたようだ。やはり、脳裏に浮かんできた小枝の顔が決め手になったらしい。


「ごめん、ノーチェ。やっぱり、今すぐはちょっと難しそうだわ」


「なんで?」


「よくよく考えてみたら、亜人ですらない夜狐(ノクセン)族をどうやったら魔女にできるか、方法が思い付かなかったのよ」


「人種差別!」


「人種差別って言うか、狐差別?いや、差別なんかしてるつもりはないけど……」


 憤慨するノーチェと、彼女の事を軽くあしらうグレーテルという構図は、いつもどおりのこと。お互い喧嘩をしているという認識は無く、友人同士で世間話でもしているかのような感覚だ。そんな2人を傍から見れば、癇癪を起こす妹と、それに対応する姉、という構図に見えていたようだが、決してそういうわけではない。


 2人が取り留めのない会話をしながら歩いて行くと——、


「怪しい扉がある……。金の気配はあの向こうからする!」


「どう見ても、気配が出てるようには見えないんだけど……ほんとどんな気配を感じてるのかしら……」


——廊下の先に、頑丈そうな扉が見えてくる。飾り気は無いが、金属製で、まるで金庫の扉のようだった。外からでは中身を覗き見ることはできないが、ノーチェのセンサー(?)は、部屋の中に宝物の気配——いや金の気配を感じ取っていたようである。


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