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2.9-43 国43

「……そんな感じで、あの3人組の女神から、魔族を引き取ってさ?ここに来る直前まで、シェ……魔族の尋問をしてたのよ」


 グレーテルは、シェリーと一緒に魔族の尋問をしていた、とは言わなかった。この場で、彼女と一緒に尋問をしていた、と言うと、色々と問題になると思ったのだ。なにしろ、この場には、シェリーの父親であるリンカーンもいるというのに、シェリーは未だ、鋸を手にしたまま離していない状態なのだ。なにも根回しをしないままで、下手な事を言えば、魔女の公開処刑のごとく、皆から事情を追求されてもおかしくない……。そんな懸念が、グレーテルの脳裏で渦巻く。


 とはいえ、シェリーのことをこのままにしておくわけにもいかず。どう対応すべきか、とグレーテルが悩んでいると——、


「そうなんです。グレーテルさんと一緒に、魔族の人の尋問をしていました」


「ちょっ?!」


——シェリーが自ら告白してしまった。その事実を隠そうとしていたグレーテルとしては顔面蒼白だ。


 ただ、現状では、誰もグレーテルが事実を隠しているとは考えていなかったようで、変にシェリーの発言の内容を掘り下げるような者はいなかった。小枝も同様だ。


「そうだったのですね。偉いですね。シェリーちゃん」


「えへへ!」


「(……大丈夫かしら……)」


 鋸を片手に満面の笑みを浮かべるシェリーを前に、グレーテルの表情は尚更に悪くなる。鋸を手に持ったまま、嬉しそうに笑みを浮かべる幼女の姿を見て、不安にならないわけがなかったのだ。


 にもかかわらず、どういうわけか、誰もシェリーの鋸について触れようとはしなかった。そのことが余計にグレーテルの不安を増長させてしまう。


「(……なんで、鋸を見て突っ込まないの?みんな、おかしいとは思わないの??)」


 ここまで無視するとなると、もしや何か特別な理由でもあるのだろうか……。などとグレーテルが深読みしていると、唐突に小枝から質問が飛んでくる。


「それで、魔族さんは何と言っていたのですか?」


「えっ?えっと……みんな聞いてるけど、ここで話しちゃっても良いの?」


「えぇ、構いませんよ。聞いたところで結果は変わりません。すぐに耳に入るか、それとも後で耳に入るか、それだけの違いですから」


「…………そう。そうよね」


 小枝の言葉がグレーテルの胸に刺さる。隠し事をしても、いずれはバレるのだ。


 この話が終わったら、シェリーの身に起こった事を説明しよう……。そう心に決めてから、グレーテルは魔族の尋問によって得られた情報を話し始めた。


「彼らって、一言で言うなら、地底人らしいわよ?」


「……はい?」


 流石の小枝でも、グレーテルの言葉をすぐには飲み込めなかったらしい。およそ1秒程度、フリーズする。


「ごめんね。地底人っていうか、迷宮の中に住んでる種族、って言った方がいいわね」


「なるほど。迷宮の中でしたら、確かに、地底人と言えなくないですね」


「迷宮の中で生まれると、長時間迷宮の外では活動できないらしいわ?それで、迷宮の外でも活動できる代わりの身体を作って、その身体に魂を憑依させることで、迷宮の外でも長時間、活動できるようにしたみたい」


「……すみません、グレーテルさん。話についていけません。代わりの身体というのは何でしょうか?魂とはなんでしょう?」


「……そうよね。いきなり言っても分からないわよね……。でも、魂くらいは分かるでしょ?」


「"魂"という概念は理解しますが、科学的に証明されていないものですから、対峙したときに、"代わりの身体"を含めて対処可能なのか、分からないのです。よく分からないものに対応しようとしたとき、対処を間違えると、悲惨な事になりかねません」


「科学的ねぇ……。魔術的な定義なら簡単なんだけど……。まぁ、魂は、魔術的に縛ってなければ、代わりの身体を破壊した時点で元の身体に戻るだけだから、そこまで深く考えなくて良いと思うわよ?」


「分かりました。では、ここはひとまず、"魂"というものがある、という認識を持っておきます。その上でお聞きしますが、彼らは"代わりの身体"を使って、迷宮の外に出て、何をしようとしているのでしょうか?外に出たところで、長時間の活動はできないとのお話ですから、侵略というわけではないように思います。物資の略奪でしょうか?」


「それがねぇ……」


 グレーテルは難しそうな表情を見せながら言った。


「迷宮の外に、彼らの国を作ろうとしているみたいよ?」


 長時間の活動ができないというのに、魔族たちはどうやって国を作ろうとしているのか……。皆が浮かべた疑問だったが、それに対する答えを、グレーテルは魔族から引き出していたようだ。


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